「え……? なに、誰……不動産屋さん? それとも……泥棒!?」

「泥棒じゃないわよー真白。今日あそこに越してきた人」

「お、お母さん!?」


 声がした方を振り返ると、玄関先で草むしりをしている母がいた。


「おかえり。あんたがバイトに行った後にねー、挨拶に見えたのよ、その人。さっきようやく業者さんたちも帰ったみたいだし。あんたもご挨拶してきたら? ちょうどほら、また戻ってきたみたいだし」

「いや、わたしはいいよ……」


 そう言うと母はニヤニヤしだした。


「ほんとにいいのぉ? その人が……九露木(くろき)さんの息子さんでも?」

「え? 嘘……!」


 九露木。

 その名を聞いた途端、わたしは自転車を放って走り出していた。