結婚式は10月21日(土)の11時から始まった。
彼女のウエディング姿は例えようもないほど美しかった。こんな娘と結婚できて本当に良かったと感激した。
結婚式を挙げることにしてよかった。彼女もとても嬉しそうにしていた。
出席者は両親と弟、彼女の側も両親とやはり弟だった。
食事会は12時から始まった。親族の紹介は式の前にすでに終えていたので、すぐに食事がはじまった。
両家族8人だけの食事会はなごやかで打ち解けて話ができた。
2時にはすべて終えることができた。
両家の両親にそれぞれ挨拶をして、これから二人で東京へ向かう。弟たちは折角帰省したので翌日帰ることになっている。
14時46分発の「はくたか568号」に乗車。この時間帯は「かがやき」はないので3時間ほどかかり、17時52分に東京着の予定だ。
車内で今日と明日の予定を話し合った。
「東京駅から大井町経由で北千束に向かうけど、大井町で食事をしよう。たいした店はないけど、落ち着けるレストランを知っているから。それから、北千束の自宅へ向かうことでいいかな?」
「駅前のコンビニで明日の朝食を買いましょう。明日はスーパーで食料品などを買いたいので、ついてきてもらえますか? それと婚姻届けも提出しなければなりませんね。日曜日でも受け付けてくれます」
「まあ、急ぐことはないけど、そうだね」
僕には考えていることがあった。理奈は二人掛けの座席の窓側でずっと外を見ていた。緊張した様子で居眠りもしなかった。
理奈の手でも握ろうかとも考えたが止めておいた。そんな彼女を僕はずっと横で見ていた。
東京駅には6時ごろに到着した。
住まいのある北千束へは大井町経由となるので、大井町で食事する。大井町には土地勘がある。
昔ながらの洋食屋の風情のあるレストランに着いた。
「この店は古くてきれいではないけど、味はすごくいいんだ。何にする?」
「私はオムライスで」
「僕はここのハンバーグ定食が好きなのでそれにする」
料理が出てくる間に話したいことがあった。
新幹線の中でずっと考えていたことだ。家に着いてからよりも外で話した方が良いと思った。
小声で話し始める。
「あの…婚姻届だけど、しばらく待ったらどうかな?」
「どうしてですか? 入籍しなくていいんですか?」
「君は入籍してもいいんだね」
「もちろんです。式も挙げたのですから覚悟はできています」
「その覚悟が良く分からないんだ」
「分からないって? 十分に話し合ったではないですか?」
「うん、でもどこか納得できない引っ掛かるところがあって」
「じゃあ、どうしたいんですか?」
「提出を延期する。君は働いていて収入もあるし、健康保険もある。扶養家族にする必要がない。今すぐに提出しなければならない理由がない」
「結婚式も挙げたのですよ」
「分かっている。会食が終わるまでは提出しようと思っていたが、新幹線の中でよくよく考えてみた。メリットが見つからなかった。それに僕が力ずくで君を自由にしようとしたら離婚すると言った」
「私を力ずくで自由にしようと考えているのですか?」
「いや、君の気が変わって離婚したいと思った時に、君が困らないようにしておいてあげたいと思ったからだ」
「私のことを思ってですか?」
「それとセックスレスが引っ掛かっている。結婚して入籍したら、セックスはすべきだと今も思っている。身体のつながりができると情も移ると思うから」
「・・・・・・」
「君は気持ちが通い合うまではセックスレスにしたいといった。だったら、それまでは入籍すべきでないと思った」
「あなたの言うことは分かります。それでは婚姻届の書類一式をあなたに預けます。好きになさってください。お任せします」
「君は自分の生活の保障のために入籍したいのか?」
「そう思っていただいてもしかたありませんが、入籍は私のあなたへの誠意です」
「それから、結婚指輪をどうする? 入籍しないし、扶養家族の申請も必要ないから、会社では同居生活も黙っているつもりでいる。だから僕は結婚指輪をしないでおこうと思っている。君はそれでいいか?」
「それで構いません」
「私も入籍しないのであれば、会社へ届ける必要がありません。住所の変更だけで済みます。勤め先では結婚指輪はしません。でも婚約指輪はするつもりです」
「どうして?」
「あなたへの私の誠意です。それと男除けになります」
「指輪のことを聞かれるよ?」
「聞かれても何も話しません」
「僕への誠意はよく分かった。ありがとう」
「分かってもらえて嬉しいです」
「僕たちのこれからの関係はなんというんだろう? 同居? 同棲? 事実婚? 契約結婚? 見合い結婚? それとも偽装結婚?」
「どれにも当てはまらないと思います」
「いずれにしても、今日からすぐに同居生活は始まる。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
二人に注文した料理が運ばれて来た。
「ここのオムライスは最高なんだ。僕もよく食べていた」
「本当においしいですね」
理奈が納得してくれたようで安心した。僕は当面入籍をしないことで、何かつかえていたものがとれた。
これで気楽に同居生活を始められる。セックスレスが解消した時に入籍すればいいだけの話だ。
彼女のウエディング姿は例えようもないほど美しかった。こんな娘と結婚できて本当に良かったと感激した。
結婚式を挙げることにしてよかった。彼女もとても嬉しそうにしていた。
出席者は両親と弟、彼女の側も両親とやはり弟だった。
食事会は12時から始まった。親族の紹介は式の前にすでに終えていたので、すぐに食事がはじまった。
両家族8人だけの食事会はなごやかで打ち解けて話ができた。
2時にはすべて終えることができた。
両家の両親にそれぞれ挨拶をして、これから二人で東京へ向かう。弟たちは折角帰省したので翌日帰ることになっている。
14時46分発の「はくたか568号」に乗車。この時間帯は「かがやき」はないので3時間ほどかかり、17時52分に東京着の予定だ。
車内で今日と明日の予定を話し合った。
「東京駅から大井町経由で北千束に向かうけど、大井町で食事をしよう。たいした店はないけど、落ち着けるレストランを知っているから。それから、北千束の自宅へ向かうことでいいかな?」
「駅前のコンビニで明日の朝食を買いましょう。明日はスーパーで食料品などを買いたいので、ついてきてもらえますか? それと婚姻届けも提出しなければなりませんね。日曜日でも受け付けてくれます」
「まあ、急ぐことはないけど、そうだね」
僕には考えていることがあった。理奈は二人掛けの座席の窓側でずっと外を見ていた。緊張した様子で居眠りもしなかった。
理奈の手でも握ろうかとも考えたが止めておいた。そんな彼女を僕はずっと横で見ていた。
東京駅には6時ごろに到着した。
住まいのある北千束へは大井町経由となるので、大井町で食事する。大井町には土地勘がある。
昔ながらの洋食屋の風情のあるレストランに着いた。
「この店は古くてきれいではないけど、味はすごくいいんだ。何にする?」
「私はオムライスで」
「僕はここのハンバーグ定食が好きなのでそれにする」
料理が出てくる間に話したいことがあった。
新幹線の中でずっと考えていたことだ。家に着いてからよりも外で話した方が良いと思った。
小声で話し始める。
「あの…婚姻届だけど、しばらく待ったらどうかな?」
「どうしてですか? 入籍しなくていいんですか?」
「君は入籍してもいいんだね」
「もちろんです。式も挙げたのですから覚悟はできています」
「その覚悟が良く分からないんだ」
「分からないって? 十分に話し合ったではないですか?」
「うん、でもどこか納得できない引っ掛かるところがあって」
「じゃあ、どうしたいんですか?」
「提出を延期する。君は働いていて収入もあるし、健康保険もある。扶養家族にする必要がない。今すぐに提出しなければならない理由がない」
「結婚式も挙げたのですよ」
「分かっている。会食が終わるまでは提出しようと思っていたが、新幹線の中でよくよく考えてみた。メリットが見つからなかった。それに僕が力ずくで君を自由にしようとしたら離婚すると言った」
「私を力ずくで自由にしようと考えているのですか?」
「いや、君の気が変わって離婚したいと思った時に、君が困らないようにしておいてあげたいと思ったからだ」
「私のことを思ってですか?」
「それとセックスレスが引っ掛かっている。結婚して入籍したら、セックスはすべきだと今も思っている。身体のつながりができると情も移ると思うから」
「・・・・・・」
「君は気持ちが通い合うまではセックスレスにしたいといった。だったら、それまでは入籍すべきでないと思った」
「あなたの言うことは分かります。それでは婚姻届の書類一式をあなたに預けます。好きになさってください。お任せします」
「君は自分の生活の保障のために入籍したいのか?」
「そう思っていただいてもしかたありませんが、入籍は私のあなたへの誠意です」
「それから、結婚指輪をどうする? 入籍しないし、扶養家族の申請も必要ないから、会社では同居生活も黙っているつもりでいる。だから僕は結婚指輪をしないでおこうと思っている。君はそれでいいか?」
「それで構いません」
「私も入籍しないのであれば、会社へ届ける必要がありません。住所の変更だけで済みます。勤め先では結婚指輪はしません。でも婚約指輪はするつもりです」
「どうして?」
「あなたへの私の誠意です。それと男除けになります」
「指輪のことを聞かれるよ?」
「聞かれても何も話しません」
「僕への誠意はよく分かった。ありがとう」
「分かってもらえて嬉しいです」
「僕たちのこれからの関係はなんというんだろう? 同居? 同棲? 事実婚? 契約結婚? 見合い結婚? それとも偽装結婚?」
「どれにも当てはまらないと思います」
「いずれにしても、今日からすぐに同居生活は始まる。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
二人に注文した料理が運ばれて来た。
「ここのオムライスは最高なんだ。僕もよく食べていた」
「本当においしいですね」
理奈が納得してくれたようで安心した。僕は当面入籍をしないことで、何かつかえていたものがとれた。
これで気楽に同居生活を始められる。セックスレスが解消した時に入籍すればいいだけの話だ。