最初の企画会議の日から数えると、もう十か月が経過していた。
 間もなくシンポジウム開始の時間になろうとしている。
 シンポジウムのテーマは「地元愛」。多くの聴講者、マスコミに囲まれる中で、O市の良いところ、伸ばしていくべきところをしっかりと情報発信していこう、という趣旨だった。

 客寄せパンダであるフクロウは、意図的に最初と最後に出番が来るようなプログラムとなった。講演順番は一番目。最後のパネルディスカッションにも出番がある。

 講演者控え席が講演会場の最前列に用意されているが、お願いして舞台袖で待たせてもらっていた。舞台袖からでも聴講者の熱量を十分に感じ取れる。それほどまでに、会場の期待感とボルテージが高まっていた。

 自分は今、嘘で塗り固めてこの場にいる。
 企画会議の時、「犯罪歴のある人を壇上に」という議論をしていたことを思い出す。嘘で塗り固められた自分は、ある意味そういうことなのかもしれない。

 今日の演者は、中小企業庁で地方創生を担当している課長補佐、地元の名産品キャベツを主力作物としている農業法人の代表取締役、地元の名所となっている神社の宮司、という構成だった。我々のアイデアの集大成ともいえるラインナップではあるが、並べてみるとまとまりの欠片もない。こんな面子でディスカッションなどできるのだろうか。

 そうこうしているうちに、開会時間を迎えた。司会者が壇上にあがる。
 O市長による開会挨拶は、可も不可もない無印象のままに終わり、いよいよ本題に突入。

「それではフクロウさん、よろしくお願いします」

 司会者からの呼び込みを受け、舞台へと足を向けた。