動く草を見て顔色を変えたロンドだが、他の面々は今ひとつ状況を理解していなかった。竜騎士の活躍で、街の中までワームが入ってくることは無いので、子供がワームを目にする機会は少ないのだ。
ロンドは、後輩たちがポカンとしているのを察知し、分かりやすいように解説を添える。
「ワームは脅威の度合いによって、低級、中級、主級、災害級に分類される。このラフレシアは主級。中級低級のワームを率いるため、複数の竜騎士の出動が必要な手強いワームだ」
イヴは「ラフレシア」という名前のワームについて記憶を掘り返した。
「植物の姿をして水辺に潜み、他のワームを誘き寄せて食べる主級ワーム。親株と子株があって、親株を倒さない限り、増え続ける……」
「その通りだ。よく覚えてるな、イヴくん。さすがだ」
ロンドがイヴを褒めてくれる。
説明を聞いていたカケルは、うねうねしている茎を地面に放り出して言った。
「じゃあキャンプ地はヤバいんじゃない? 水辺だよね」
「!!」
ロンドはカケルの言葉に息を飲むと、何もない虚空に視線を向ける。
空中に淡く輝く平べったい魚が現れた。
ロンドは魚に向かって話し掛ける。
「先生、聞こえますか? 先生……」
魔術で遠距離にいる相手に話し掛けているのだと、イヴは気付く。
魚は魔術の案内使魔《ナビゲータ》だ。ロンドは連絡用の魔術を起動したらしい。
『……ロンド君……ワームがここにも……』
魚が伝達する教師の声はかすれて、ひび割れていた。
『生徒たちに……避難と帰還指示を……』
「先生!」
通話は途切れた。
向こう側でトラブルが起きて、魔術が維持できなくなったようだ。
「教師は全員、先にキャンプ地に行って準備を整えていたはずだ。そこにワームが現れていたとしたら……」
ロンドは眼鏡のふちを押さえて考えに耽っている。
「他の班と連絡を取って状況を確認しなければ」
案内使魔《ナビゲータ》がコポコポ泡を吐いた。泡から無数の小魚が現れて空に散っていく。おそらく他の班の元に行ったのだろう。
ロンドはそのまま他の班に同行している年長者と連絡を取り始めた。彼の結論が出るまで、イヴたちは小休止することにする。
「……カケル。お前、竜に変身できるようになったのかよ?」
土竜のクリスが、カケルに話しかけている。
何となくイヴは彼らの会話に耳を傾けた。
「まだ」
「だっせえの。いざとなったら俺たちが竜に変身して、皆を背中に乗せて脱出しなきゃいけないんだぜ」
クリスはカケルをこき下ろすように続けた。
「そんなんでお前、空戦科の竜としてやっていけるのかよ」
カケルは「そうだね~」と曖昧な返事をして、ふわふわした顔で笑っている。イヴは聞いていてクリスの物言いが勘にさわった。
「……壁を作るだけで震えてたくせに、よく言うわね」
「アラクサラさん? でも俺らの中で竜に変身できないのって、カケルだけだぜ」
「それでも!」
イヴが踏み出して目線をきつくすると、クリスは気圧されたように一歩下がった。
「自分からワームに向かって行ったカケルは、あなたより勇敢だったわ!」
クリスはびっくりした顔をしている。
周囲のリリーナやカケルや他の生徒も、いつの間にかイヴを見ていた。
イヴは注目を浴びていることに気付いて少し恥ずかしくなる。もごもごと言い直した。
「それは勿論、竜に変身できない竜族なんて、意味ないと思うけれど……」
「い、いや。俺も言い過ぎたよ。なあ、カケル」
「俺は気にしてないよー」
クリスは苦笑いしてカケルに謝る。
カケルはふわふわと笑って謝罪を受け入れた。
気まずい雰囲気に耐えかねたのか、クリスは自分の班のメンバーと会話を始める。
「……イヴは俺のこと、嫌いだと思ってたよ」
不意に、カケルが柔らかい口調で言った。
確かに授業をサボったり意味不明の行動をしたりするカケルを、イヴはあまり良く思っていなかった。無意識につっけんどんな態度も取っていたと思う。
イヴは、カケルの琥珀色の瞳を真っ直ぐに見て答えた。
「私はいい加減な人は嫌いよ。だけど助けられたのに感謝しないのは、道理に反するわ」
蜂に襲われそうになったところを、助けてくれたのはカケルだった。
ラフレシアの件があって、きちんと礼を言っていなかった。
カケルはイヴの言葉を聞いて目を丸くした後、ふっと笑った。
「へえー、真面目だなあ。それに意外と可愛いんだね」
「ど、そういう意味よ?!」
「あはは」
意味深な言葉を追及するが、カケルは笑って答えなかった。
ロンドは、後輩たちがポカンとしているのを察知し、分かりやすいように解説を添える。
「ワームは脅威の度合いによって、低級、中級、主級、災害級に分類される。このラフレシアは主級。中級低級のワームを率いるため、複数の竜騎士の出動が必要な手強いワームだ」
イヴは「ラフレシア」という名前のワームについて記憶を掘り返した。
「植物の姿をして水辺に潜み、他のワームを誘き寄せて食べる主級ワーム。親株と子株があって、親株を倒さない限り、増え続ける……」
「その通りだ。よく覚えてるな、イヴくん。さすがだ」
ロンドがイヴを褒めてくれる。
説明を聞いていたカケルは、うねうねしている茎を地面に放り出して言った。
「じゃあキャンプ地はヤバいんじゃない? 水辺だよね」
「!!」
ロンドはカケルの言葉に息を飲むと、何もない虚空に視線を向ける。
空中に淡く輝く平べったい魚が現れた。
ロンドは魚に向かって話し掛ける。
「先生、聞こえますか? 先生……」
魔術で遠距離にいる相手に話し掛けているのだと、イヴは気付く。
魚は魔術の案内使魔《ナビゲータ》だ。ロンドは連絡用の魔術を起動したらしい。
『……ロンド君……ワームがここにも……』
魚が伝達する教師の声はかすれて、ひび割れていた。
『生徒たちに……避難と帰還指示を……』
「先生!」
通話は途切れた。
向こう側でトラブルが起きて、魔術が維持できなくなったようだ。
「教師は全員、先にキャンプ地に行って準備を整えていたはずだ。そこにワームが現れていたとしたら……」
ロンドは眼鏡のふちを押さえて考えに耽っている。
「他の班と連絡を取って状況を確認しなければ」
案内使魔《ナビゲータ》がコポコポ泡を吐いた。泡から無数の小魚が現れて空に散っていく。おそらく他の班の元に行ったのだろう。
ロンドはそのまま他の班に同行している年長者と連絡を取り始めた。彼の結論が出るまで、イヴたちは小休止することにする。
「……カケル。お前、竜に変身できるようになったのかよ?」
土竜のクリスが、カケルに話しかけている。
何となくイヴは彼らの会話に耳を傾けた。
「まだ」
「だっせえの。いざとなったら俺たちが竜に変身して、皆を背中に乗せて脱出しなきゃいけないんだぜ」
クリスはカケルをこき下ろすように続けた。
「そんなんでお前、空戦科の竜としてやっていけるのかよ」
カケルは「そうだね~」と曖昧な返事をして、ふわふわした顔で笑っている。イヴは聞いていてクリスの物言いが勘にさわった。
「……壁を作るだけで震えてたくせに、よく言うわね」
「アラクサラさん? でも俺らの中で竜に変身できないのって、カケルだけだぜ」
「それでも!」
イヴが踏み出して目線をきつくすると、クリスは気圧されたように一歩下がった。
「自分からワームに向かって行ったカケルは、あなたより勇敢だったわ!」
クリスはびっくりした顔をしている。
周囲のリリーナやカケルや他の生徒も、いつの間にかイヴを見ていた。
イヴは注目を浴びていることに気付いて少し恥ずかしくなる。もごもごと言い直した。
「それは勿論、竜に変身できない竜族なんて、意味ないと思うけれど……」
「い、いや。俺も言い過ぎたよ。なあ、カケル」
「俺は気にしてないよー」
クリスは苦笑いしてカケルに謝る。
カケルはふわふわと笑って謝罪を受け入れた。
気まずい雰囲気に耐えかねたのか、クリスは自分の班のメンバーと会話を始める。
「……イヴは俺のこと、嫌いだと思ってたよ」
不意に、カケルが柔らかい口調で言った。
確かに授業をサボったり意味不明の行動をしたりするカケルを、イヴはあまり良く思っていなかった。無意識につっけんどんな態度も取っていたと思う。
イヴは、カケルの琥珀色の瞳を真っ直ぐに見て答えた。
「私はいい加減な人は嫌いよ。だけど助けられたのに感謝しないのは、道理に反するわ」
蜂に襲われそうになったところを、助けてくれたのはカケルだった。
ラフレシアの件があって、きちんと礼を言っていなかった。
カケルはイヴの言葉を聞いて目を丸くした後、ふっと笑った。
「へえー、真面目だなあ。それに意外と可愛いんだね」
「ど、そういう意味よ?!」
「あはは」
意味深な言葉を追及するが、カケルは笑って答えなかった。