「なぜ、時枝さんは悪くないって言ってあげなかったんですか?」


 聞かずにはいられなくて問いかけてみれば、私は少し本木さんを責めるような口調になってしまう。

 けれど、本木さんはすべて自分に非があるというように気を悪くした様子もなく答える。


「部長と戦うのがどれほど精神をすり減らすことなのか知っていながら、俺は『腐らず、そのままの時枝のスタイルでぶつかっていけばいい』なんて無責任に背中を押したんです。その結果、あいつは孤立した。俺のせいだって、思いました」


 そうか、本木さんの『そうだな』は自分の過ちを肯定するものだったのだ。

 うまく立ち回れ、ともっと強く言っていれば時枝さんが苦しむこともなかったのに、と自分を責めていたのかもしれない。


「でも、その言葉もきっと間違いだった。俺はなんて言ってやればよかったんでしょうか。どうしたら、あいつは自殺せずにすんだんだ……っ」

 自殺、の二文字が重く胸にのしかかる。

 本木さんがこの喫茶店に来てからずっと落ち着かなかったのは、時枝さんに会っても責められることをなんとなく想像していたからだとわかった。