この日から唐沢と私の関係は、以前のような険悪な状態へ逆戻りした。イヤ、その頃よりも悪化した状態になった。

 仕事以外の話をされても一切反応をせず、仕事の話には『はい』と返事をするだけ。

 大人気ないとは思う。でも、どうしても赦せなかった。

 小説を書くことは、私の唯一の大事な趣味だ。誰かに馬鹿にされたり、からかわれたりしたくない。だから、絶対に誰にも知られたくなかった。なのに……。

 唐沢のせいで、会社の人間だけではなく、人伝で聞いただろう取引先の人までも、ニヤニヤしながら私を【佐波野先生】呼びし出した。

 唐沢が何か言いたげな視線をこちらに飛ばしてきているのは、ちゃんと気付いている。が、私の心のシャッターは五重にも六重にも閉まっていて、唐沢の視線も言葉も一切受け付けない。

 尋常ではない私の怒りを察してか、蒼ちゃんが私に『唐沢とくっついて』的な話をすることもなくなった。【唐沢】というワードさえ口にしなくなった蒼ちゃんは、私の子どもになることを諦めたのだろう。

 蒼ちゃんをこの世に戻してあげたい気持ちは変わらない。他の誰かの子どもとしてでも、産まれてきて欲しい。だから、蒼ちゃんをいつまでも私の傍に縛っておくわけにはいかない。

 蒼ちゃんの脚本のお手伝いのスピードを上げ、ようやく完成した。

 脚本が出来たから、蒼ちゃんとはもう、お別れなのだろう。