冬の寒さも終わりを迎え、春の暖かな風が、窓を揺らした。


「誰もいない。
貸し切りみたいっ」

田舎町、たった一つしかない図書館は、今にも崩れそうなぐらいだ。

だけど、解放された図書館は快適。

だって本当に誰もいないんだから。


私は新しい本を探しに、図書館を歩きまくる。

私、橋下 美織(ハシモト ミオリ)。

14歳。
まだまだ初恋もまだの中学二年生。


「んっ?
なんだこれっ、詩集?
つか、凄い埃っ!」


何年も忘れさられていたみたいな、本に
少しだけ同情した。


可哀想だから埃を払い、ハンカチを水に濡らし少しだけ拭いたけど、茶色の表紙は変わらないままだ。


きっと、生まれ持った色に違いない。

「詩集?
なんか、挟まってーーーー!!」


詩集に挟まった一枚の写真。

茶色に変色し始めた写真は、まるでーー
栞の様だった。


「お父さんーー?
なんで、これがーーっ」


詩集に挟まったままの、写真。


まぎれもない。
私の父だった。


"今でもーーーー"


ん?
良く見えない。

字が、滲んでよく見えない。


「今でも、君を愛してる」


ーーーー!!

突然、割り込む声に驚き、本を落としてしまう。


「あっ、ごめん。
びっくりしたね。
なんか、熱心だったから気になっちゃった。
はい、これっ」


いつからいたの?
気配とか無かったんだけどね。


私が熱心に読みすぎていたかも、知れない。

受け取った詩集。



そして、落とした写真を
彼はーー拾った。



やけに、じっくり写真を眺める彼は、誰?

「あの、それ私のじゃないの。
ずっと何年もここに置かれてたみたいっ」


そう、きっと失くした本人はーーーー
彼女に渡したかった筈。



「それに、この男の人はーー私の父親かも。
昔のアルバムで見たから。
父はね、ずっと好きな人が居たんだって、

だけど、令嬢でね。
結婚許して貰えなかったみたい」


私、何知らない人に
こんな話ーー。

名前も知らない人に
だけど、彼は何も言わずただ、黙って聞いてるだけ。

「プロポーズしたけどダメだったって。
つまり、こう言うことだよねーー」


私は、本を見せた。


"今でも、君を愛してる"ーーーー。



これが、父のプロポーズだった。


「きっと、この場所は何年もあって。
二人の秘密の場所だった。

本に写真挟んで、彼女がみてくれたらって叶わないままの、悲恋か。

あは、まるでドラマみたいだよねっ」


なんだろう。
凄く悲しくなる。


伝わらない恋も、、
人を愛する気持ちもまだ、知らない。

だけどーー父の恋に無性に苛立ちが込み上げてきた。


「相手の子もさあ、父に興味がないなら初めから付き合わなければ、良かったのにーー。

悲恋で終わるぐらいならさあ」

私はまだ少し埃のついた本を、撫でた。

「………そうかな?
本当に、悲恋だったのかな?」

ずっと黙ってた彼が、喋った。

はあ!?

悲恋じゃなきゃなんなんだ。
だってーー父は。。









「死んだよ。
田舎の普通の女と結婚して、私を授かったけど諦められない人がいるからって、別れることも出来ずーー

それだけ好きで苦しんで、なんでーー幸せになれないのよ。

金持ちが憎いよ!
反対した、、そいつらが!!」





やり場のない怒り。
どこに向けたらいいか、分からない。