篠原さんにメルアドを教えたら、あれから毎晩メールが送られてくるようになった。まあ、できるだけ返事はしてあげるようにしている。
一度、篠原さんがリビングダイニングでスマホをいじっていると思ったら、私のスマホにメールの着信音が鳴った。驚いてスマホを見ると篠原さんからだった。
篠原さんには私のスマホの着信音が聞こえたと思うけど、私にメールを送っているとは全く気が付かなかった。さすがにその時はその場で返信するとまずいと思ったので、部屋に戻って寝る前に返信した。
まあ、メールをもらったら儀礼的な内容を返信する。それに私からはメールをしなかった。
そのうち、二人だけで会いたいと言う内容のメールが増えた。食事を一緒にしたいとか、また、絵里香の歌を聞きたいとか、でも何がしかの理由をつけては断っていた。「食事ならいつも朝食を一緒に食べています」と言いたかった。
いつまでこういう実りの無いメールを送って来るのだろう。逃げるとなおさら追いかけたくなるのだろうか。困ったものだ。
とうとうどういう条件なら会ってくれるのかと聞いてきた。これには困った。「会う必要はありません。もう毎日会っています」が本音だけど、これを言う訳にもいかない。
しかたがないので条件を出した。周りに人がいる場所であること、高級なところでないこと、割り勘にすること、週末の8時以降、1時間くらいということにした。
すぐに返信が来た。シティホテルの最上階のラウンジを提案してきた。なるほどそこなら周りに人もいるし、雰囲気もいい。テーブル席をとればゆっくり話ができる。値段もまあそこそこだ。さすが篠原さん、こういうことには慣れている。
私はその提案を受け入れた。そして来週の金曜日の8時に会う約束をした。ここまで言われたので、会う約束をしてしまった。まんざら悪い気はしなかった。
いつもの私には目もくれない篠原さんがこうまで言ってくるのがおかしくもあった。男の人は見た目だけでこうも違う扱いをするの?
************************************
約束の時間にラウンジに着くと、もう篠原さんは来ていた。そして私の来たことに気が付くと手を振って合図してくれた。
窓際の席に近づくと、私の姿をじっと見ているのが分かった。今日は私が昔着ていた服にした。毎回、亜紀から借りる訳にもいかない。
元々学生時代からぎりぎりの生活をしていたから就職して自由に服が買えるようになっても、できるだけ長く着られる流行に左右されないデザインの服を選んでいた。夜だから派手にすることもないと思ったので今日のコーディネイトは直ぐに決まった。
「また会えてうれしい。よく来てくれたね、飲み物は何にする?」
「ジンジャエールでお願いします」
篠原さんはすぐにジンジャエールとジョニ黒の水割りとつまみを何品か注文してくれた。注文した飲み物が来るまで間が持たないので、私が先に口を開いた
「私と会いたいとおっしゃって言いますが、何が目的ですか?」
「目的?」
「どういうことを考えているんですか?」
「独身の男女が会うのに理由がいるのか?」
「それを聞きたいのです」
「俺は君に会ってどことなく惹かれた、いや頭の中から君が消えないんだ」
「私のどこに惹かれたんですか?」
「はっきりとは言えないんだが、君は綺麗でとても可愛い。それに時々見せる悲しそうな何かに惹かれる」
「それで私と会ってどうしたいんですか?」
「君のことをもっと知りたいと思って、それじゃだめなのか?」
「もう十分に分かっていらっしゃるじゃないですか?」
「何も分かっていない。だから付き合いたいんだ。自分から付き合いたいと思ったのは君が初めてだ。そして、付き合いたいと言ったのもこれが初めてだ。いままでこんな気持ちになることはなかった」
「綺麗で可愛いとおっしゃいましたが、綺麗で可愛くなかったら、どうなんですか?」
「どうって?」
「もし私があまり可愛くなかったらどうなんですか?」
「うーん、そうだな、どうか分からない」
「じゃあ、外見が好きなだけじゃないですか」
「だから、付き合って君のことが知りたいと言っているんだけど、普通はそうじゃないのか」
「そうかも知れませんが、私はそういうのはいやなんです」
「君の言っていることがなかなか理解できない」
「あなたには理解できないと思います。だから、お付き合いを躊躇するんです。本当の私を見てくれそうに思えません」
「恋人に守ってもらえず裏切られたと聞いたけど、そのことが何か関係しているのか? 俺は恋人を裏切ったりは絶対にしない」
「どうしてそう言い切れるのですか? ご自分の将来がかかっていたとしたらどうですか?」
「仮定の話には答えられないな」
「そうでしょう。確信がないでしょう」
「私を守ると誓えますか」
「今の段階では付き合ってもいないから何とも言いようがない」
「私があなたの恋人になったとしたら、裏切らないと誓えますか、守ってくれますか?」
「その時は約束する」
「人を見かけから好きになる人は本質を見ることができないのではと思っています。私は本当のあなたを見たいと思います」
「それなら付き合ってくれるのか?」
「はい、お望みならば、お付き合いします」
「よかった。ありがとう」
「もう一緒に暮らしているのですよ、いまさら、ありがとうですか?」と言いたかった。
後は何を話していたか、覚えていない。元彼を思い出して随分と愚痴や不満を言っていたような気がする。
篠原さんはお付き合いすると言われたことで舞い上がってしまったようで、私の話をずっと聞いてくれた。思いのほか優しかった。
1時間の約束だったので、9時に私は帰って来た。一緒に帰ろう、送ろうかとも言われたが寄るところがあるからと言って一人でラウンジを後にした。篠原さんはもうしばらくここにいると言っていた。
篠原さんとお付き合いをする約束をしてしまった。強引と言うか一途な申し出を断れなかった。まあ、嬉しかったのかもしれない。
元彼にもあんなに強引に付き合ってくれとは言われなかった。どちらかというと私の方が積極的だったような気がする。好きな人より好きになってくれる人がよいのかもしれない。
少し浮き浮きした気持ちで帰ってきた。マンションにはもうコンシェルジェはいない時間だった。ロビーの女子トイレで地味な結衣に戻った。マンションの部屋には篠原さんは戻ってきていなかった。
私の部屋で一息ついていると30分ほどして篠原さんが戻ってきた。「ただいま」の声が聞こえたので「おかえりなさい」と返した。
すぐに篠原さんからメールが入った。[今日はありがとう。付き合ってくれると聞いて嬉しかった。おやすみ]
すぐに返信した。[今日はお話ができてよかったです。少しだけあなたのことが分かりました。おやすみなさい]
一度、篠原さんがリビングダイニングでスマホをいじっていると思ったら、私のスマホにメールの着信音が鳴った。驚いてスマホを見ると篠原さんからだった。
篠原さんには私のスマホの着信音が聞こえたと思うけど、私にメールを送っているとは全く気が付かなかった。さすがにその時はその場で返信するとまずいと思ったので、部屋に戻って寝る前に返信した。
まあ、メールをもらったら儀礼的な内容を返信する。それに私からはメールをしなかった。
そのうち、二人だけで会いたいと言う内容のメールが増えた。食事を一緒にしたいとか、また、絵里香の歌を聞きたいとか、でも何がしかの理由をつけては断っていた。「食事ならいつも朝食を一緒に食べています」と言いたかった。
いつまでこういう実りの無いメールを送って来るのだろう。逃げるとなおさら追いかけたくなるのだろうか。困ったものだ。
とうとうどういう条件なら会ってくれるのかと聞いてきた。これには困った。「会う必要はありません。もう毎日会っています」が本音だけど、これを言う訳にもいかない。
しかたがないので条件を出した。周りに人がいる場所であること、高級なところでないこと、割り勘にすること、週末の8時以降、1時間くらいということにした。
すぐに返信が来た。シティホテルの最上階のラウンジを提案してきた。なるほどそこなら周りに人もいるし、雰囲気もいい。テーブル席をとればゆっくり話ができる。値段もまあそこそこだ。さすが篠原さん、こういうことには慣れている。
私はその提案を受け入れた。そして来週の金曜日の8時に会う約束をした。ここまで言われたので、会う約束をしてしまった。まんざら悪い気はしなかった。
いつもの私には目もくれない篠原さんがこうまで言ってくるのがおかしくもあった。男の人は見た目だけでこうも違う扱いをするの?
************************************
約束の時間にラウンジに着くと、もう篠原さんは来ていた。そして私の来たことに気が付くと手を振って合図してくれた。
窓際の席に近づくと、私の姿をじっと見ているのが分かった。今日は私が昔着ていた服にした。毎回、亜紀から借りる訳にもいかない。
元々学生時代からぎりぎりの生活をしていたから就職して自由に服が買えるようになっても、できるだけ長く着られる流行に左右されないデザインの服を選んでいた。夜だから派手にすることもないと思ったので今日のコーディネイトは直ぐに決まった。
「また会えてうれしい。よく来てくれたね、飲み物は何にする?」
「ジンジャエールでお願いします」
篠原さんはすぐにジンジャエールとジョニ黒の水割りとつまみを何品か注文してくれた。注文した飲み物が来るまで間が持たないので、私が先に口を開いた
「私と会いたいとおっしゃって言いますが、何が目的ですか?」
「目的?」
「どういうことを考えているんですか?」
「独身の男女が会うのに理由がいるのか?」
「それを聞きたいのです」
「俺は君に会ってどことなく惹かれた、いや頭の中から君が消えないんだ」
「私のどこに惹かれたんですか?」
「はっきりとは言えないんだが、君は綺麗でとても可愛い。それに時々見せる悲しそうな何かに惹かれる」
「それで私と会ってどうしたいんですか?」
「君のことをもっと知りたいと思って、それじゃだめなのか?」
「もう十分に分かっていらっしゃるじゃないですか?」
「何も分かっていない。だから付き合いたいんだ。自分から付き合いたいと思ったのは君が初めてだ。そして、付き合いたいと言ったのもこれが初めてだ。いままでこんな気持ちになることはなかった」
「綺麗で可愛いとおっしゃいましたが、綺麗で可愛くなかったら、どうなんですか?」
「どうって?」
「もし私があまり可愛くなかったらどうなんですか?」
「うーん、そうだな、どうか分からない」
「じゃあ、外見が好きなだけじゃないですか」
「だから、付き合って君のことが知りたいと言っているんだけど、普通はそうじゃないのか」
「そうかも知れませんが、私はそういうのはいやなんです」
「君の言っていることがなかなか理解できない」
「あなたには理解できないと思います。だから、お付き合いを躊躇するんです。本当の私を見てくれそうに思えません」
「恋人に守ってもらえず裏切られたと聞いたけど、そのことが何か関係しているのか? 俺は恋人を裏切ったりは絶対にしない」
「どうしてそう言い切れるのですか? ご自分の将来がかかっていたとしたらどうですか?」
「仮定の話には答えられないな」
「そうでしょう。確信がないでしょう」
「私を守ると誓えますか」
「今の段階では付き合ってもいないから何とも言いようがない」
「私があなたの恋人になったとしたら、裏切らないと誓えますか、守ってくれますか?」
「その時は約束する」
「人を見かけから好きになる人は本質を見ることができないのではと思っています。私は本当のあなたを見たいと思います」
「それなら付き合ってくれるのか?」
「はい、お望みならば、お付き合いします」
「よかった。ありがとう」
「もう一緒に暮らしているのですよ、いまさら、ありがとうですか?」と言いたかった。
後は何を話していたか、覚えていない。元彼を思い出して随分と愚痴や不満を言っていたような気がする。
篠原さんはお付き合いすると言われたことで舞い上がってしまったようで、私の話をずっと聞いてくれた。思いのほか優しかった。
1時間の約束だったので、9時に私は帰って来た。一緒に帰ろう、送ろうかとも言われたが寄るところがあるからと言って一人でラウンジを後にした。篠原さんはもうしばらくここにいると言っていた。
篠原さんとお付き合いをする約束をしてしまった。強引と言うか一途な申し出を断れなかった。まあ、嬉しかったのかもしれない。
元彼にもあんなに強引に付き合ってくれとは言われなかった。どちらかというと私の方が積極的だったような気がする。好きな人より好きになってくれる人がよいのかもしれない。
少し浮き浮きした気持ちで帰ってきた。マンションにはもうコンシェルジェはいない時間だった。ロビーの女子トイレで地味な結衣に戻った。マンションの部屋には篠原さんは戻ってきていなかった。
私の部屋で一息ついていると30分ほどして篠原さんが戻ってきた。「ただいま」の声が聞こえたので「おかえりなさい」と返した。
すぐに篠原さんからメールが入った。[今日はありがとう。付き合ってくれると聞いて嬉しかった。おやすみ]
すぐに返信した。[今日はお話ができてよかったです。少しだけあなたのことが分かりました。おやすみなさい]