もう二度と戻ってこないと思っていたむぎわら帽子を手に取ると、当時の様子が目の前に浮かんでくるようだった。

帽子をかぶり、目を閉じる。閉じた先は暗綺麗な砂浜だった。

手の届く場所に旦那が立っている。

「明美、大丈夫かい?」

その声に明美の涙腺は耐え切れなくなった。暖かな涙が頬を伝う。

「私。ひとりぼっちになっちゃった……」

「大丈夫だよ、君は1人じゃない」

旦那の手が明美の頬に触れる。