「あのう、お客さん?」
「ああ、すいません。少し考え事をしていまして」
 そう言うとユストは店主にバッグを返す。
「申し訳ありません。こう見えても私、ルエズス教会の神父でして。こう言う物は」
「あ、ああ、そうなんですか。いえ、そういうことなら……」
 そう言うと店主は顔を引きつらせる。
「で、ですが、神父様は、その、お召し物が少々、違う様な」
 店主はそう言うと背の高いユストの姿を下から上へと眺める
 ユストは深い青色の服を着ている。しかし、ユストの所属しているルエズス教会の聖職者が身につけている衣服は通常は白か黒だ。
「神父と言ってもいろいろと役職によって着る物が違うんですよ」
「そ、そうですか。へぇ……」
 感心したような声を出してはいるが、店主の顔は相変わらず引きつっており、その目はユストに早く出て行ってくれと言っていた。

 亜人も人であり、神の加護の下にある。というのがルエズス教会の主張である。ルエズス教会はポルス王国の存在しているユセリア大陸西側で一番の勢力を誇る宗教組織であり、多くの人々がルエズス教会の神とその教えを信仰している。
 つまり亜人を人として扱わないポルス王国にとってルエズス教会というのは非常に都合の悪い存在なのだ。それはポルス王国に住んでいる国民も同じである。
 お前は神の教えに反している、などと言われて気分の良い者はいない。
「すいませんねぇ。雨宿りさせていただいたのに何も買わずに」
「い、いやぁ、気にしないでください。ああ、ほら、雨も止んできましたし、そろそろ……」
 店主は半ば追い出すようにユストを店の外に送り出す。雨はすでに止んでは