康平は出会った時と比べ、丸い性格になった。
 朱美は康平の面倒を見ながら、勇也と康平の関係も大切にしてくれた。
 康平と朱美の関係は、未だに恋人未満のお友達だ。
 けれど、心は繋がっている。……と、勇也は勝手に思っている。
 勇也には一つの野望があった。
 プロの写真家になることだ。
 コンテストにもたくさん挑戦し、小さくてもいいから個展を開き、観た人を幸せな気持ちにさせること。
 両親がいない勇也は祖父母に育てられた。
 父は写真家で、母はその助手だった。撮影先の海外で事故に遭い、亡くなったのだという。
 命は突然消えるものだ。
 命が尽きる日を知ることは不可能だ。
 そうした当たり前のことを無視して、育ての親である祖父母は死んだ二人を勇也の前で平然と罵った。
 職業を罵り、親よりも早く死んだことを罵り、平凡な相手と結婚しなかったことを罵った。そして、子供よりも仕事を愛したのだと罵った。
 小学二年生くらいまで、勇也は育ての祖父母の影響でカメラが嫌いだった。
 両親が自分よりも愛した職業が憎かった。
 自分よりも愛するものがあるならば、なぜ自分を生んだのかと呪った。
 一方で、自分よりも愛された職業が気になった。
 だから、勇也はカメラを手にした。
 育ての親ではない祖父母にねだり、買ってもらった。
 育ての祖父母は「血は争えない」と自分のことを棚に上げ、勇也を罵った。
 けれど、勇也は構わなかった。
 撮り溜めた写真は、いつしか勇也の宝物になった。好きなものを撮っているのだから当然だ。
 そうしたある日。勇也は父の作品を見て気づいた。今、自分は時間を超えて両親と同じ景色を見ているのだと。そして、感動を共有しているのだと。
 両親が自分を愛していたかどうかはわからない。けれど、これほど綺麗な景色なら撮りたくなる。しかもそれは、自分以外の誰かの心を揺さぶることが可能なのだ。
 そして、勇也はプロの写真家になることを夢見るようになった。
 元々、勇也には大切な者がいなかった。そこから今の勇也になるまで、長い時間を必要とした。
 だからわかる。
 康平と自分は似ているのだ。
 大きな違いは、生き方や価値観を変える出会いが、早いか遅いかだけだ。
 自分はカメラと出会い変わっていった。
 康平は朱美と出会い、変わっていった。そこに、少しは自分も加わっていると勝手に思っている。