由紀ちゃんが僕の部屋へ来るのは今日で5回ほどになるだろうか? もう勝手が分かっていて、お湯を沸かしてコーヒーを入れてくれる。

2週間前に買った大き目のソファーに腰かけて二人ゆっくり飲んでいる。

「今日は4人でいろいろお話ができてよかったわ」

「秘密を共有した同志みたいだね。最初の組み合わせが今の組み合わせに変わってしまうなんて思ってもみなかったよ」

「でもこれが成り行きというか、落ち着くところへ落ち着いた感じがしています。これで本当によかったと思っています」

「それぞれのカップルの進む道は違うかもしれないけど、お互いに相談もできるからいいね」

「野坂先輩は頼りになります。仁さんだって、お二人に随分頼りにされているみたいですね」

「実は二人から相談されていたからね。こうなるようにアドバイスしたんだ。良い方向へ進んで本当によかった。『情けは人のためならず』かな? 野坂さんにも助けられたからね」

「これからも良いお付き合いをしたいですね」

「彼らが今日はどうするんだろうとちょっと気になるけど、それより由紀ちゃんは今日泊まっていってくれるよね」

「はい、一緒にいると安心して心が休まりますから」

「そう言ってくれて嬉しい、僕もだ」

由紀ちゃんの肩を抱き寄せてキスをする。由紀ちゃんが身体を預けてくる。

しばらく抱き合ってソファーにもたれかかっていると二人共うとうとしてきた。

お風呂を沸かして由紀ちゃんに先に入るように促す。

じゃあお先にと言って入ったところにすかさず僕が入って行く。

突然のことで、由紀ちゃんはきゃあーと言ってうずくまる。

「ごめん、でも一緒に入ってみたくなったから」

「恥ずかしいから、ダメです」

「洗ってあげる」

シャワーを背中にかけてせっけん液を吸い込ませたスポンジで洗い始める。

由紀ちゃんは観念したとみえて、しゃがんでジッとしている。

「前を洗うから、こっちを向いて」

しぶしぶ向きを変える。もう諦めたみたいで言うなりになる。でも恥ずかしいのか目をつむっている。

こっちはそれをよいことに可愛い身体を丁寧に洗ってあげる。きれいな身体だ。

「今が一番いい時で楽しいね」

「私もそう思っています。今のこの時を大切にしたいです」

由紀ちゃんがしがみついてくる。しばらく石鹸のついた身体で抱き合う。

「僕も洗ってくれる?」

「はい」

今度は由紀ちゃんが洗ってくれる。下半身も恥ずかしがらないで洗ってくれる。

「恥ずかしがらないんだね」

「父とは母がなくなるまでは一緒にお風呂に入っていましたから」

「お母さんが亡くなったのは小学6年生の時と言っていたけど」

「そうです。でも母が亡くなってからは一緒に入ってくれなくなりました」

「そうなんだ」

洗い終わるとシャワーで石鹸を流してくれた。

二人でバスタブにつかったらお湯があふれた。そのままバスタブで抱き合う。

頭からシャワーをかけあってからお風呂から出て、バスタオルで身体を拭き合って、僕は由紀ちゃんを抱いてベッドまで運ぶ。

由紀ちゃんはジッと僕の顔を見ている。

「照れくさいから見つめないでくれないか」

「ジッと見つめているのは仁さんの方です」

「そうかな」

それからベッドでゆっくり愛し合う。

心地よい疲労の中にいると、由紀ちゃんが耳元に囁く。

「身体の上に抱きついて眠ってもいいですか」

「由紀ちゃんはそんなに重くないだろうから、いいよ」

「うれしい、私、小さい時によく父のお腹の上で寝させてもらいました。父は私が抱きついて上で眠ると、しっかり抱いて寝てくれました。温かくて本当に安心して眠れました。だから仁さんのお腹の上で眠ってみたいんです」

「落ちないようにしっかり抱いて眠らせてあげる」

「でも、小さい時あまりにも心地よくて、父のお腹の上で明け方におねしょをしたことがあるんです。そしたら、父がそれに気づいて放りだされました。それからもお腹の上で寝かせてくれましたが、明け方になると必ずトイレに連れていかれました」

「この年になっておねしょはないだろうから安心しているよ」

由紀ちゃんはお腹の上で初めは僕に重さがかからないようにしていたけど、しばらくすると寝入ったと見えて体重がかかってきた。

はじめはその重さに心地良さを感じていたが、だんだん耐えられなくなってきたので、そっと横に滑らせて抱きかかえて眠った。

由紀ちゃんは横になったまま抱きついて眠っていた。可愛いもんだ。

◆ ◆ ◆
朝、由紀ちゃんが身体の上にのっかかってきたので目が覚めた。

顔を見ると安らかに眠っている。口からよだれをたらしている。可愛い。

寝ぼけてまた、僕の上にのって来たいみたいだった。

身体をすこし横にずらすと楽になったので、抱き締めてそのままにしておいた。これも悪くない感じだ。

しばらくして由紀ちゃんが動いたので完全に僕の横に落ちた。そして目が覚めたみたい。

「おはようございます。上で寝させてもらってありがとう。気持ちよかった。重かったでしょう」

「少しね」

「毎回お願いします」

「寝入るまでならいいけど、寝入ったら横へ移すけど、それでよければ」

「それでもいいです。でも明け方も上に載っていいですか」

「まあ、起きる少し前くらいなら、目覚まし代わりなるので」

「お願いします。嬉しい」

「じゃあ、思い切って一緒に住まないか」

「ここに私が? 一緒に住む? いいんですか?」

「1LDKだから二人住めないことはない。こうして由紀ちゃんと一緒にいると本当に心が休まるというか、癒されるから。僕はほかの人には頼らないで何でも一人でやる覚悟はできている。

由紀ちゃんに何かしてもらいたいから一緒に住もうと言っているのではないんだ。一人ではやはり寂しいんだ。自分のことは自分でするから、一緒に住んでくれないか。もちろん由紀ちゃんの世話もするから、考えてみてくれないか」

「私も一人暮らしは寂しいので一緒に住みたいですけど」

「できれば入籍して一緒に住むのがいいと思うけど、今入籍すると同じ職場だからおそらくどちらかがすぐに異動になる。このまま近くで働くには交際を秘密にしておいた方が良いと思う」

「私もそう思います。一緒に住んでも交際を秘密にしておくのがいいと思います。そのうちに仁さんが転勤になる時に一緒に付いていきます。それまでは秘密でいいと思います」

「入籍しないで一緒に住んでくれというのはとても心苦しい。でも由紀ちゃんと一緒に住みたい思いは強い」

「仁さんが大好きだから、今を大切にしたいから、それでいいんです。先のことは先のことですから、その時に最良の選択をすればいいと思っています」

「そういってくれて嬉しい」

「さっそく、引越しの準備をします。いいですか」

「僕も手伝うから」

◆ ◆ ◆
あれから2週間経った土曜日に由紀ちゃんが引越しをしてきた。これで二人の秘密の生活が始まった。

同棲していることは野坂さんたちにもしばらく秘密にしておくことにした。

この生活が長く続くといいけど。