「え? 陸上部じゃないの?」

 「だって、カッコ良くね?」

 『シュッシュッ』と言いながら左手で空を切る蒼ちゃん。そう、彼は俺らが予想だにしなかったボクシング部へ入ったのだ。なので…。

 「蒼ちゃん、その顔で出るの?」

 高校1年の夏休み。第三回・岳海蒼丸作品撮影会に、蒼ちゃんはボッコボコの顔で
現れた。

 「うん」

 当の本人は何も気にならない様子で、何なら鼻歌交じりにカメラをセットし出した。久々の撮影が嬉しいらしい。

 「ねぇ。脚本、変更しないの? 蒼ちゃんの顔が大変な事になってる理由はどうするの?」

 脚本に一切手を加えようとしない蒼ちゃんに、拓海が首を捻った。

 「変更なんかする必要ないっしょ。最初からこの顔で登場すれば、みんな『元々こういう顔の人間なんだな』て認識するっしょ」

 蒼ちゃんの強引な理論に、

 「イヤ、しないよ」

 マルオが口をあんぐりさせた。