「『ハヤシライス』か……灯、手伝え」
あ、名前呼ばれたの初めてかも――。
出会った当初から『おい』とか『お前』だったので、衝撃のあまり反応が鈍る私に、那岐さんの目が据わる。
「聞いてるのか?」
「あ……はい! すぐに準備します」
私は慌てて流しで手を洗うと、那岐さんの隣に並ぶ。彼はまな板を取り出して、牛の薄切り肉を三五〇グラム、ドンッと載せる。
「一センチくらいに切って、塩コショウを振っておけ」
包丁を手渡してきた那岐さんに「はい」と返事をして、私は牛肉を切ると下味をつけた。
それから玉ねぎ二個を縦に幅一センチ間隔で、マッシュルームは一パック丸ごと石づきを取って幅六ミリ幅に切る。
「灯、マッシュルームはレモン汁をかけろよ」
「え? どうしてですか?」
「切り口の変色を防げるからだ」
そうなんだ、知らなかったな。
うちの食堂は和食が中心だったので、作れないわけではないけれど洋食にはそこまで詳しくない。
勉強になるな、とワクワクしながらニンニクを薄切りにする。続いてフライパンに用意したバターを半分敷くと、牛肉に小麦粉をまぶして入れる。
小麦粉をまぶしておくと、肉汁が出ないから旨味を封じ込めておけるんだよね。ああ、これ……お母さんに教わったな。
料理をしてると、いろんな記憶が蘇ってくる。
料理って、こんなに楽しかったっけ……。
最近まで看護師の仕事に忙しくて、お昼ご飯はおいしさとか健康よりも手身近に済むおにぎりだけなんてことがよくあった。
気づいたら料理をする機会も減って、朝は食べずに夜は週に二、三回ほどカップラーメンで済ましてたな。
食堂で働いてるときは、注文された料理を多めに作って夕食に回してたから、手料理でも手間がかからなかった。
あ、名前呼ばれたの初めてかも――。
出会った当初から『おい』とか『お前』だったので、衝撃のあまり反応が鈍る私に、那岐さんの目が据わる。
「聞いてるのか?」
「あ……はい! すぐに準備します」
私は慌てて流しで手を洗うと、那岐さんの隣に並ぶ。彼はまな板を取り出して、牛の薄切り肉を三五〇グラム、ドンッと載せる。
「一センチくらいに切って、塩コショウを振っておけ」
包丁を手渡してきた那岐さんに「はい」と返事をして、私は牛肉を切ると下味をつけた。
それから玉ねぎ二個を縦に幅一センチ間隔で、マッシュルームは一パック丸ごと石づきを取って幅六ミリ幅に切る。
「灯、マッシュルームはレモン汁をかけろよ」
「え? どうしてですか?」
「切り口の変色を防げるからだ」
そうなんだ、知らなかったな。
うちの食堂は和食が中心だったので、作れないわけではないけれど洋食にはそこまで詳しくない。
勉強になるな、とワクワクしながらニンニクを薄切りにする。続いてフライパンに用意したバターを半分敷くと、牛肉に小麦粉をまぶして入れる。
小麦粉をまぶしておくと、肉汁が出ないから旨味を封じ込めておけるんだよね。ああ、これ……お母さんに教わったな。
料理をしてると、いろんな記憶が蘇ってくる。
料理って、こんなに楽しかったっけ……。
最近まで看護師の仕事に忙しくて、お昼ご飯はおいしさとか健康よりも手身近に済むおにぎりだけなんてことがよくあった。
気づいたら料理をする機会も減って、朝は食べずに夜は週に二、三回ほどカップラーメンで済ましてたな。
食堂で働いてるときは、注文された料理を多めに作って夕食に回してたから、手料理でも手間がかからなかった。