朝6時に目覚ましが鳴る。昨日は疲れていたのかすぐに眠ってしまった。今日は金曜日、朝から新規プロジェクトの発足会議。
いつものように、簡単な朝食を食べて、7時に家を出る。
朝の田園都市線のラッシュは殺人的で、二子新地駅からは乗れないこともあるくらいに混んでいる。だからあえて時差出勤で7時ごろの電車に乗る。
この時間だと余裕に乗れる。会社へは8時ごろには到着するのでゆっくり休んで仕事に備える。勤務時間は9時から5時まで。
10時から会議が始まった。司会進行はプロジェクトリーダーの竹本室長が行い、説明はプロジェクトマネージャーの僕が行う。
事前に根回しができているので異論なく進行してゆく。ここが事前に根回しをするマネージャーの腕のみせどころ。
事前打合せと異なる意見を言うメンバーもいるが、そこはリーダーがうまく説得して決めてくれる。さすがリーダーだ。
会議はほぼ予定通りの1時間30分で終了した。やれやれ!
「岸辺君、ご苦労様。うまくいった。さすがだ。あとで慰労するよ」
「サポートありがとうございました」
「あと、会議録をまとめて、メンバーに確認しておいてくれ」
「了解しました」
一旦プロジェクトがスタートすれば、各メンバーが責任をもって分担を進めてくれるので、仕事の6割くらいは終わったのも同然。
あとは4半期ごとに進捗会議を開催して、進捗を管理・調整して、1年後にプロジェクトの成果を取りまとめて終了する。
ただ、プロジェクトがこれ1本なら楽だけど、これがあと4本同時に進行しているので、結構忙しい。それぞれの会議の日程調整だけでも随分手数がかかる。
会議を開催したら会議録を作り決定事項をまとめて全員に確認を取っておく。メモを取っておいて作成しなければならないので結構手数がかかる。
今日は会議の後、室長と今後の進め方についての打ち合わせ、その後、別のプロジェクトの進捗会議の日程の調整に時間がかかった。
午前の会議のメモをまとめて会議録の作成を始めたのが4時過ぎ。出来上がりを室長と擦り合わせて、ようやく完成。月曜日の朝一番でメンバーに持ち回って確認を取る。確認は早いに限る。
メールで送って返事をもらう方法もあるが、かえって時間がかかる。2~3日かかることもある。持って回れば2,3時間で終わる。
すぐにコピー室へ行く。今日はまだ7時前だ。あの地味子ちゃんがまたコピーをしている。今日は黒いスカートが黒いズボンに替わっている。
「がんばってるね」
「これは量が少ないので、すぐに代わります」
「いいよ、終わってからで」
「じゃあ、次の資料が終わるまで使わせて下さい。その後、使ってください。もう一つは量が多いので、終わってからにします」
「そうしてもらえると、またトラブルがあったらお願いできるから好都合だ」
「でもトラブルはめったにないんですけどね」
「結構、忙しそうだね」
「4半期ごとの決算の発表があるので、その準備の資料作りです」
「今日も遅くなりそうなの?」
「今日はこれで終わりです」
「じゃあ、昨日のお礼をさせてくれる? 夕食でもご馳走したいけどどうかな」
「悪いから、お心遣いは無用です」
「これから、またお世話になるかもしれないから。横山さんの帰り道によいお店ないのかな。家はどこの沿線? 最寄り駅は?」
知らない振りをして聞く。
「田園都市線の溝の口です」
「偶然だな、僕は田園都市線の二子新地」
「じゃあ、7時過ぎにビルの出口で待っているから、いいね!」
「すみません。分かりました」
溝の口か! 近くなので外勤の帰りに乗り換えに何回か降りたこともあるし、食事をしたこともある。行きがかりで、強引に食事に誘ってしまった。
地味子ちゃんと話しているとなんとなくほっとする。なぜかもう少し話をしてみたくなる。
もう社員のほとんどが帰った後だから、一緒に帰ったところで、方角が同じなので目立たないだろう。
入口で待っていると10分ほどして、リュックを肩に、地味子ちゃんが出てきた。
「すみません。お待たせして、帰りがけにまたコピーを頼まれてしまって」
「気にしないで、無理やり誘ってしまったから、もういいのかい」
「大丈夫です」
「じゃあ、行こうか」
「本当にいいんですか。ただ、コピーのつまりを直しただけで。業務の一環ですけど」
「遠慮しなくていいよ。本当に助かった。どこがいい?」
「じゃあ、溝の口に私がいつも行っている焼き肉屋さんがあるんです。高級ではありませんが、値段も手ごろで、どうですか?」
「いいね。焼肉か、食べたい。ここのところ仕事が忙しかったから、ばて気味でちょうどいい。そこへ行こう」
「先に歩いて、僕は歩くのが早いから、君について行く」
実際、地味子ちゃんと二人で歩いていても全く目立たない。地味子ちゃんに目を止める人もいない。地下鉄のホームをいつも乗る位置まで進んで行く。
僕の乗る位置と随分離れている。表参道の乗り換え位置も違っていた。これなら、同じ時間に電車に乗ってもなかなか合うことがない。
混んでいて電車の中では話ができない。二子新地から2つ目の溝の口で下車。
改札口を抜けて5分ばかり歩いた古い建物の2階にその店はあった。
「女の子が焼肉っておかしいでしょう」
「いやいや、肉食系が今はやっているから。近頃は高齢者には魚よりも肉を勧めているくらいだ」
注文は地味子ちゃんにまかせた。丁度二人分くらいを適当に頼んでくれている。飲み物は、僕は瓶ビール、地味子ちゃんはハイサワーを注文。地味子ちゃんもお酒を飲むんだ。
飲み物が運ばれてまず乾杯。しばらくして、肉が運ばれてくると焼いてくれる。
「ときどき無性に食べたくなるので一人で来て食べています。ここは昔から家族でもきていたところなんです」
「家族と一緒に暮らしているなんていいね。僕は天涯孤独だよ」
「私も同じようなものです。父は高校生の時、事故でなくなりました」
「交通事故かなんか? 大工だったんです。高いところから落ちてそれがもとで」
「そうなんだ。僕の両親は大学に入った年に交通事故でなくなった」
「そうなんですか」
「でもお母さんはいるんだろう」
「母は再婚しました」
「へー」
「母は幸せみたいで、良かったと思っています。休みの日なんかにお互いの家を行き来しています。唯一の家族ですから、頼りにしています」
「一緒に暮らせばいいのに」
「母と結婚した人はいい人でそう言ってくれますが、母の負担にならないように遠慮しています」
「それで、一人暮らしなの?」
「一人の方が気楽ですから」
「寂しくないの」
「所詮、人間一人ですから」
「そうだね。所詮人間は一人ぼっち。それが分かっていれば人とのつながりを大切にできる」
「私もそう思っています。肉が焼けました。食べてください」
「お客さんの横山さんもどんどん食べて」
「食べています。おいしい。元気がでます」
「朝は何時ごろに会社に来ているの?」
「電車が遅れることがあるので、それを見越して、絶対に遅刻をしないように少し早めに出るようにしています」
「朝のラッシュは殺人的だからね」
「溝の口は降りる人がいるので、なんとか乗れます」
「僕の二子新地はいっぱいで乗れないことがあるから、早めに出勤している」
「会社に着くのはいつ頃ですか」
「大体8時ごろ」
「随分早いですね。それじゃ駅では会いませんね。帰りは同じころが多いと思いますがお会いしませんでしたね」
「今まで気が付かなったかもしれないし、乗り降りするホームの位置が違っているからじゃないか」
「通勤にリュックを使っているみたいだけど?」
「ラッシュでカバンがつぶれるのでリュックにしてみました。帰りにスーパーで買い物をするので中に入れられますし、両手が使えますから便利です。一度使うと止められなくなりました」
「確かに便利そうだね」
「かっこいい岸辺さんには似合いません」
「そうかな」
それから会社のことで話が弾んだ。結構、会社のことは知っている。
この会社へ来たのは3年前、はじめは一階下の業務室にいて、総務部へ来てからほぼ1年になるとのこと。
僕のことはコピー室や廊下で見かけて知っていたそうだが、僕は地味子ちゃんには気付かなかった。
丁度二人でお腹が一杯になるくらいの量を注文してくれていたので残さず平らげた。なかなかおいしい肉だった。地味子ちゃんはハイサワーをおかわりしていた。
「お酒強いんだね」
「そうでもないですが、楽しい時は飲みたくなります」
「それはよかった」
「ありがとうございました。久しぶりです。誰かと一緒に食事をしたのは」
「僕も女性と食事をするのは久しぶりで楽しかった」
「お勘定、私も払わせて下さい」
「いいよ、お礼に誘ったのは僕だから」
「おいしくて楽しかったから、私も払います。こうさせて下さい。岸辺さんのお給料は私の何倍くらいですか?」
「うーん。おそらく2倍以上は貰っていると思うけど」
「それなら、岸辺さんが2、私が1だから、1/3払わせて下さい」
「どうしてもと言うのならそれでもいいよ。君のような娘は初めてだよ」
「死んだ父は、うまいものは自分の稼いだ金で食べる! といっていました。そう言って毎日仕事の帰りに居酒屋でお酒を飲んでいました。それを私と母がとがめると『てめえが働いた金で好きな酒を飲んでなにが悪い、会社の金や接待でただ酒を飲むのとは訳が違う』と怒っていました。今は父の言っていたことがよく分かります」
「お父さんはすごいね。それじゃあ、今日の焼肉はおいしくて楽しかったということでよかった」
「ごちそうさまでした」
勘定を済ませると地味子ちゃんはそのまま歩いて帰って行った。アパートはここから徒歩10分くらいのところだとか。
家まで送ろうかと言ったが、まだ早い時間なので大丈夫と言うのでその場で見送った。
不思議な子だ。話していても嫌みが全くなくてなぜか癒される感じがする。
いつものように、簡単な朝食を食べて、7時に家を出る。
朝の田園都市線のラッシュは殺人的で、二子新地駅からは乗れないこともあるくらいに混んでいる。だからあえて時差出勤で7時ごろの電車に乗る。
この時間だと余裕に乗れる。会社へは8時ごろには到着するのでゆっくり休んで仕事に備える。勤務時間は9時から5時まで。
10時から会議が始まった。司会進行はプロジェクトリーダーの竹本室長が行い、説明はプロジェクトマネージャーの僕が行う。
事前に根回しができているので異論なく進行してゆく。ここが事前に根回しをするマネージャーの腕のみせどころ。
事前打合せと異なる意見を言うメンバーもいるが、そこはリーダーがうまく説得して決めてくれる。さすがリーダーだ。
会議はほぼ予定通りの1時間30分で終了した。やれやれ!
「岸辺君、ご苦労様。うまくいった。さすがだ。あとで慰労するよ」
「サポートありがとうございました」
「あと、会議録をまとめて、メンバーに確認しておいてくれ」
「了解しました」
一旦プロジェクトがスタートすれば、各メンバーが責任をもって分担を進めてくれるので、仕事の6割くらいは終わったのも同然。
あとは4半期ごとに進捗会議を開催して、進捗を管理・調整して、1年後にプロジェクトの成果を取りまとめて終了する。
ただ、プロジェクトがこれ1本なら楽だけど、これがあと4本同時に進行しているので、結構忙しい。それぞれの会議の日程調整だけでも随分手数がかかる。
会議を開催したら会議録を作り決定事項をまとめて全員に確認を取っておく。メモを取っておいて作成しなければならないので結構手数がかかる。
今日は会議の後、室長と今後の進め方についての打ち合わせ、その後、別のプロジェクトの進捗会議の日程の調整に時間がかかった。
午前の会議のメモをまとめて会議録の作成を始めたのが4時過ぎ。出来上がりを室長と擦り合わせて、ようやく完成。月曜日の朝一番でメンバーに持ち回って確認を取る。確認は早いに限る。
メールで送って返事をもらう方法もあるが、かえって時間がかかる。2~3日かかることもある。持って回れば2,3時間で終わる。
すぐにコピー室へ行く。今日はまだ7時前だ。あの地味子ちゃんがまたコピーをしている。今日は黒いスカートが黒いズボンに替わっている。
「がんばってるね」
「これは量が少ないので、すぐに代わります」
「いいよ、終わってからで」
「じゃあ、次の資料が終わるまで使わせて下さい。その後、使ってください。もう一つは量が多いので、終わってからにします」
「そうしてもらえると、またトラブルがあったらお願いできるから好都合だ」
「でもトラブルはめったにないんですけどね」
「結構、忙しそうだね」
「4半期ごとの決算の発表があるので、その準備の資料作りです」
「今日も遅くなりそうなの?」
「今日はこれで終わりです」
「じゃあ、昨日のお礼をさせてくれる? 夕食でもご馳走したいけどどうかな」
「悪いから、お心遣いは無用です」
「これから、またお世話になるかもしれないから。横山さんの帰り道によいお店ないのかな。家はどこの沿線? 最寄り駅は?」
知らない振りをして聞く。
「田園都市線の溝の口です」
「偶然だな、僕は田園都市線の二子新地」
「じゃあ、7時過ぎにビルの出口で待っているから、いいね!」
「すみません。分かりました」
溝の口か! 近くなので外勤の帰りに乗り換えに何回か降りたこともあるし、食事をしたこともある。行きがかりで、強引に食事に誘ってしまった。
地味子ちゃんと話しているとなんとなくほっとする。なぜかもう少し話をしてみたくなる。
もう社員のほとんどが帰った後だから、一緒に帰ったところで、方角が同じなので目立たないだろう。
入口で待っていると10分ほどして、リュックを肩に、地味子ちゃんが出てきた。
「すみません。お待たせして、帰りがけにまたコピーを頼まれてしまって」
「気にしないで、無理やり誘ってしまったから、もういいのかい」
「大丈夫です」
「じゃあ、行こうか」
「本当にいいんですか。ただ、コピーのつまりを直しただけで。業務の一環ですけど」
「遠慮しなくていいよ。本当に助かった。どこがいい?」
「じゃあ、溝の口に私がいつも行っている焼き肉屋さんがあるんです。高級ではありませんが、値段も手ごろで、どうですか?」
「いいね。焼肉か、食べたい。ここのところ仕事が忙しかったから、ばて気味でちょうどいい。そこへ行こう」
「先に歩いて、僕は歩くのが早いから、君について行く」
実際、地味子ちゃんと二人で歩いていても全く目立たない。地味子ちゃんに目を止める人もいない。地下鉄のホームをいつも乗る位置まで進んで行く。
僕の乗る位置と随分離れている。表参道の乗り換え位置も違っていた。これなら、同じ時間に電車に乗ってもなかなか合うことがない。
混んでいて電車の中では話ができない。二子新地から2つ目の溝の口で下車。
改札口を抜けて5分ばかり歩いた古い建物の2階にその店はあった。
「女の子が焼肉っておかしいでしょう」
「いやいや、肉食系が今はやっているから。近頃は高齢者には魚よりも肉を勧めているくらいだ」
注文は地味子ちゃんにまかせた。丁度二人分くらいを適当に頼んでくれている。飲み物は、僕は瓶ビール、地味子ちゃんはハイサワーを注文。地味子ちゃんもお酒を飲むんだ。
飲み物が運ばれてまず乾杯。しばらくして、肉が運ばれてくると焼いてくれる。
「ときどき無性に食べたくなるので一人で来て食べています。ここは昔から家族でもきていたところなんです」
「家族と一緒に暮らしているなんていいね。僕は天涯孤独だよ」
「私も同じようなものです。父は高校生の時、事故でなくなりました」
「交通事故かなんか? 大工だったんです。高いところから落ちてそれがもとで」
「そうなんだ。僕の両親は大学に入った年に交通事故でなくなった」
「そうなんですか」
「でもお母さんはいるんだろう」
「母は再婚しました」
「へー」
「母は幸せみたいで、良かったと思っています。休みの日なんかにお互いの家を行き来しています。唯一の家族ですから、頼りにしています」
「一緒に暮らせばいいのに」
「母と結婚した人はいい人でそう言ってくれますが、母の負担にならないように遠慮しています」
「それで、一人暮らしなの?」
「一人の方が気楽ですから」
「寂しくないの」
「所詮、人間一人ですから」
「そうだね。所詮人間は一人ぼっち。それが分かっていれば人とのつながりを大切にできる」
「私もそう思っています。肉が焼けました。食べてください」
「お客さんの横山さんもどんどん食べて」
「食べています。おいしい。元気がでます」
「朝は何時ごろに会社に来ているの?」
「電車が遅れることがあるので、それを見越して、絶対に遅刻をしないように少し早めに出るようにしています」
「朝のラッシュは殺人的だからね」
「溝の口は降りる人がいるので、なんとか乗れます」
「僕の二子新地はいっぱいで乗れないことがあるから、早めに出勤している」
「会社に着くのはいつ頃ですか」
「大体8時ごろ」
「随分早いですね。それじゃ駅では会いませんね。帰りは同じころが多いと思いますがお会いしませんでしたね」
「今まで気が付かなったかもしれないし、乗り降りするホームの位置が違っているからじゃないか」
「通勤にリュックを使っているみたいだけど?」
「ラッシュでカバンがつぶれるのでリュックにしてみました。帰りにスーパーで買い物をするので中に入れられますし、両手が使えますから便利です。一度使うと止められなくなりました」
「確かに便利そうだね」
「かっこいい岸辺さんには似合いません」
「そうかな」
それから会社のことで話が弾んだ。結構、会社のことは知っている。
この会社へ来たのは3年前、はじめは一階下の業務室にいて、総務部へ来てからほぼ1年になるとのこと。
僕のことはコピー室や廊下で見かけて知っていたそうだが、僕は地味子ちゃんには気付かなかった。
丁度二人でお腹が一杯になるくらいの量を注文してくれていたので残さず平らげた。なかなかおいしい肉だった。地味子ちゃんはハイサワーをおかわりしていた。
「お酒強いんだね」
「そうでもないですが、楽しい時は飲みたくなります」
「それはよかった」
「ありがとうございました。久しぶりです。誰かと一緒に食事をしたのは」
「僕も女性と食事をするのは久しぶりで楽しかった」
「お勘定、私も払わせて下さい」
「いいよ、お礼に誘ったのは僕だから」
「おいしくて楽しかったから、私も払います。こうさせて下さい。岸辺さんのお給料は私の何倍くらいですか?」
「うーん。おそらく2倍以上は貰っていると思うけど」
「それなら、岸辺さんが2、私が1だから、1/3払わせて下さい」
「どうしてもと言うのならそれでもいいよ。君のような娘は初めてだよ」
「死んだ父は、うまいものは自分の稼いだ金で食べる! といっていました。そう言って毎日仕事の帰りに居酒屋でお酒を飲んでいました。それを私と母がとがめると『てめえが働いた金で好きな酒を飲んでなにが悪い、会社の金や接待でただ酒を飲むのとは訳が違う』と怒っていました。今は父の言っていたことがよく分かります」
「お父さんはすごいね。それじゃあ、今日の焼肉はおいしくて楽しかったということでよかった」
「ごちそうさまでした」
勘定を済ませると地味子ちゃんはそのまま歩いて帰って行った。アパートはここから徒歩10分くらいのところだとか。
家まで送ろうかと言ったが、まだ早い時間なので大丈夫と言うのでその場で見送った。
不思議な子だ。話していても嫌みが全くなくてなぜか癒される感じがする。