結婚式の当日、私はウエディング衣装に着替えて、すっかり綺麗になっていた。今日は皆を見返してやらなくちゃと一生懸命にメイクもした。

母と新郎の控室に挨拶に行った。新郎の控室では着替えを済ませた真一さんが司会の山本さんと打ち合わせをしていた。真一さんもなかなかカッコいい。入って行くと真一さんが私をじっと見てくれた。すごく嬉しそうにしているのが分かった。

山本さんも久しぶりの私の絵里香の姿をじっと見つめていた。「結衣さん、とっても綺麗だね」と言ってくれた。

私はご両親にご挨拶をした。お父さまは綺麗になった私をじっと見て、そしてとうとう思い出した。

「結衣さんは、あのとき真一が私たちに紹介したお嬢さんじゃないのか?」

「そうです。お気が付かれましたか?」

「親父、やっぱり気が付いたか、あの東京のマンションで紹介した石野絵里香さんがこの白石結衣さんです」

「真一、なんであのときチャンと話さなかったんだ?」

「それは・・・・・」

「あの時も驚いたが、今はもっと驚いたぞ。結衣さん、どうか真一のことよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「母さんは驚いていないけど気が付いていた?」

「ええ、私はすべてを知っていました。ねえ結衣さん」

そう言われて、私は微笑んで頷いた。お母さまは真一さんにこれまでのことを話してあげている。真一さんはそれを聞いているうちに、あまりの驚きに椅子に座り込んでしまった。

「真一、あなたのことを思ってしたことです。あなたの好きなこんな素敵な結衣さんと結婚できて嬉しくないの?」

「嬉しいさ、ただ、驚いているだけだ。腰が抜けた。しばらくはこの衝撃から立ち直れそうにないよ」

「そんなこと言ってないで、二人であの噂をぶち壊すんじゃないの、頑張って」

そう言われて、二人は結婚式場に向かった。真一さんは未だにショックから立ち直れていないみたい。

でも式が進むにしたがって元の真一さんに戻ってきた。キスのためにベールをあげるときにはもうしっかりしていて、優しくキスしてくれた。

披露宴には同業関係者が多く招かれていた。まあ、私たちの結婚式の披露宴は同業者への挨拶を兼ねている。新郎側の主賓は菓子店組合の理事長、新婦側の主賓は私の伯父でもある菓子店『吉野』の社長だ。

二人が入場していくと、驚きの声が上がる。皆が想像していた以上に新婦の私が綺麗だったからだろう。私はこんなに可愛くて綺麗なんです。皆さん見てください! 私は心の中でそう叫んでいた。

真一さんもきっとそう思っていたのだろう。二人は顔を見合わせると思わず笑いがこみあげる。中央の席についても、どよめきがなかなか収まらない。

司会の山本さんの開宴挨拶でようやく静かになってきた。媒酌人の吉本さんの新郎新婦の紹介の後、主賓の挨拶、乾杯、ウエディングケーキ入刀など型通りの披露宴が進んでいく。山本さんの司会はそつがない。

山本さんが自分で友人代表の挨拶をすることを紹介して挨拶を始めた。真一さんは2日前の事前打合で余計なことを話すなと釘をさしておいたと言っていたけど、何を話すのか心配そうだった。

「私しか知らないお二人の馴れ初めのお話をしたいと思います。皆様は当地でお見合いをされて、めでたくご成婚に至ったとお聞きでしょうが、実は違うのです。こうして結婚されましたが、実に運命的な出会いがあったのです。

新郎が東京で働いている時にお父様のマンションに引っ越しをされましたが、維持費が高くつくというので同居人を探していました。たまたま新郎の置き忘れた会社のマル秘資料を届けたのがきっかけで、当時契約社員であった地味な新婦と賃貸雇用契約をして同居を始めました。こともあろうか、私がその契約の立会人でした。

二人の名誉のために申しておきますが、同居している間、二人にはいわゆる男女の関係は全くありませんでした。ただ、二人で生活したことでお互いの気持ちがどんどん近づいて行きました。ご両親がお見えになった時に、新郎はこのように可愛く変身させた新婦を紹介しました。

ところがお父さまに猛反対されて、その後新婦は行方をくらましてしまいました。失意の新郎はお父様が病気に倒れられたので家業を継ぐことを決意してここへ戻ってきたのは皆さま、ご存知のとおりです。

そしてすぐにお見合いの話があって、その相手が何と行方知れずの新婦だったのです。二人とも同郷であることを知りませんでした。何と運命的な再会だったでしょう。

それからは皆さまの知ってのとおりです。どうか皆様、このお二人の運命的なご結婚を祝福していただきたく、親友として心よりお願いする次第です。これで挨拶を終わります」

会場から、どよめきと拍手が続いた。さすが山本さん、とても心の籠った挨拶だった。話を聞きながら、その当時のことを思い出していた。隣の真一さんも同じだと思う。

披露宴は順調に進み、新郎新婦のお色直しもした。お色直しをした私も綺麗だったと思う。再入場すると前よりもどよめきが大きかった。キャンドルサービスをして歩く間、真一さんはとても誇らしげだった。私はその様子を見てとても嬉しかった。

披露宴の終わりに私は感極まって泣きながら真一さんのお母さまに花束を渡した。私はお母さまの心遣いがとても嬉しかった。そして滞りなく披露宴は終わった。

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2次会は社員の皆さんが工場の会議室でしてくれることになっていた。5時に二人はタクシーで会場に到着した。

入口で参加者が拍手で迎えてくれた。花嫁の私を見ると皆、歓声を上げた。皆「おめでとうございます」と言ってくれる。

秋山副工場長の挨拶と乾杯の音頭で立食のパーティーは始まった。皆それぞれ二人のところへ挨拶に来てくれる。披露宴の様子はYouTubeで中継されていた。会場の準備をしながら皆で見ていたと知った。

山本さんの挨拶も皆さん聞いていたようで「運命的な出会いだったのですね、とても素敵ですね」と何人にも言われた。真一さんが一言挨拶をしてほしいと言われて話すことになった。

「今日は社員の皆さんに結婚のお祝いをしてもらってありがとう。友人の挨拶を聞いて知っていると思いますが、私たち二人の出会いは今から考えると運命的なものでした。こうして社長になったのも定めだと思っています。これからも非力な私に皆さんの力を貸していただきたい。どうかよろしくお願いいたします。妻が一言お話したいと言っていますので代ります」

「皆さん、今日はこんなに素敵なお祝いの会をしていただいてありがとうございます。また、祝福のお言葉をいっぱいかけていただいてとても嬉しいです。真一さんと婚約した時に、ここの方から、社長が見初められたお方だから、よっぽどよい方なのでしょうねと言われたと聞きました。それを聞いてとても嬉しかったのを覚えています。私は真一さんを支えてお店のお役に立ちたいと思っています。どうか皆様も社長の真一さんを支えていただけますよう、よろしくお願いいたします」

皆、拍手をしてくれた。真一さんも嬉しそうだった。それから私はパートの女子社員さんたちに囲まれて話をしていた。真一さんは時々心配そうに私を見ていた。

会場を離れる時に真一さんは秋山副工場長に「飲酒運転をしないように皆に言っておいてくれ」と言っていた。真一さんは気遣いのできる人だ。でも社長業もなかなか大変そうだ。

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7時過ぎにタクシーで二人はホテルに帰ってきた。本当は早く二人きりになりたかった。でも部屋につくと疲れがどっと出て座り込んでしまった。

真一さんも疲れているのが分かる。椅子に腰かけたままだ。二人とも披露宴や2次会の立食パーティーではほとんど食べていなかったのでお腹も空いている。真一さんはルームサービスにサンドイッチとコーヒーを至急届けてくれるように頼んでくれた。

何か食べて元気をつけたいと思っていたら、サンドイッチとコーヒーが間もなく届いた。

「結衣さん、サンドイッチとコーヒーが届いた。一緒に食べないか?」

「真一さん、妻になったのですから、もう結衣さんと呼ばないで、結衣と呼び捨てにしてください。お願いします」

私が抱きついたので、抱き締めてキスをしてくれた。一日分まとめて抱き締めてキスをしてくれた。ようやく私は気持ちが満ち足りた。

「結衣、食べて元気だそう」

「はい」

二人ともお腹が空いていたので、すぐに食べ終わった。少し元気が出たような気がした。私は「先にシャワーを浴びます」といって浴室に入った。すぐに真一さんが入ってきた。相変わらずせっかちだ。いつかのように私は「すぐに終わります」といってシャワーを浴びていた。

そして、バスタオルを身体に巻いて出てきた。その後バスタオルを腰に巻いた真一さんが出て来た。私はベッドに入って待っていた。すぐにベッドの私を抱き締める。

「避妊はしなくていいのか?」

「もう結婚したのですから、それに赤ちゃんは天からの授かりものですから」

「分かった」

真一さんは私を力一杯抱き締めてくれた。どれほどこの時を待っていただろう。真一さんの身体の感触を身体全体で感じている。私は抱きついたまま動かない。すごくいい感じだ。でも二人とも疲れていた。そのまま眠ってしまったみたいだった。なんとおめでたい夫婦だ!

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明け方、目が覚めた。ぐっすり眠れた。抱きかかえられて眠っていて、とても温かかった。昨夜はあのまま眠ってしまったみたいだった。目を開けると、真一さんが私の顔を覗き込んでいた。目が合った。

「何もしないで眠ったんですね」

「二人とも余程疲れていたみたいだ。結衣はもう元気になった?」

「はい、真一さんは?」

「もうだいぶ前に目が覚めて結衣の寝顔を見ていた」

「どうして起こしてくれなかったんですか? すぐに可愛がってください。お願いします」

すぐに私たちは愛し合った。真一さんにしがみついて頭の中が空っぽになっていく。あとはよく覚えていない。