「――結衣、いる?」

静まり返った保健室の中に響くその声にわたしの心臓が飛び跳ねる。

「あっ、やっぱいた。具合悪い?」

カーテンを遠慮がちに引いて顔をのぞかせたのは藤原くんだった。

具合が悪いわけではない。

ただ、教室にいられなかっただけ。

首を横に振ると、藤原くんはニッと笑った。

「じゃあ、サボろう」

そして、二つの通学カバンを顔の横で掲げて見せた。

保健室の机の上に『具合が悪いので早退します。藤原奏多 小松結衣』と連名で書き記したルーズリーフを残してわたしと藤原くんは学校を後にした。

連名で書くなんて間違いなく仮病で早退したととらえられても仕方がない。

「明日一緒に怒られよう。二人なら怖くないだろ」

と藤原くんは悪びれる様子もなくあっけらかんと言い放った。

「さてと、どこ行くか~?学校サボってこうやって学校外にいるのって新鮮だな~!得した気分」

藤原くんは大きく背伸びをする。自由奔放。まるで猫みたいな人。

【わたし学校さぼったのはじめて】

「マジで?真面目で偉い!でも、今日サボったから不良だな」

藤原くんがサボろうって誘ったからサボったのに、不良呼ばわりなんてちょっぴり心外だ。