(11月第1木曜日)
木曜日になった。今日は同居生活が始まってから初めて風俗通いをする。

理奈は私に分からなければ良いと言っていたので、公認されていると思っている。

朝食を食べながら、なにげなく今日の予定を伝えておく。

「今日は同期との懇親会があるので、夕食はパスします。2次会まで行くかもしれないので、帰りは11時過ぎになるかもしれません。先に休んでいてください」

「分かりました。飲み過ぎに気を付けて無事に帰って下さい」

嘘は少しも言っていない。ただ、本当のことも言っていない。

いつものように軽くハグして僕が先に出かける。

3時に秋本君から確認のメールが入った。仕事は順調で定時に終われそうなので[OK]と入れる。それと[指名をお願いします]と入れた。

彼は僕のなじみを知っているのでまかせた。15分ほどして[指名OK]のメールが入った。

今日は仕事も遊びも順調に事が運んだ。指名した娘は今までに何回か入っているので、気心が知れている。

すべて終えて二人で横になっていると癒されたと感じることができるいい娘だ。

身体だけの関係だけど癒される。ほんの短い時間だけど僕はこの時間がとても好きだ。幸せな気分に浸ることができる。誘われても断らないのはそのためだ。

帰りに居酒屋で秋本君と飲んで帰るのが恒例となっている。まあ2次会だ。

秋本君も機嫌がいい。気心の知れた友人と言いたいことを言い合って一緒に飲むビールは最高にうまい。

「秋本君に聞いてみたいことがあった。教えてくれないか?」

「いいよ、何でも聞いて」

「君たち見合い結婚だったね」

「そうだ、正真正銘の見合い結婚だと思う」

「交際期間は?」

「見合いしてから6か月で式を挙げたから、6か月位かな」

「婚約はいつ?」

「交際して2か月位かな」

「それから交際中の二人の関係は?」

「知っているだろう。僕はそういうのは不得手なんだ。だから見合いした」

「それで」

「結婚式の少し前にキスして抱きしめた位だ。それで新婚旅行で初めて彼女を抱いた」

「その話は前に聞いた。初めて抱く時、彼女はどんな様子だった?」

「よく覚えている。覚悟したみたいに横になって僕にすべて任せていた」

「彼女は何か言っていたか?」

「いや、黙って、僕にしがみついていた」

「そうか」

「なんでそんなことを聞くんだ」

「後学のためだ。そのときの奥さんの気持ちはどんなだったかと思って」

「それなら後から聞いた」

「なんて言っていた」

「あなたにすべて任せると決心していましたと言っていた」

「それから、秋本君に何か聞かなかったか、私が初めてだったんですか?とか、慣れていますね!とか」

「それはだいぶん後だ、うまくできるようになって気心が通じたころだと思った。いろいろ知っているんですね! と言われた」

「どう答えた?」

「若いころ風俗に行っていたことがあるからと答えた」

「確かに正解だ。彼女はなんて言った?」

「そうなんですかといって、それ以上のことは聞かなかった」

「秋本君が慣れていたので、結婚前の女性関係が気になったのかもしれないね」

「僕には有り得ないことだけどね」

「そうか、ありがとう」

「どうしたんだ? 根掘り葉掘り聞いて。吉川君だから話したんだぞ。口外するなよ」

「分かっている。ありがとう」

マンションには11時前には着いた。

外から明かりが点いているのが分かる。理奈は起きていてくれた。まあ、僕も理奈が遅く帰る時には起きて待っている。

玄関の鍵を開けるとすぐに理奈が玄関まで迎えに出てきてくれた。

「ただいま」

「おかえりなさい。遅かったので無事か心配していました」

「ありがとう。大丈夫だ、そんなに飲んでいないし。すぐにお風呂に入るから」

「上がるまで起きています。その間に着ていたものを洗濯機にかけておきます」

そういわれて無意識にワイシャツの匂いを嗅いでしまった。

それを理奈が見ていたのに気がついた。

目があったので、こちらから目線をはずしてしまった。

後ろめたい気持ちがそうさせたのかもしれない。

匂いはしないはずだからバレることはないと思った。後で飲んだ居酒屋の匂いの方がきつかったからだ。

お風呂から上がったら、やはり理奈は起きて待っていてくれた。

「お洗濯をしておきました。おやすみなさい」とだけ言って自分の部屋にすぐに入ってしまった。

帰って来た時と少し感じが違うので、バレたかな? とも思った。

でも絶対にバレない自信があった。