偽装同棲始めました―どうして地味子の私を好きになってくれないの?

今日は少し早く帰れた。早く帰りたい日に限って仕事が忙しい。仕事はままならない。お給料をもらっているのだから、そんなものだと思っている。

部屋のドアをノックして顔を出す。ベッドで起き上がってテレビを見ていた。

「どうでした?」

「よく眠れた。でもまた寝汗をかいたので、下着を交換した。洗ってもらったので助かった。ありがとう」

「それはよかったです。待っていてください。夕食を作ります」

すぐに夕食のうどんと卵焼きを作る。すぐに出来上がり。病気の時はこれくらいでいい。

「簡単ですが、夕飯ができましたから、食べに来てください」

「ありがとう。ご馳走になります」

部屋から出てきたが、やはり元気がない。

「お腹にやさしいようにうどんにしました。あと卵焼です。簡単ですが消化の良さそうなものにしました」

「ありがとう」

「うどんはお代わりがありますから、たくさん食べて下さい」

すぐに食べてお代わりをしてくれた。食欲はあるみたいで安心した。卵焼きも残さずに食べてくれた。お腹が空いていたのかすぐに食べ終わった。私は食べるのが遅い。ようやく食べ終わった。

「ごちそうさま、おいしかった、ありがとう。身体も温まった」

「病気の時はこのくらいがいいと思います。もう少し良くなったら肉料理にします」

「治るまでお願いできるかな」

「いいですよ。ひとり分も二人分も手数が同じですから。いつも多めに作って冷凍保存していますから、大丈夫です」

「白石さんがいてくれてよかった。でもインフルエンザが移らないように気を付けてくれ」

「早く休んでください。また、熱がでますよ」

そういうと、部屋に戻っていった。夜中は起きて出てこなかったみたい。気が付かなかった。

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朝、顔を出すと昨日よりも元気に見えた。少しは良くなったみたいでよかった。

「どうですか?」

「熱は下がったので、出勤しようかと思っている」

「絶対に今日は休んで下さい。無理しないで下さい」

「もう大丈夫だから」

「私の父はそれがもとで亡くなりました。だから行かないで休んでください」

「知らなかった。お父さんはこれがもとで」

「朝食を召し上がって下さい。準備ができています」

テーブルにいつものトーストとミックスジュースを用意しておいた。

「お腹にやさしくて水分が取れるものを考えました。ジュースには牛乳、ヨーグルト、バナナ、リンゴ、ニンジン、キャベツが入っています。たくさん飲んで下さい」

美味しいと言って3杯も飲んでくれた。

「本当に今日も1日休んでください。お昼に見に来ますから、その時昼食になにか買ってきます。いいですか安静にしていてください。約束ですよ」

篠原さんは部屋に戻っていった。朝食の後片付けをして、着替えた下着などを洗濯機にかけてから私はいつもどおり出勤した。

12時過ぎに私はまた戻ってきた。昼食におにぎりをいくつかとインスタントの味噌汁を買ってきた。篠原さんは「ありがとう」といって黙って食べていた。乾燥した衣類を片付けて私は会社へ戻った。職住接近はこんな時に便利だ。

6時半過ぎにマンションへ戻って来た。ドアから顔を出して様子を見る。もうかなり元気になっていることが表情から分かる。

「ごめんなさい、遅くなって、仕事が立て込んでいて、すぐに夕食の準備をします。体調はどうですか?」

「もうすっきりした。身体のだるさもなくなった。熱は平熱に戻った」

「そうですか、では、お肉料理でも作ります。待っていてください」

今日は生姜焼き定食に決めた。生姜の残りがあったのと、冷凍保存した豚肉があった。あとは野菜のお味噌汁と昨日漬けておいた一夜漬け。準備ができたので呼びに行く。

「生姜焼き定食になります。私の肉料理はこんなものですが、召し上って下さい」

「味付けが良くて美味しい。味噌汁は今作ったの? 漬物が美味しいけどどこで買った?」

「味噌汁はあり合わせで作りました。漬物も余ったお野菜の一夜漬けです」

「料理が上手だね」

「母が教えてくれました」

「今朝、言っていたけど、お父さんはインフルエンザがもとで亡くなったのか?」

「そうです、無理をして、肺炎になって、私が高校1年の時に、あっという間に亡くなりました。だから油断してはいけません」

「お母さんはどうしている? 父が亡くなってから実家の仕事の手伝いをしています」

「大変だったんだ」

「母は苦労をしました。私はそれに甘えていただけで、ありがたく思っています。そんなことより、食べ終わったら早く休んでください。明日の朝の調子で出勤するか判断したらいいと思います。でも私は大事をとってもう1日休養されることをお勧めします」

「分かった。明日の朝の状況で判断する。ありがとう」

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翌朝、篠原さんは大事を取ってもう一日休むことにすると言った。久しぶりに身体を休めたいとも言っていた。

今日も6時半過ぎに帰ってきた。部屋のドアをノックして様子を見る。もうすっかり回復していつもと変わりがない。よかった、治ったみたい。

「夕食はシチュウにしました。少し時間がかかります」

「お腹が空いた。楽しみにしているから」

やはりシチュウは時間がかかった。7時過ぎになってようやく出来上がった。ほかに野菜サラダを作った。できたと声をかけるととんできた。

よっぽどお腹が空いていると見えて、黙って食べて、お代わりを2回もしてくれた。シチュウは上手くできたみたい。

「夕食ありがとう。今日はゆっくり英気を養えた。明日から出勤する」

「すっかり回復したみたいですね。よかったです」

「それで、お礼をしたいのだけど」

「そう、おっしゃると思っていました。篠原さんは私の好意を受けるのがおいやなのですね」

「そういう訳でもないけど、お世話になったのでお礼はしておきたい」

「借りをつくりたくないのは分かります。それで、お世話した時間を計算しておきました。それと昼食と夕食の費用を計算しておきました。内訳は洗濯の時間と食事の準備ですが、食事の準備時間は私の食事の準備ための時間でもありますので、半分にしました」

明細は3日間で4.5時間の4500円、昼食と夕食の材料費など1350円の合計5850円を請求した。

「こんなに少なくていいのか」

「実費はそれだけでから、多く貰っても気が引けますから、それだけいただければ十分です」

「分かった。ありがとう。もう元気になったから、コーヒーでも入れてあげよう」

「それじゃあ、ご馳走になります」

篠原さんは手を丁寧に洗ってから、コーヒーを淹れてくれた。篠原さんは私がコーヒーを飲むのを見て嬉しそうだった。料金は請求したけど、結構してあげた方だと思う。

私が病気になったら、これだけしてくれるのだろうか? 幸い私にインフルエンザは感染しなかった。
次の日、元のように篠原さんは出勤した。また、日常が始まる。

夕食を終えて部屋で休んでいると、7時過ぎに絵里香宛てにメールが入った。そういえば、インフルエンザに罹っている間にメールは入っていなかった。とてもそんな余裕はなかったのだと思う。

[しばらく連絡できなかったけど元気にしている?]

すぐに返信した。[はい、元気にしています。お元気でしたか?]

すぐに返事が入る。[インフルエンザに罹ったけど、ようやく治った。週末に会えないか?]

[この前と同じ場所、時間でよろしければ]

[了解、待っている]

元気になるとすぐに女の子を誘う。篠原さんらしい行動だ。でもあのインフルエンザの時は、神妙に私の言うことを聞いていた。可愛げがある。

本当に分かりやすい人だ。意外と単純な良い人かもしれない。せっかくだからとことんつき合ってみても良いかなと思うようになった。

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金曜日の午後8時、前回のラウンジに行った。今日はシックな落ち着いたダークグレーのワンピースに可愛いベストにしてみた。毎回違うものを着るのはエチケットでもあり、私の見栄でもある。篠原さんの視線が気になる。じっと見られた。

「また会ってくれてありがとう」

「私も誰かと少しお話がしたくて」

「相談事があるのなら、相談にのるけど」

「そんなものはありません。ただ、誰かとおしゃべりがしたかっただけです」

「リハビリの一環かな」

「そうかもしれません」

「私は元カレと別れてから私のどこが気に入ってもらえたのか考えていました」

「それでどうだったの、どこを気に入ってもらっていたのか分かったの?」

「きっと私の見た目が気に入っていただけだったんです。私の内面というか私自身を気に入っていたのではなかったように思いました。いろいろありましたが、表面的にしか私を見てもらえていなかったから、心から好いてもらえていなかったのだと思いました」

「どのくらい付き合っていたの?」

「1年位でしょうか?」

「私はすべてを見てもらっていたつもりでしたが、彼は表面的にしか私をみてくれていなかったのだと思います」

「彼の責任と言いたいのか」

「私の見せ方が悪かったのかもしれません。彼に見る目がなかったのかもしれません。分かりません」

「それで俺に何を聞きたい?」

「あなたには私を見る目があるのでしょうか?」

「俺に見る目があるかどうかは分からない。それに君とそれほど付き合っている訳ではないからね。それで君はどうなんだ。男を見る目があるのか? 自分ではどう思っているんだ」

「私も分かりません」

「まあいい、今日はこれからカラオケにでもいかないか?」

「そうですね。歌を歌って憂さ晴らしもいいかもしれません」

「それなら、俺のマンションに来ないか?」

「あなたのマンションにですか?」

「カラオケがある」

「本当ですか?」

「それに俺の住んでいるところも見てもらいたい。連れ込んで君をどうかしようとか思っている訳ではない。俺を知ってもらいたいだけなんだ」

「カラオケだけと約束していただけるのなら、行ってもいいです」

「そうか、ありがとう」

「じゃあ、ちょっと電話させてくれ。同居人がいるから都合を聞いてみる」

篠原さんは席を立って私に電話を入れるつもりだ。そういうこともあろうかと、携帯の電源は落としてあった。私はここへ来る前に「今日の帰宅は10時以降になります」と篠原さんにメールを入れておいた。

すぐに篠原さんは席に戻ってきた。

「電話に出ないけど、まだ帰っていないみたいだ。大丈夫だから行こう」

「同居している人がいるんですか」

「俺の従妹だから心配ない」

「それならなおのこと安心です」

私がすんなりマンションへ行くのに同意したので、拍子抜けだったのかもしれない。機嫌よく私を案内してくれた。ホテルの前からタクシーでマンションに向かった。ほんの5分で到着した。

私はいつもタクシー代がもったいないので遅くなっても歩いて帰っていた。途中は夜遅くとも危険は感じない。この前、私より早く帰っていたのはタクシーで帰ったからだと思う。酔っていると確かにその方がよい。

受付にはコンシェルジェがまだいた。出かける時にはできるだけ見られないように顔を合わせないようにして出てきた。前を通る時は顔を伏せて目を合わせないようにした。そうすると彼もあえて見ようとしない。

まあ、篠原さんは結構違う女子を連れ込んでいたから、彼もあえて見ないようにしているのだと思う。

エレベーターに乗ったので一安心。

「すごいマンションですね」

「親父の所有で、俺が維持費を負担して住んでいる。従妹を同居させてその代わりに掃除、洗濯をしてもらっている」

「維持費って結構かかるんですか?」

「前に住んでいた1LDKのマンションよりも随分かかる」

「こんな豪華なマンションに住めていいですね」

すぐに32階に着いた。玄関ドアを開けて中に招き入れてくれる。同居している従妹が帰っていないかと言って、私の部屋をノックして声をかけていた。いる訳ない。笑いをこらえるのに苦労した。

「左の部屋が俺の部屋で、右の部屋が従妹の部屋だ。ここがリビングダイニングでカラオケはここに置いてある」

「広いですね」

「ソファーに坐っていてくれないか。コーヒーを入れるから。砂糖とミルクはどうする?」

「ブラックでお願いします」

コーヒーメーカーにセットしてソファーに戻って、カラオケの準備をしてくれる。

「歌いたい曲を決めておいて」

そう言うとキッチンにコーヒーを取りに行った。

「決まった?」

「『レモン』をお願いします」

「俺もそのあと歌わせてくれ」

「いいですよ。初めて聞かせてもらえますね」

私はコーヒーを一口飲んで歌を歌い始める。いつもこのカラオケで練習しているので歌いやすく余裕を持って歌うことができた。情感を込めて歌えたと思う。

次に篠原さんが歌った。前に聞いた時よりもうまくなっていた。いつ練習したのかしら?

「上手ですね。情感が籠っていて、いいですね」

「ほめ上手だね。他に歌ってみたい曲はないの?」

「それじゃあ、『君を許せたら』をお願いします。このまえより上手くなっていると思いますので、聞いてもらえますか?」

「この前もすごくよかった。聞かせてほしい」

私は、今度は篠原さんを見つめて歌った。彼はジッと私を見ていてくれた。

「いいね、2曲ともいい曲だ。こんな歌が好きなんだね」

「悲しい曲が合っているように思います。歌っていると歌の中にいるような気持になって」

「歌に酔っている?」

「そういうんじゃなくて、身につまされるというか、悲しくなります」

「ロマンチストなんだ」

「自分が悲劇の主人公のように思えるのかもしれません」

「じゃあ、俺が悲劇のヒロインを助ける王子様になってあげる」

「私はお姫様ではありません。ただの失恋したOLです」

篠原さんが私の方へ近づこうとするので、私は立ち上がって窓際へ行って外を見た。今頃のここからの夜景はとても綺麗で部屋からいつも見ていた。
「夜景がきれいだろう」

「いいですね。遠くまで見えますね。こちらは海の方向ですか?」

「天気の良い昼間だと東京湾がみえる」

「しばらく見ていていいですか」

「ああ、好きなだけ見ていていいよ」

篠原さんが立ち上がってこちらへ来る。緊張する。後ろから両肩を掴んだと思ったら突然抱き締められた。

「だめです。放してください。約束が違います」

「好きなんだ。気持ちがおかしくなるくらいに好きなんだ。こんな気持ちは初めてだ」

「私のどこが好きなのですか?」

「分からない。本能的にと言った方がよいかもしれない。理由なんか後から考えればいい」

「ほかの人にもそうおっしゃっているのでしょう」

「本当に好きなんだ、今日は泊っていってくれないか?」

「何をおっしゃっているんですか?」

「真面目に言っている。そうでないとおかしくなりそうなんだ」

「従妹さんが帰ってくるのでしょう」

「大丈夫だ。気にしないと思う。こっちへきて」

私の手を掴んで篠原さんの部屋の方へ引っ張って行く。抵抗しているが止めてくれない。とうとう部屋の中まで引き入れられた。そしてまた抱き締められた。どうしようと思った時にキスされた。もう頭の中が真っ白になっていた。

「泊まっていってほしい」

私を放してくれた。すぐに逃げ出すこともできたのに私はその場に留まった。足がすくんでいた訳でもなかった。

あんなに強く抱き締められて好きと言われたのは初めてだった。私は混乱していた。そして自分でも信じられない言葉を返してしまった。

「それほどおっしゃるのなら泊ります。シャワーを浴びさせてください」

言ってしまうと返って開き直ってしまったみたい。

「バスルームはそのドアの向こうにある。バスタオルはそこに置いてあるから」

私も意地になった。黙ってバスルームへ入った。服を脱いでゆっくりとシャワーの栓を開いた。お湯が勢いよく噴出してくる。シャワーを浴びるととっても心地よくて、いつも頭が空っぽになる。

彼がバスルームに入ってきた。もうなるようにしかならないと思って驚きもしなかった。

「すぐに替わります。少し待って下さい」

「ああ、ごめん」

私の言葉に気持ちをそがれたのか、私がシャワーを浴びるのを黙ってみていた。すると妙に気持ちが落ち着いて来た。そういえばこんな場面、元彼と昔あったことを思い出した。

バスタオルを身体に巻いてバスルームを出た。そして彼のベッドに腰かけた。いつもシーツと枕カバーを取り換えている見慣れたベッド。でもここで寝るのは初めてだ。

篠原さんはシャワーで身体を洗い終わるとキッチンへ行って冷たい飲み物を2本持ってきた。彼はそういう気づかいができるというか、そういうことに慣れている。

「飲む?」

「いただきます」

私は半分くらい一気に飲んでそのボトルをサイドテーブルに置いた。彼もボトルに口をつけて喉を潤した。それから私に手を伸ばして抱き締めた。私は冷静になって、彼の耳元で囁いた。

「ちゃんと避妊してください」

「ああ、分かっている。心配するな」

そう言われて、私は抱きついた。それからのことはよく覚えていない。私はすべてを忘れてしまいたかった。頭の中を空っぽにしたかった。快感に浸りたかった。

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気が付いて今の状況が分かってきた。私は彼に背中を向けて横になっている。彼は後ろから私を抱きかかえるようにして寝ている。抱えている手を握ってみると握り返してきた。

「悲しかったのか? ずっと泣いているのかと思った」

「いえ、よく覚えていません」

「ありがとう」

「私のことが分かりましたか?」

「いろいろなことが分かった。それでますます好きになった」

「でも私の一部しかまだ見ていません」

「付き合ってもっと見てみたいし見せてほしい」

「見る目がないと見えません。見ようとしないと見えません」

「面白いことを言うね。楽しみにしている」

「私をしっかり抱き締めて寝てください」

「ああ、いいよ」

「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

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夢を見ていた。何の夢か分からないけど抱き締められていた。力が強くて苦しくて目が覚めた。目覚ましは4時を少し過ぎたところだった。彼が気が付かないうちに自分の部屋に戻ろう。

そっと、ベッドから抜け出して、服や下着集めて、静かに部屋を出た。それから自分の部屋に戻った。内鍵をかけるとホッとした。自分のベッドでもうひと眠り。

携帯の音で目が覚めた。メールが入っていた。篠原さんからだ。今起きたみたい。時計を見ると9時を過ぎていた。

[昨夜は泊ってくれてありがとう。黙って帰ったんだね]

すぐに返事を入れる。

[黙って帰ってごめんなさい。起こすと悪いと思って。始発で帰りました。昨夜はよい思い出になりました。ありがとうございました]

私も起きよう。朝食の用意をしよう。シャワーを浴びて、身繕いをする。リビングダイニングで朝食の支度をしていると篠原さんが出て来た。

「おはようございます」

「おはよう」

「昨夜は誰かお泊りでしたか?」

「ああ」

「そうですか。4時過ぎに玄関ドアの音がしてどなたかが出て行かれたようです」

「そうか、気が付かなかった。始発に合わせて出て行ったのかもしれない」

「白石さんは、昨夜は何時ごろ帰って来たんだ。連れて帰ると連絡しようと思ったけど、携帯がつながらなかった」

「カラオケで気が付かなかったのかも知れません。帰ってきたのは11時を過ぎていたと思います」

「また、女性を泊めたのですか?」

「まあ、そうだ」

「この前の恵理さん?」

「いや、別の娘だ」

「浮気症ですね」

「いや、今度は本気だ」

「そうなら、その人も喜んでいるでしょう」

「それが分からないんだ」

「つかみどころがない、不思議な娘なんだ」

「気になりますか?」

「ああ、仕事が手につかないくらいにね」

「うまくいくといいですね」

「そうだね、ありがとう」

篠原さんは全く気が付いていない。また、私だから本音を話してくれた。昨夜のこともあって、完全に絵里香が気に入っているみたい。本当のことを打ちあけた時の反応が予測できない。その時が怖い。当分は結衣と絵里香を演じ分けているほかはない。
いつまでも地味な結衣と可愛い絵里香を演じ分けていることができなくなる事態になった。大変なことを頼まれてしまった。

「白石さん、お願いがあるんだけど、リビングダイニングに来てくれないか?」

「どうしたんですか?」

呼ばれて出て行くとこのトレーナースタイルをじっと見られた。これが部屋で一番着ていて楽でリラックスできる。

「親父とお袋がこの週末にここに押しかけてくることになった」

「それがどうかしたのですか?」

「故郷へ帰って見合い結婚をして、実家の後を継げとうるさいんだ」

「私とは関係のない話ですが」

「俺がここを出ていくと白石さんもここを出ていかなければならなくなるぞ。それでもいいのか?」

「いつかはそうなるでしょうから、覚悟はできています。でも今すぐと言う話でもないでしょう」

「そのとおり。今、俺はその気がない。好きな娘ができたんだ。だから時間が必要なんだ」

「その人とちゃんと付き合っているんですか?」

「何で俺が君に彼女との関係を説明しなければならないんだ」

「私にお願いってなんですか?」

「彼女の代わりに俺の恋人になって両親に会ってもらいたいんだ」

「本人に頼めばいいじゃないですか」

「頼めるくらいなら君に頼んだりしないだろう」

「ほかに何人も恋人の役を引き受けてくれる人がいるじゃないですか? あの恵理さんに頼んだらどうですか?」

「恵理に頼んで本気になったらどうする。後始末がもっと大変だ」

「私なら、後始末は簡単だとおっしゃるんですか?」

「もともと恋愛関係にはならないと賃貸雇用契約書に書いてある」

「確かに書いてあります」

「衣服や準備にかかる費用は俺がすべて負担する」

「私ならお金で済むと言う訳ですか?」

「契約の範囲内だと思うけど、時給は10倍出してもいいから、どうしても引き受けてくれないか?」

「引き受けた後はもっと難しいことになるかもしれませんが、良いのですか?」

「どういう意味だ? 俺の恋人になりたいのか?」

「いいえ、私よりもあなたの問題です」

「お引き受けする前に聞いておきたいのですが、あなたはその人のことをどう思っているのですか?」

「本当は俺にもよく分からないんだ。でも彼女にとても惹かれるんだ。初めての経験だから何と言って良いか分からない」

「気持ちが固まっている訳ではないんですか?」

「よく分からないんだ。だから時間が欲しい」

「時間稼ぎのためですか?」

「親に恋人と同棲しているところを見せると少なくともお見合いはあきらめるだろう。今はそんな気にはなれない。時間稼ぎと言えばそうかもしれない」

「私はどうすればいいんですか?」

「両親は俺の好みを知っている。俺の好みの服装、髪形などをそれらしくしてほしい。きっと信じる」

「両親はいつここへいらっしゃるんですか?」

「土曜日の3時に来ると言っている。そしてここに泊まりたいと言っている」

「ここに泊まるんですか?」

「そうだ」

「私との同居を言っていないのですか?」

「言う訳ないだろう」

「じゃあ、私はどうすればいいのですか?」

「両親は俺の部屋に泊める。ダブルベッドだから二人でも寝られるし、俺が来る前はそうしていたらしい」

「あなたはどうするんですか」

「ソファーでもいいが、それはまずい、恋人と一緒に住んでいるということにしたいから、君の部屋に泊めてくれ」

「困ります」

「頼むよ、誓って何もしないから」

「少し考えさせてください」

私は自分の部屋に戻ってきた。篠原さんはこの私に絵里香の代役をしてほしいと言っている。引き受けるのは簡単だけど、そのあとはどうなるだろう。

まず、この地味な私があの絵里香と分かって動転することは間違いない。それから両親になんと言って紹介するのだろう。恋人の白石結衣と言うのか、それとも石野絵里香と紹介するのだろうか?

恋人と同棲していると言ったら、ご両親はどういう反応をするだろう。すぐには認めないに違いない。だってお見合いの話を持ってくるのだから、そういう人と結婚させたいに決まっている。

その場で言い合いになるのは目に見えている。そして喧嘩別れ。篠原さんの計画どおり時間稼ぎはできる。それからの展開は予想できない。彼が私に対してどういう態度をとるか? 私もどうしてよいか分からない。

いずれにしても、遅かれ早かれいつかは私が絵里香だと篠原さんに言わなければならない。それが今度の土曜日なだけと考えよう。いくら考えてもなるようにしかならない。

そう思って、部屋からリビングダイニングへ出てきた。篠原さんはコーヒーを飲んで待っていた。

「お引き受けします。土曜日の午前中に一緒に出掛けてあなたの気に入った服を買って下さい。帰ってから準備します」

「ありがとう」

「これはあなたの責任ですることです。これだけは承知しておいてください」

彼は引き受けることで安心したようで、この言葉の意味は全く理解していなかった。

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土曜日は、篠原さんの実家から電話が入って、来ることが確認できたら、ショッピングに出かける予定にしていた。9時に電話があって、こちらに着くのは3時頃だと言うので、すぐに出かけることになった。

二人で渋谷まで出かけて服を選んだ。彼は絵里香に似合いそうだと言ってシックなワンピースを選んだ。試着してみても、まあ、センスは悪くない。迷っている時間はない。すぐそれに決めた。彼が支払いを済ませた。

それから絵里香がしていたような髪形を私に説明して同じ髪形にしてくれと頼まれた。それはお安い御用、私は髪をカットして帰るといってその場で分かれた。彼は私に必要額を渡してくれて、一人でマンションに戻った。

カットはすぐに終わった。すこし髪が長くなっていたので丁度良かった。12時過ぎにはマンションに帰ってくることができた。

「お昼は何か召し上がりましたか?」

「いや、余り食欲がない」

「サンドイッチを買って来ました。一緒に食べませんか?」

「ああ、一切れもらうとするか? コーヒーを入れてあげよう」

「ありがとうございます」

篠原さんはサンドイッチを一切れ食べただけで、食欲がないみたい。私は気合を入れておかないといけないので、しっかり食べた。

「それで、これからのことだけど、両親が3時ごろに来るから、これから準備をして、俺が呼ぶまで自分の部屋にいてほしい。両親に事前の説明を終えてから、君を紹介するから、恋人の振りをしてくれていればいい。特段、話もしなくていい。すべて俺が話す。いいね」

「分かりました」

「ああ、それからもちろんメガネは外してね。それにお化粧もしっかりしてね、頼むよ。成否は白石さんにかかっているから」

「分かっています」

私は準備のために部屋に戻ってきた。これから絵里香に変身する。ご期待にお応えして立派に絵里香を演じますとも! でもあとは知らないから!
時間は直ぐに過ぎた。もう3時になった。玄関ドアの閉まる音がした。両親がこられたみたい。呼びに来るのを部屋で待っていればいい。

しばらくして、ドアがノックされる。出番だ!

「出てきて、両親と会ってくれないか? 紹介するから」

私はドアを開けて出て行った。まっすぐ前をみていたが、篠原さんの驚く顔が見えた。出た後、すぐに部屋を覗いているが他に誰もいるはずがない。

「まさか! 君は!」

絵里香の私はゆっくり歩いて両親の前に行って深くお辞儀をした。

私の後ろに立っている彼はまだ動転しているのか声もない。しばらく間があった。深呼吸をしたと思ったら話し出した。

「しし紹介します。こちらが石野絵里香さんです。ここ半年ここで一緒に生活しています」

「初めまして石野絵里香です」

「真一、そんな話は聞いていないぞ!」

「いずれは結婚を考えています」

「おまえには店を継いでもらいたいと考えている。嫁もそれ相応の人と考えている」

「そんなに簡単に結婚を考えていいの、真一」

「彼女の前でその話はないだろう。失礼だろう」

「あなたには社長の嫁としての覚悟はあるのか?」

「その話は彼女には関係ない」

「関係なくはないわよ。私も大変だったから」

「俺は認めん。帰るぞ!」

「あなた、せっかく来たんですから、泊っていきましょうよ。石野さんともお話してはどうですか?」

「いや、帰る。帰ってお互いに頭を冷やす。失礼する」

お父さまが席を立ったので、お母さまも付いて行った。

「親父、落ち着いて、頭を冷やして考えてくれ! 俺の好きな人と結婚させてくれ!」

「おまえこそ、どこの馬の骨かしらん女と軽々しく結婚するというな! 頭を冷やすのはおまえの方だ!」

やはり喧嘩別れになった。篠原さんが想像していたとおりになった。彼は玄関まで行って話しかけている。私はソファーに坐った。彼は両親を送り出すとすぐに戻ってきた。

「悪かったな、いやな役目を頼んで」

「想像していたとおりでしたから」

「済まない。君が絵里香だなんて今の今まで全く気が付かなかった」

「私もだます気はなかったんです。でもすぐに本当のことを言わずに申し訳ありませんでした」

「俺は本当に今迄どうかしていた。見る目がないと言うか何にも見ていないというか嘆かわしい限りだ」

「いえ、同居の契約書に恋愛関係にならないという条項がありましたから」

「すぐにでも契約書を改訂して削除しよう」

「それでいいんですか?」

「そうしたい。そして俺と付き合ってくれないか?」

「いまさら付き合ってくれはないと思います。もう半年も一緒に暮らしているのですよ」

「そうだな」

「俺のことをどう思ってくれているんだ? あの時、俺の部屋に泊まってくれたじゃないか? 俺が好きだからじゃなかったのか?」

「どうしてか今も分からないのです。あのときどうしてあんな気持ちになったのか?」

「俺は絵里香が好きだったし、今もその思いは変わらない」

「あなたのことがよく分からないのです。一緒に暮らして、あなたの裏も表も見てきました。あなたがこの私をどう思ってくれているのか分からないのです」

「だから、付き合ってくれと言っている。付き合ってくれれば分かるようにする」

「私と絵里香のどちらと付き合いたいのですか?」

「どちらでもない君自身とだ」

「考えさせてください」

「俺も混乱している。考えてみてくれ。いずれにしてもこのまま同居は続けたいと思っている。契約を変更しよう。ただし解除はしない」

「それも考えさせてください」

「分かった」

そう言うと私は部屋に戻って、部屋から出なかった。彼と顔を合わせたくなかったし、これからのことを考えたかった。

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翌朝、私は契約どおりに元の地味な結衣に戻ることにした。朝食の用意をしていると、篠原さんが起きてきた。機嫌は悪くないみたい。

「おはよう。元に戻ったんだ。絵里香のままでいてくれないのか?」

「始めは地味にしてくれた方がよいとおっしゃっていました。契約どおりにしているだけです。見た目で気持ちが変わるのですか?」

「難しい質問だね。人は見た目が9割という。俺は絵里香に恋をしていたんだ」

「今の地味な私ではないのですね」

「そうかもしれない。じゃあ君は絵里香ではないのか?」

「今は白石結衣で、石野絵里香ではありません」

「使い分けている?」

「そんな器用なことはできません」

「絵里香が好きなら、今の私も好きなはずです」

「何と言って良いのか、どうしてか俺は絵里香が好きになったんだ」

「そうですか」

私はそういわれても絵里香になろうとは思わなかった。どうして地味な結衣を好きになってはくれないのか、彼の気持ちが分からなかった。

私の篠原さんへの気持ちも分からなくなった。すごく純粋なところが見えると思うと、女の子とはとっかえひっかえ付き合っている。

彼の気まぐれで、絵里香の私もOne of them のように思われてきて、疑心暗鬼になった。それで、気持ちの整理がつくまでは今までどおりにしていようと思った。

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2日後、篠原さんに九州支社の機構改革のための1週間の出張が入った。篠原さんは「今、ここを離れたくないけど、仕事だからしかたがない。お互いに一人になって二人のこれからをよく考えてみる良い機会かもしれない」といって出かけて行った。

次の日の夜、母から電話が入った。母は53歳になったばかりだったが、定期検診で乳がんが見つかったとのことだった。ステージは2、来週には手術の予定だと言う。

母には苦労をかけっぱなしだった。私を大学までそれも都会の大学にまで出してくれた。それから私の自由にしてよいと東京での就職も認めてくれた。このまま、母が死んでしまうようなことがあれば悔いが残る。すぐに帰ろうと思った。

篠原さんとの関係もこれ以上は進みようもない。ご両親は結婚に反対だし、このまま暮らしていてもお互いに辛いだけだと思った。

一晩寝たら決心は揺るぎないものになっていた。篠原さんもいないし、引き留める人もいない。すぐに派遣会社に電話を入れて退職の希望を伝えた。引越し屋に電話して見積もりを頼んだ。

山内さんにも電話を入れた。彼女には家庭事情で会社を辞めることにしたと伝えた。彼女には篠原さんに私が絵里香だと明かしたと伝えた。そして両親に結婚を反対されたとも伝えた。だから、これを機会に彼と別れて故郷へ帰ることにしたと言った。

そして、篠原さんに私のことを聞かれたら何も聞いていないと言ってほしいと頼んだ。山内さんはすべてを察して承知してくれた。それに彼女は私の出身地は知らないはずだった。

篠原さんが東京へ帰ってくる3日前には仕事の引継ぎもすべて完了した。午前10時に荷物を搬出したが、ほとんど段ボール箱だったので、すぐに終わった。鍵はコンシェルジェに預けた。

素敵なマンションで良い夢を見させてもらった。ありがとう、さようなら! 私は過去との連絡を断った。
私は母の手術の2日前に実家に帰ってきた。すでに術前の検査を終えて、明日入院、明後日に手術の予定だった。間に合って良かった。母は、見た目はいたって元気だった。

私の顔を見て「ごめんね、心配をかけて」と言って泣いていた。私が「これからはずっとそばにいるから安心して」と言ったら、また泣いていた。親一人子一人で寂しかったのだろう、これからは少しでも親孝行しようと思った。

幸い、手術は成功して、術後の経過も良好で3週間後に退院できた。安心した。ただ、抗がん剤を服用していることもあり、当分は自宅療養することになった。

それで母の実家の伯父さんに頼まれて母が手伝っていた経理の仕事を私が手伝うことになった。大学の専門は経営や経理だったので、それが生かせて丁度良かった。派遣社員のころはここまで任せてもらえなかった。やはり親族だから信頼できるみたい。

伯父の店に通勤する時も東京で会社に勤めていた時と同じ地味なスタイルにしている。社長の親族なので目立たないためといらぬ気遣いをさせないためでもある。

故郷へ帰って来てから3か月位経って、生活にも仕事にも慣れたころに、伯父の社長に呼ばれた。

「『澤野』の女将さんが結衣に会いたいと言ってきている。都合はどうかと聞いているがどうする? 同業の付き合いもあるから、俺の顔を立てて会ってくれるといいんだが」

「なぜ私に会いたいのか分かりませんが、いいですよ。事務所の応接室を使わせてもらっていいですか?」

「自由に使っていいから」

「それじゃ、仕事が終わった夕方の6時過ぎならかまいませんが」

「そう伝える」

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それで今日の6時に『吉野』の本店の応接室で会うことになった。応接室にお見えになったと言うので、応接室をノックして入った。

そこに座っていたのはあの時マンションで紹介された篠原さんのお母さまだった。驚いて「あっ」と声を出してしまった。

「驚いたところを見ると、やはりあの時のお嬢さんですね」

とっさのことで、それを否定することができなくて、頷いていた。

「どうして、ここに?」

「あなたに会いに、そしてお願いに来ました」

それからお母さまはここへ私に会いに来るまでの話をしてくれた。

あれからお父さまと帰ってきてから、すぐに東京の知人に興信所を紹介してもらい、私たち二人のことを調査してもらったそうだ。

そして紹介された石野絵里香さんと同居している地味な白石結衣さんがおそらく同一人物であろうことも分かったという。

二人の監視を依頼しておいたところ、息子の出張中に結衣さんが転居し、その転居先が同郷のこの地で、実家の住所も分かったそうだ。

それから、私の身辺調査をここの興信所に依頼して、私がなんと菓子店『吉野』の社長の姪であることが分かったという。それで叔父の社長に頼んで直接私に会いに来たとのことだった。

それから同居のいきさつを教えてほしいというので、会社での出会いから、同居中の生活やら、合コンに石野絵里香に変装して行ったら息子さんがいて人目ぼれされて、遂にはその変装した絵里香の身代わりを頼まれてご両親に会ったことなどをありままに話した。

それから母親が乳がんで手術することになったので、息子さんには黙って、東京から引っ越して来たことも話した。

「私達親が結婚に反対したので、息子には黙って、身を引いて引越をされたのですね」

「それもありますが、ずっと同居していた地味な私より、一目ぼれした可愛くて綺麗な絵里香が良いと言うので」

「ごめんなさいね。あの子は昔からちょっと寂しげな可愛い子が好きだったから。今もその石野絵里香さんと一緒に生活していると嘘を言っているのよ。許してくれるまでは帰らないと言って」

「お母さまは私がここにいることを教えるつもりですか?」

「あなたはどうしてほしいの? 知らせてほしいの?」

「どうしたらいいのか分かりません。東京での生活とは決別して帰ってきたつもりです。もう元通りにはいかないような気がしています」

「私には、真一があの時言っていた『俺の好きな人と結婚させてくれ』と言う言葉がずっと耳に残っているのです。あの言葉、以前、私の夫が、結婚を反対していた自分の両親の前で言った言葉なんです。始めは私たちも結婚を反対されていました。でも夫が『どうしても俺の好きな人と結婚させてくれ』と言って譲らなかったのです。だから私は真一の希望をかなえてやりたいと思っています」

「私はどうすればいいんですか?」

「私は真一がいずれここへ戻って来て、店を継ぐことになると思っています。夫も歳をとってきました。このごろは真一に店を継いでほしいといつも言っています。あの子はきっと戻ってきます。そういう優しいところがある子です。その時は、真一との結婚を考えてもらえませんか?」

「私にそれまで待っていてくれとおっしゃるのですか?」

「いいえ、真一がいつ帰って来るかも分かりませんから、そんな無理なことは申しません。良い方が見つかったらその方と結婚してください。その時はご縁がなかったということですから、そこまでお願いするつもりは毛頭ありません」

「分かりました。もし、そういう時が来たら息子さんとの結婚を考えてみます。もちろん息子さんのお気持ち次第ですが」

「そう言っていただけてほっとしました。ここへあなたに会いに来たかいがありました」

篠原さんのお母さまはそういうと嬉しそうに帰っていった。「時々お電話してもよろしいでしょうか?」というので携帯の番号を教えてあげた。

社長の伯父から「『澤野』の女将さんはどういう用事できたんだ」と聞かれたので「私の友人のことを聞きたくてお見えになった」と答えておいた。
篠原さんのお母さまは時々私に電話をかけてきてくれて、息子さんの様子を知らせてくれていた。

あれから1年位の間は「石野絵里香さんとの結婚を許してくれないと会わない」と言っていたそうだ。私を探していてくれたのだと思う。

ここ1年位はそれを言わなくなったとも知らせてくれた。きっと私を探しても見つからないからあきらめたのだろうと思った。

私は1年位前から社長の伯父にお見合いを勧められていた。お見合い写真も撮らされた。私には考えがあった。意地とも言っていいのかもしれない。地味な結衣の姿でお見合い写真を撮った。ここへ帰ってからずっと地味な結衣を通していたから、不自然とは思われなかった。

私はこの地味な結衣とお見合いをして気に入ってくれる人なら結婚しても良いと思っていた。でもお見合いを勧められてから、写真と履歴書だけで断られることが多かった。たまたまお見合いをしてもすぐに断られた。交際してほしいと言われたことは一度もなかった。

そんな時、篠原さんのお母さまから、息子が会社を辞めて帰ってくることになったと連絡が入った。理由を聞くと「夫が脳梗塞で倒れて、店を継いでくれることになったから」と言っていた。それと「石野絵里香さんが見つからなかったので、あきらめて帰る気になったのだろう」とも言っていた。

そうこうしているうちに、お見合いの話が来た。相手はあの篠原真一さんだった。世話人の吉本さんが話を持ってきてくれた。社長の伯父も良い話だからと私に勧めてくれた。私はお見合いすることを承諾した。

とうとうその時が来た。あれから2年が過ぎていた。これはきっと篠原さんのお母さまの計らいだと思った。同業組合が使っているという料亭がお見合いの会場だった。母の体調が今一つなので私一人で行くことになった。

私はいつものメガネをかけたあの地味な黒いスーツ姿にした。自宅まで吉本さんが迎えに来てくれた。私の姿を見ると何とかならないものかというような顔をしていた。時間どおりに会場に着くともう先方は着いて待っているとのことだった。

部屋に入ると、篠原さんが座っていた。あの時よりも落ちついた感じがした。懐かしそうに嬉しそうに私を見つめてくれた。今も私のことを思ってくれていると分かって嬉しかった。

「こちらが白石結衣さんです。お母さまの体調がよろしくないとのことで今日はお一人でお見えです」

「篠原真一です。はじめまして、よろしくお願いします」

「白石結衣です。こちらこそよろしくお願いします」

「お母さまが体調不良と言うことですが、大丈夫ですか?」

「2年ほど前から体調を崩しまして、私は母を助けるために東京から帰って参りました。もう一人でも生活できるまでには回復しました」

篠原さんはなるほどそうだったのかというような安心した表情を見せた。

「今、伯父さんの店のお手伝いをしていると聞きましたが?」

「父が亡くなってから母は伯父の店の手伝いをしていましたが、体調を崩しまして、それからは私が手伝っています」

「手伝いといいますと?」

「経理の手伝いです。大学でも経営、経理などを学びましたので」

「そうでしたか」

篠原さんが嬉しそうな顔をする。もっと話をしたいとの思いが伝わってくる。私も久しぶりにお話がしたい。

「吉本さん、二人だけでお話をさせてもらえませんか? 母さん、それでいいかい、聞いておくことはない?」

「あなたのお見合いだから、あなたがそうしたいのなら、それでいいわ。ゆっくり気のすむまでお話したらいいわ、白石さんもそれでよろしければ」

「私は構いません」

すぐに二人にしてくれた。

「君が急にいなくなった訳が今初めて分かった。どうして言ってくれなかったんだ」

「あなたに言ったところでどうにかなる話ではなかったからです」

「俺は君がいなくなってから随分探した。でも見つからなかった」

「すみません、過去と決別したかったのでそうしました。私は都会へ出てみたくて、母に無理を言って東京の大学へ行かせてもらいました。でも都会の絵の具に染まってしまって、東京で就職までしてしまいました。母の苦労を考えないで自分の我が儘を通しました。でもセクハラで恋人に振られて会社も辞めなければならなくなりました。せっかく篠原さんに好かれたと思ったら、ご両親に結婚を反対されました。罰が当たったのだと思いました。だから母が身体を壊したのが分かると、すぐに母の力になろうと思って、過去と決別して故郷へ帰る決心をしたのです」

「俺も過去の人となったのか?」

「それじゃあ、どうすれば良かったのですか?」

「そうだね、あのままでは親にも反対されてどうしようもなかったからね。君がいなくなって、踏ん切りがついたのだと思う。俺も君と同じように過去と決別して故郷へ帰ってきた。倒れた父親の力になろうと思って」

「こんな形で再会するとは思いもしませんでした」

「どうしてお見合いを受けてくれたの?」

「はじめは篠原真一と聞いて、同性同名かと思いました。写真を見て驚いたんです。まさか同郷だったとは、気が付きませんでした。しかも老舗のお菓子屋さん『澤野』の息子さんだなんて、これはきっと何かのご縁だと思いました」

「会社ではこのことは一切秘密にしていたからね。最近は個人情報が守られるから自分で言及しないと誰にも分からない」

「確かに老舗のお菓子屋さんの店名は知っていても、社長の苗字は知りませんからね」

「ひとつ、聞きたいことがある。どうして、あんなに可愛いのに、お見合い写真は地味な姿で撮っているの? しかもメガネをかけたりして」

「見かけで好きになられたくないんです。だからこれまでも会う前にほとんど断られました。会っても断られました。それでもいいんです」

「俺が言えたことではない。俺も同じだったから。あの半年、俺は君の何を見ていたんだろうと思った。何も見えていなかった。あんなに優しく親切にしてくれていたのに、気づこうとも好きになろうともしなかった。俺はそんな男だ。捨てられて当然だと思った」

「でもあなたは私と半年の間、誠実に暮らしてくれました」

「契約に従っただけだから。俺はそういう男だ」

「お見合いのお返事、あなたはどうされますか?」

「どうするって、今更言うまでもない。是非お付き合いしてほしい。頼む。どうか付き合ってくれ。もう親の反対もない」

「私もお付き合いしたいとお願いするつもりです。ただし、今の地味なままで良ければですが」

「俺はそのままでいいけど、どうしてこだわるの?」

「あの絵里香を好きになられるのが、見かけだけを好きになられるのが怖いんです」

「俺はもう見かけだけで好きになることはない。いやというほど思い知った。でもね、今、思い返すと、君がマル秘の原紙を届けてくれた時、きっと俺は君に何かを感じたんだ。それは自分でも分かる。だから同居を提案した。そのときはその何かが分からなかっただけだと思うようになった。その時の気持ちを信じたい」

「私も同じかもしれません。すぐに同居を承知しましたから」

「これも何かのご縁だろう。定めと言ってもいいかもしれない。素直に従った方がよさそうだ」

「私もそうしたいと思います」

それからしばらく二人はこの離れていた2年間のことを話した。篠原さんはずっと私のことを思っていてくれた。あれから合コンにも行く気がしなくなったと言っていた。私の使っていたサブルームは私がいつ帰って来ても良いように空けたままにして、それからは同居人を住まわせなかったそうだ。

私もあの億ションでカラオケを練習したことやHビデオを見たことなどを時々懐かしく思い出していたことを話した。それを篠原さんは嬉しそうに聞いてくれた。

頃合いを見て、二人は吉本さんと篠原さんのお母さまに声をかけた。そして私は吉本さんと一緒に先に帰った。

帰りの車の中で篠原さんに交際の希望を伝えてくれるようにお願いした。吉本さんは「伝えるけど断られても落胆しないように、また良い縁談を探してあげるから」と慰めるように言っていた。

その日の夜遅く、吉本さんから「先方も交際を希望している」と嬉しそうな声で連絡があった。「これで肩の荷が下りた」とも言っていた。本当にお世話になりました。

こうして、二人の新たな交際が始まった。
交際を始める最初のデートをどうしようかと篠原さんは迷ったみたい。街中で二人が歩いていると結構人目につく。だからドライブはどうかと相談された。私は行きたいと伝えた。

私は土曜日も仕事があるので、デートは日曜日の朝から出かけることになった。篠原さんが9時に家まで車で迎えに来てくれた。

ドアホンが鳴ったのですぐに作ったお弁当を抱えて玄関ドアを開けた。篠原さんがニコニコして待っていてくれた。私の後から母が出て挨拶をする。

「結衣の母親の白石澄子です。わざわざお迎えに来ていただいてありがとうございます。結衣がお世話になります。どうかよろしくお願いいたします」

「初めまして、篠原真一です。お嬢さんをしばらくお預かりします」

「娘にはもう少しオシャレをしないと篠原さんに失礼だと言ったのですが、そういうことに無頓着でお気を悪くなさらないで下さい」

今日の私の服装もおばさん風に見えると思う。ここのところ着飾らないようにしていたからデートするのにふさわしい適当な服もなかった。

「いえ、そういうところが白石さんらしくて良いと思っています。お気になさらないで下さい」

後ろから車が来たのですぐに車に乗り込んだ。家の前の道路は狭いので車がすれ違えない。すぐに出発した。

「今日は天気も良いので、海岸を回って来たいと思っているけど、いいかい?」

「そうですね。しばらく海を見ていなかったのでいいですね。お弁当を作って来ましたので、お昼は弁当をゆっくり食べられるところを探し下さい」

「白石さんのお弁当か、楽しみだ」

「あり合わせで作りましたので、お口に合えばいいですが」

「同居していた時に朝食や夕食を作ってくれたけど、美味しかったから大丈夫だ」

直ぐに海の見えるところまで来た。海を近くで見るのは久しぶり。ここへ帰ってくる時に新幹線から見たけど、以前の在来線とは違って海から離れたところを走っていたのでよく見えなかった。今日は波も穏やかだ。篠原さんは機嫌よく運転している。

「白石さんは運転免許を持っているの?」

「はい、ここへ帰ってきて2か月くらい経つと、どうしても必要と分かったので取りました」

「そうだね、ここでは自動車がないと何かと不便だからね。どんな車に乗っているの?」

「母が乗っている軽自動車です。市内だけですからそれで十分です。それに家の前は道が狭いですから」

「免許を持っていらっしゃったんですね」

「ああ、大学を卒業する4年生の夏休みにここへ帰ってきてとった。親父が就職したら取れないから取っておけと言うので」

「この車は篠原さんのですか?」

「親父の車だ。今日は借りてきた。俺もここへ帰ってきてからすぐに教習所へ3日ほど通って練習した。ペーパードライバーだったので免許は当然ゴールドだけどね」

「安全運転でお願いします」

「もちろん、大切な人を乗せているからね」

「行き先はまかせてくれる? 連れていきたいところがあるから」

「はい、おまかせします」

10時前に水族館に着いた。

「水族館はどうかと思って来たけどいいかい?」

「水族館なんて小学校以来です」

「ここのジンベエザメが有名なので見たいと思っていたんだ」

「私も見てみたい」

すごく大きなサメが泳いでいた。そして水槽はもっと大きかった。二人とも優雅に泳ぐ姿に見入ってしまって時間を忘れた。

「見ていると癒されますね」

「そうだね。ゆったり泳いでいる。見ていると確かに癒される。でも俺があのサメだったら」

「サメだったら?」

「きっと退屈して死んでしまうかもしれない」

「あなたらしいですね」

「まあ、ここにいれば餌は貰えるし、外敵もいない。でも恋をしようとしても相手がいない。可哀そうだ」

「もう一匹入れてあげればいいのにね」

「なかなか捕まえられないのだろう。俺もこうして君を捕まえるのに苦労したからね」

「恋の相手に出会うのはどこの世界でも大変なのでしょう」

「そうだね、だからこの再会を大切にしたい」

「私もそう思っています」

館内を見て回った。私から手を繋いだ。自然と篠原さんも繋いでくれた。気が付くともうお昼近くになっていた。

「どこかでお弁当を食べましょう」

「近くに海水浴場がある。季節外れだから人がいないだろう。行ってみないか」

「海岸に座って海を見ながら食べましょう」

すぐに目的の海水浴場に着いた。広い駐車場には車が数台とまっているだけで、人気がない。これなら落ち着いてゆっくり海岸で食べられる。私は用意して来た敷物を取り出して渡した。

波打ち際から少し離れた場所で食べることになった。海の方から吹く風が心地よい。私の作った幕の内弁当を取り出して並べた。

「美味しい、君の手作りの料理を久しぶりに食べた。ありがとう」

「すみません、それ全部私が作った訳ではありません。母が半分くらい作ってくれました」

「黙っていれば分からないのに正直だね。でもお母さんも料理が上手だね」

「母は料理が上手なので私が教わっただけです。今日はお弁当を作って行きなさいと言われてその気になりました。母の言うとおりですね。篠原さんが喜んでくれましたから。母の言うことを聞いてよかったです」

「それで、できたらその篠原さんはやめてくれないか? 昔のことを思いだすから。よかったら真一さんとか、名前で呼んでくれないか?」

「確かにそうですね。それでよろしければそう呼びます。私も結衣と呼んでいただけますか?」

「呼び捨てはどうも気が引けるから結衣さんと呼ぶことにしよう」

篠原さんには遠慮があるのだろうか?「結衣」とは呼んでくれなかった。確かに今座っているけど二人の間には距離がある。2年もの間、遠ざかっていたのだからしかたがない。いつになったらこの距離を埋められるのだろう。時間が解決してくれるのだろうか?

お弁当を食べ終わると、海外線をずっと走り続けて突端の岬に着いた。この岬は海から昇る朝日と海に沈む夕陽が同じ場所で見られることで有名なんだとか、篠原さんが説明してくれた。私のために下調べをしてきてくれたみたいで嬉しかった。

両側に海が広がって景色がいい。灯台があると言うので二人で歩いて行った。人がいなくて静かな所だった。

「見晴らしがすごくいい。気持ちがいいわ」

後ろから抱き締められた。ひょっとするとこうなるかなと思っていた。前にもこんなことがあった。でも緊張する。動けないし動かない。

随分長く抱き締められていた。身体を動かそうとすると向きを替えられてキスされた。最初にマンションでキスされた時もこうだった。あの日のことを思い出してしまう。今はメガネが邪魔をする。

キスの後、顔をじっと見られた。恥ずかしくて下を向いた。もう少し可愛くしてくれば良かったとこの時思った。また、キスをされて抱き締められた。私を放したくないと言うようにいつまでも抱き締めてくれていた。

子供の声がしたので、とっさに身体を離そうとした。抱き締めていた力が緩んだ。それから二人は何食わぬ顔で距離をとった。でも私はしっかり手を握って離さなかった。二人のそばを子供たちが駆け抜けていった。そのあとから両親が追い付いて来た。

二人は元来た道を戻ってきた。黙って手を繋いでいるだけだったけど、もう心が通い合っていると思った。ようやく車に乗り込んだ。誰かに見られているようで落ち着かなかった。私を引き寄せてまたキスをしてくれた。嬉しかった。

「そろそろ帰ろうか? 帰りは来た道とは違う道にするからね」

「それがいいです」

帰り道はほとんど話をしなかった。話をしなくても私は十分心が満たされていた。ずっと黙って穏やかな海を見ていた。私が黙っているのが不安なのか、信号待ちの間に手を伸ばしてきて私の手を握るので、握り返してあげる。彼の顔が緩む。

休憩に海辺のレストランに入ってコーヒーを飲んだ。ここでもほとんど話をしなかった。テーブルの上で手を握り合っていただけだった。話したいことがいっぱいあったのに、今はこうして二人でいるだけでよかった。

4時を少し過ぎたころに、私の家に着いた。母が出てきたので、真一さんが帰りのレストランで買ったお土産を渡して、お弁当のお礼を言っていた。

立ち話をしているとすぐに車が来たので急いで車を出して帰って行った。楽しいドライブだった。今度は紅葉を見に二人で山へ行ってみたいと言われた。
月曜日の昼頃、お弁当を食べて、休憩室の前を通ると中から、女性の事務員が二人、噂話をしていた。私と真一さんのお見合いの話だった。どんな話か気づかれないように聞いていると、驚くような内容の話だった。

すぐに真一さんの携帯に電話を入れた。すぐに出てくれた。

「真一さんですか、結衣です」

「どうしたの、今頃?」

「ちょっと噂話を小耳に挟んだものですから、ご存知かと思って」

「噂話って何ですか?」

「真一さんのお店のことです。うちの従業員の噂話を偶然立ち聞きしました。私と真一さんがお見合いしてお付き合いしていることが知られていました。そして、真一さんのお店の経営がうまくいっていないので、私の伯父の援助を受けるために私と付き合っていると言うのです。あのカッコいい御曹司が地味な結衣さんと付き合うのは何かあるというのです。私はそんなに不釣り合いでしょうか? それに腹が立ったこともありましたが、それより、お店が上手くいっていないと噂になっているのが心配です。そういう噂をご存知でしたか?」

「店がひところよりもうまく行っていないのは親父から聞いていたが、実際、どの程度なのかはまだ詳しく聞いていないんだ。これまでは仕事を覚えるのを優先していたから、経営は少し後でもよいかなと思っていた。親父も事務所に出て仕事をしているから」

「それなら早く確かめた方がよいと思います」

「分かった、そうする。ありがとう。それよりさっきの不釣り合いは絶対ないから気にしないでいてほしい。そのうちに見返してやろう」

「はい、そう言ってくださって嬉しいです」

直ぐに社長の父親に聞いてみると言っていた。胸騒ぎがする。午後はそれが気になって仕事が手に付かなかった。

家に帰って夕食を食べて一息ついていると。真一さんから電話があった。

「今日は電話をありがとう。あれからすぐに社長から経営の状況を聞いた。予想以上に経営がうまくいっていないようだ。それと分かったことがあるから知らせておきたい。結衣さんにはうちの店ことをすべて知っておいてもらいたいこともあるし、相談にものってもらいたいから」

「私に店の大事な話をしてもいいんですか?」

「結衣さんを信じているから聞いておいてもらいたい」

「分かりました」

真一さんはそれから店の経営の状況や新製品の売れ行きが予想したように伸びていないこと、それにここ数年にわたって経理担当者の使い込みがあったことなどを話してくれた。

お父さまが年を取って会社全体を十分見切れていなかったことが原因だと言っていた。お父さまの体調が不良なので、こういう時には悪いことが重なってしまうかもしれないと心配だった。

それで工場の採算が悪化しているので、すぐにでも工場の経理も調べたいと言っていた。私にできることがあったら何でも言ってくれるように伝えた。その時はお願いするからと言っていた。