ルナって私に言ったのかな? と言うか誰だっけ? この人。
「えっと…」
私が困惑顔で口ごもっていると、男子生徒は悲しげな顔になりそれに劣らず悲しげな声で話しかけてきた。
「僕だよ。は・る・と! 佐藤陽翔」
「佐藤君?」
「もしかして覚えてないの? 本名なのに…」
普通、学校には本名で通うものだと思うけど。不思議な事を言う彼を私はジッと見つめた。
どこかで見た事あるような。ないような……。
更に眼鏡の奥の瞳をジッと見つめる。パッチリと見開かれて黒い瞳がはっきりと見える。――今朝夢で見た男の子の顔が思い浮かぶ。
「あ! ハル君! え、うそ!」
思い出し声を上げる私に嬉しそうにコクリと頷く。
「よかった。思い出したんだね! まさかこの学校で会うなんて!」
「私もビックリだよ」
「あのさ、もう部活決めた?」
「え? いや、まだだけど……」
「じゃさ、ちょっと見て行こうよ」
「いいよ。掲示板見て帰ろうと思っていたところなんだ」
ハル君の申し出に、掲示板を見て帰るつもりだった私は二つ返事で返す。
いやぁ、こういう偶然もあるんだ。って、よく私だってわかったなぁ。
「じゃ、行こう」
ハル君は、何故か手を差し出した。
「………」
いやいや、手は繋がないから……。
「あ、ごめん。もう、小学生じゃないもんね」
照れながら、手を引っ込める。
うん。小学生じゃないからね。しかも低学年の時の話でしょう。
私達は階段の前にある掲示板に向かった。
掲示板には部活名が書いてあり、案内図のようになっていた。
部活名しか書いてないんだけど……。えっと、合唱部に読書部って地味のしかないの?
運動部に至っては、卓球部しか名前がない。随分偏った部活動ね。その中に不思議な部活名を見つけた。
「……ファンタジー部?」
「あ、やっぱり興味ある?」
「え? いや、珍しい名前の部だなと思って……」
「そうかな? ところでよかったらさ、一緒に同じ部に入らない?」
ハル君は、そう聞いてきた。
誰かと一緒に入らないといけないし、知っている人との方がいいかと頷いた。
「うん。いいよ」
「よかった。じゃさ……」
「ハル! もう来ていたのか。って女?」
ハル君の言葉を遮るように声を掛けられ、私達が後ろを振り向くと、そこには二年生の先輩が二人立っていた。学年はネクタイの色でわかる。一年は赤、二年は青、三年は緑とそれぞれ白とストライプ模様となっている。
女の先輩はお嬢様な感じのできりっとしていて、胸まであるストレートの髪がよく似合っている。
男の先輩の方は、これがまたブレザーが全く似合わない髪型をしていた。いや違うか……髪がないから髪型とは言わないよね。つるっつるだよ。
どういう組み合わせなの? お嬢様と坊主って……。
「あ、カナ……」
ハル君の知り合いっぽい。まあ、ハルって声を掛けていたものね。
「まあ、いっか。行こうぜ。こっち」
ぼけっとしていると、カナと呼ばれた男の先輩の誘導で部室の方へ移動する。来た方向に戻り、右手に曲がれば教室の方向の所で立ち止まる。
左側にはドアがあり、女の先輩がカギを開けドアを開く。
「どうぞ。おはいりになって」
その言葉に、私達は部室に入っていく。って、もしかしてこの部に入るわけじゃないよね?
私は不安になった。だって入る時にちらっと見ちゃったの。ファンタジー部と書いてあるのを……。
「何、この椅子とテーブルの組み合わせ……」
ハル君の入ってすぐの第一声です。
目の前には、公園などにあるような木のテーブルの両側に二個ずつパイプ椅子が並べてあった。
確かに不思議な組み合わせかも。
「いいから、座れよ。で、その子が一緒に入るヤツ? 女にしたのかよ。大丈夫か?」
促され私達は並んで座る。私の前に男の先輩がその横に女の先輩が座った。
ここに入る事になっていたみたいね。でもあまり歓迎されてないような……。
「うん。大丈夫。すごいんだよ!」
突然ハル君が、興奮して叫んだ。
「何がすごいんだよ」
「ルナ! ルナなんだよ!」
「え? まじ!」
今度は男の先輩の方が興奮している。ルナって私の事よね?
「かなた! 和泉星空。ほら、ハルの真似してカナ君って呼んでいただろう」
と、説明されて、小学校の頃三人で遊んだもう一人だと気づき驚いた。
あの夢って予知夢かなんか?
「え~! 覚えてるよ。一つ上だったんだ」
私も興奮して叫んじゃった。
「思い出した? 夏休みと冬休みぐらいしか行ってなかったから。お前が女の子連れてきて驚いたけど納得だ」
前半は私に後半はハル君に話しかけた言葉。カナ君の顔は、驚きと嬉しさであふれていた。
「ルナならいいよね。秘密だって守れるよ! ね!」
カナ君に言った後、私に振り向き同意を求めて来た。ねっと言われても……。
「えっと……。状況がわからないんだけど」
私は素直にそう言った。
「お前、何も話してないのか?」
「一緒に入部する事にはなってるけど、話す前にここに。でも大丈夫だよね!」
また同意を求められた。
「えっと。それは内容によると言うか。ハル君がこの部に入るって事も今知ったぐらいだし……」
「もう少し落ち着いたらいかが? 陽翔」
それまで成り行きを見守っていた女の先輩が口を挟んできたと思ったら自己紹介を始めた。
「申し遅れました。わたくし三崎聖《まりあ》と申します。聖書の聖でマリアですわ。わたくしの事はマリアお姉様とお呼びになって」
え……お姉様?
驚いて私は、ハル君を見ると、言わんとしてる事を察して答えてくれる。
「僕は、マリアさんって呼んでいるよ」
「私もマリアさんで! ……いいでしょうか」
「あらそう? それでもよろしいわ」
とても残念そうにマリアさんは答えた。
とりあえず私も自己紹介をしようかな。
「えっと、私は天恵月海といいます。月と海でツグミです。宜しくお願いします」
軽く会釈をすると、マリアさんはにっこりほほ笑んで宜しくと返した。それから、クルッとカナ君に顔を向けると抗議を始める。
「ところで星空。彼女をルナとお呼びするのはわかりますが、お姫様は違いません? ルナは、女神でしょう?」
え! 姫! そんな事も話してあるの!
二人がナイトで私がお姫様。そういうごっこ遊びをしていた記憶がある。
「小学校の時に考えたんだから仕方ないだろう!」
顔を赤く染めカナ君が反論する。
「わたくしルナという名前の方だと思っておりましたわ。ルナが魔法使いのお姫様で二人がナイトで、立派な魔法使いになって守るんだって言っておりましたから。……でも、見た目はわたくしと変わらないのですね」
頬に手のひらを当て、何故かため息交じりに呟く。
最後の一言がよくわからないけど。
「小学生の時の話で、もう子供じゃないので魔法使いだなんて……」
「そうでしたわね。公になんてしておられませんよね」
「………」
マリアさんってもしかして、私を魔法使いだと思っている? とかないよね?
「もしかして、秘密って魔法使いって事じゃないですよね?」
「そうね。でもそれは、あなたの秘密でもありますから。その問題は大丈夫ですわね」
その言葉に二人は頷くが、私は驚いた!
だって平然として言ったよ! 私の秘密でもって事は、マリアさんって私たちが魔法使いだって思っているって事?! これってどっきり? それとも二人が冗談で言った事を本気にしたとか? 普通はあり得ないけど……。
とりあえずこれはスルーしよう! どっきりだとリアクション薄ってなるけど。
「そうだ。あの、この部って何をする部ですか? 先生に一週間で決めなさいって言われていて……」
「うーん。そうだな。その前に部とはどういうものか話を聞いているか?」
私の問いにカナ君が答えるも質問に質問を返された。
「確か、奉仕活動を行う……仲間であり大半を一緒に過ごし色んな事を学ぶ仲間である」
私は案内書を見て答えた。これってクラスメイトより重要な相手なのでは?
「やっぱり何も聞かされてないんだな。俺たちが一年の時と一緒だ」
「部とはどういう役割か知っていただいてから、お話を進めてはいかが?」
カナ君が呟くとマリアさんがそう提案した。
私もその方がいいので頷いた。ハル君も知らなかったみたいで頷いていた。
「この学校の奉仕科独特の特徴で、他校にないシステムなんだ。部を会社に見立て奉仕活動を行い運営をする。という奉仕科の縦割り授業だ」
カナ君が語り始める。
「そういう事だから部活内容よりも人間関係が重要かな? 聞いた話によると、一年は奉仕活動を押し付けられ大変らしい」
「心配いりませんわ。わたくしたちはそんな事をするつもりはありません」
マリアさんは、つかさずフォローを入れる。
「俺たちは昨年この部を立ち上げたから、そんな目に合ってないけどな。それと一年だけに、つまり二人に押し付ける気はないよ」
「部って作れるんだ」
頷きながら私が呟くとカナ君が更に説明をしてくれる。
「条件さえクリアすればな。二人以上で作り毎年一年を入部させる事。まあ、作る時にあたっては二人そろっていればOKだったけど」
「そんな簡単な条件なんだ……」
「簡単ではありませんわよ。設立の条件は難しくはありませんが、部は会社なのですよ。持続していかなくてはなりませんわ」
「そ、それもそうですね……」
マリアさんに反論された。って、結構面倒な仕組みなのね。
「ではもう少し踏み込んでお話し致しますわね。部での奉仕活動が成績の評価の一つになりますわ」
「じゃ、極端に奉仕活動が少ないとやばいとか?」
マリアさんの言葉にハル君が反応して言った。
「評価は個人じゃなくて部ごとなんだ。だから全部一年がしても皆で分担しても評価は変わらない。それでさっきの一年が大変だって話につながる訳」
私達はなるほどと頷く。面倒な事は一年に押し付けられそうだね、それ。
「評価は、ポイント制。つまりは、点数ですわ」
「じゃ人数少ないと不利じゃないか?」
「私もそう思います。人数が多い方が有利だと思うんだけど……」
私達が意見すると、二人はノーと首を振る。
「そこは学校も心得ておりますわ。ノルマがありますのよ。月に部員人数分の奉仕活動を行う事。それと、一回の募集数は二人から四人ですの」
「それでも人数が多い方が有利だと思うんだけど……」
「あら、そうかしら? 一学年に一クラス。一クラス三十人。全員では何人かしら?」
「九十人? ……あ!」
答えてから私は気づいた。一月に九十件以上の奉仕活動がないとダメだという事に。
「気づいたようですわね。奉仕は街の方々からの依頼がほとんどで、校内の奉仕も取り入れて、学校側も九十件以上になるようにしているようですわ」
「このシステムが知られるようになって、地方からの依頼も来るようになったみたいだぜ」
私達は、二人の話に頷く。
九十件に満たなかった場合は、ノルマが達成できない部が出るという事になる。
「仕組みはわかったけど、別に部にする必要あるのかな?」
「そのまま授業にすると夏休みとかに出来ないし、部活動なら休みの日も活動出来るって訳」
「なるほど!」
私の質問にカナ君がわかりやすく答えてくれるもマリアさんが嫌な一言を付け加える。
「そのお蔭で夏休みも冬休みも、あってもないようなものですけどね」
「あ、赤点なんて取るなよ! 部活動も授業の一環なんだから理由にならないし、追試に合格するまで部の連帯責任で奉仕活動が出来なくなるからな」
更にカナ君が付け加え、私達はげんなりする。
「大丈夫ですわ。そうならない為に先輩が後輩の勉強の面倒を見る事になっておりましてよ。何せ時間はたっぷりありますからね」
「なんだよそれ。午後からは自由だ! って、思ったのに……」
「ほんとだよな。奉仕活動がなくても六時間目の授業終了時間まで部室にいなきゃいけないし……」
ハル君が愚痴るとカナ君は同意する。そして、チラッと私を見ながらこう続けた。
「人間関係が悪かったら最悪だろうなぁ……」
部の説明をしながら、説得しようとしている?
「考え方よっては、気が合う仲間だけの少人数の方が楽じゃありません?」
マリアさんの言葉に、二人は頷き私を伺う様に見ている。
あぁ、これ、うんと言わせようとしているよね? カナ君とマリアさんの言う通りだしここでもいいかな。
「……わかりました。ハル君と一緒にこの部に入ります」
「やったー!」
「よしきた!」
観念した私の言葉に、二人は手を上げて喜んだ。
「まだ安心はできなくてよ。ここからが肝心ですわ。秘密が守れるかどうか……」
マリアさんの言葉に、二人は真面目な顔になる。
そう言えばそうだった。一体なんだろう? 魔法使い……だと思い込んでいる以外にどんな秘密があるのだろう。
三人の秘密ってなんだろう?
「信じてもらえるかどうか分からないけど……」
ハル君がそう切り出し話し始める。とても信じられない話を――。
ハル君がやや緊張気味に声を出した。
「あのね、ルナ。僕、シマールなんだ」
「……シマールって?」
「勿論ウィザードのシマールだよ」
皆さんがご存知の通りウィザードと言うのは魔法使いの事ですが、ハル君が言っているのは多分、昨年デビューした二人組のユニットアイドル、シマールとスターリーの事だと思う。
シマールは短い金髪でブルーの瞳。膝まであるマントもロングブーツまでも全身真っ白の衣装。
逆にスターリーは、肩より少し長いストレートの髪と瞳は漆黒。衣装も全身漆黒。
性格はシマールが俺様できつい印象に対し、スターリーは無口でミステリアスなイメージ。
そんな対照的なユニットアイドルなんですが! あり得なさすぎる!
「で、俺がスターリーな」
あんぐりとしていると、カナ君もぼぞっと言った。
成り行きから当然、もう一人にとなるかもだけど……。
あ、あれか。やっぱりドッキリなのね!
本当はカナ君も最初から私だと知っていて、ドッキリを仕掛けたのね!
魔法使いもあり得ないけど、これもあり得ないでしょう!
って、これはどういう反応をすればいいわけ? 普通信じないと思うけど……。
「僕達本当にウィザードなんだ。勿論、本物の魔法使いだと言う事は伏せてあるけどね」
反応に困っていると、マジ……いや、どや顔でハル君は言った。
ま、まさかと思うけど……自分達の事魔法使いだと思っている?
この人達やばい系? って、それでウィザードだと思い込むってどうよ。
うーん。あぁ、わからない。わからないけど、ドッキリ決定だね!
もう少し信じられるようなどっきり仕掛けようね!
「うんうん。わかったから、もう種明かし宜しくね」
「種明かしって……。わかった! こうしたらわかる?」
そう言うと、ハル君は立ち上がり眼鏡を外したと思うと手を自分の頭にやり、その手を振り下ろす。驚く事に一瞬にして髪が金髪に変わる。よく見れば、黒髪のウィッグが手に握られていた。
目線をハル君の顔に戻せば、目こそ黒いがシマールそのものだった!
「え? う……そ……シマール……」
驚きすぎて思考がついていかない。
「ちょっと借りるぜ」
ハル君のウィッグを奪い取ると、カナ君はそれを自分のつるっつるの頭にポンッと乗せた。
ハル君同様立って私を見下ろす姿は、髪は短いがスターリーに見える。
え? ドッキリじゃなくて本当の事? あ、いや、これがどっきり?
「この二人がウィザードなんて信じられないかもしれませんが、残念ながら現実ですわ」
成り行きを見守っていたマリアさんが、まるで慰める様に言った。
「残念ながらってなんだよ! 幼馴染がウィザードだぞ! 喜ぶところだろうが!」
「全然自慢になりませんわ」
私が混乱しているさなか、二人は言い合いを始めた。
アイドルって事は本当なんだ……。やっと、それを理解した……けど、何だろう? マリアさんが言った通り嬉しくない。
「本当にアイドルだなんて……」
「うん。がんばった! で、秘密の事なんだけど……」
「……誰にも言わない。秘密にするけど……」
彼らが喜んだ理由って? 私を懐かしんだからではないよね?
「よかった。ルナならそう言ってくれると思ったよ」
都合のいい相手が見つかったから――。とか?
「秘密を守れる人って、二人がアイドルだから……マリアさんと二人で奉仕してくれる都合のいい人を探していたって事?」
私は俯いて聞いた。
幼馴染がアイドルだなんて、本来なら嬉しい。けど、部活動の仕組みから言えば、そういう相手を探していたって事だよね? 普通なら喜んでやってくれる。けど、秘密は直ぐにバレそう。だから秘密を守れそうな私がいて喜んだ。
「待って、僕達はそんなつもりはないよ!」
「最初に言っただろう? 押し付ける気はないって!」
じゃなんで暴露したの? アイドルっていう秘密は言わなくてもいいよね?
「そんな事でしたら、わたくしは協力なんて致しませんわ!」
「……うん」
「な、なんだよ。俺達の言葉よりマリアの言葉を信じるのかよ……」
カナ君は、ぶつくさ言ってますが、同じ境遇? のマリアさんが言った言葉だったから信憑性というか信頼性があった。
「ごめんなさい。突然過ぎて……そういう事だって思っちゃった……」
「あ、えっと。後になってバレていざこざになっても嫌かなって思って……」
私は、ハル君の説明に頷いた。
ハル君はウィッグを被り直し、眼鏡を掛ける。元のハル君に戻った。
うん。凄く違う!
「良く化けたね……。その姿からは絶対にわからないよ」
「だろ? あのウィッグ特注品なんだぜ」
「僕、本当はシマールを演じるの嫌なんだよね」
カナ君は得意げに頭を撫でながらハル君は溜息をつきながら言った。
イメージって大切だよね。うん、この二人なら絶対バレないね!
「さて、話もまとまった事ですし、入部届を出して頂けるかしら?」
マリアさんはそう切り出した。善は急げって事らしい。
私達は、早速用紙に記入して、マリアさんに渡した。
「ありがとう。それでは部長と副部長ですが、わたくしとルナで宜しいでしょうか?」
「宜しく頼むぜ」
「OK!]
二人は頷いて賛成するが、私は驚いた。だって、なんで私が副部長なの? ここは、二年の二人がやるものじゃないですか!
「えっと、何で私が副部長なのですか?」
「ごめんなさいね。設立した部長が卒業するまで部長である事が条件なのですわ」
いえ、私は部長になりたいと言ったわけではないのですが……。普通そっちに取らないでしょう?!
マリアさんってもしかして凄い天然なのかな……。
「いや、そういう意味じゃなくて、私は一年だけど副部長なんですかと言う意味です」
「そちらの意味でしたの?」
はい。普通はそちらの意味です。
「それは星空達がウィザードの仕事でいない事も考えられるので、わたくし達でやった方が宜しいかと思いまして。奉仕依頼を受けられるのは、部長と副部長なのですわ」
「そういう事で悪いけど宜しく頼むな!」
マリアさんが説明すると、軽いノリでカナ君にお願いされた。
そう言えば去年は二人だけで部活……奉仕活動をこなしていたんだよね?
「……あのやっぱり他に一年を入部させる気はないんですよね?」
秘密を守りたいならそうかもしれないけど、四人だと寂しい気もする。
「入れる気はないな。秘密を知る者が多くなればなるほど、秘密が漏れる可能性が高くなるからな」
「あなたなら信用できますわ。なんといっても魔法使いなのですから」
カナ君の台詞に頷きながらマリアさんが凄い事を言った!
私が魔法使い? どうしてそうなるの? 二人が比喩的にそう言われてもわかるけど。もしかして、二人して天然のマリアさんをからかっているとか?
でも普通信じるかな? あ、あれかも! アイドル云々じゃなくて、儀式!
あのおじいちゃんの手品凄かったもんね! 足元が光って……本当に自分は魔法使いになれたって私も思ったものよ。
「はあ。羨ましいですわ! 私も早く儀式を行いたいですわ!」
「やっぱり! 儀式の事言っていたんだ!」
思い出に浸っていたらマリアさんが恨めしそうに言った。
なるほど。そういう設定なのね! ファンタジー部ってそういう風になりきりっちゃう部なのね! って、どういう活動の部なのよ……。いいのかそれで。
「大丈夫だよ、マリアさん。僕達と一緒に修行しているんだから」
うん? あれかな遊びで忍者の修行をするように、魔法使いの修行をしているって事かな? 凄い部だね、ここ……。これ頼んでも誰も入ってくれなかったなんじゃない?
「そうですわね。魔法使いのあなた達もまだ魔法は使えるようになっておりませんものね!」
「………」
よくわからないけど、ハル君は撃沈されたようです。何か目標みたいのあるのかな? って、どんな事やってるんだろう?
手品かな?
「人が気にしている事を……」
カナ君がボソッと呟いた。
「おじいちゃんは、この世界の魔力が少ないせいだって言っていた……」
まるで本気で言い訳をするようにハル君も言った。
「ちょっと待って! おじいちゃんも仲間に入っているの?」
「仲間って? おじいちゃんに教わっているんだよ」
そうハル君は返して来た。
うん? あれれ? もしかしてこの三人は魔法使いを未だに信じているとかですか?!
しかも教わっても使えないって……それ手品だよきっと。出来ない時点で気づこうよ。
マジどうしよう。どれだけピュアなのよ、この人達……。
私は溜息を一つついた。
「もしかしてルナって、魔法使えるの?」
「使えません!」
どうしてそうなるのよ! 呆れてため息はついたけど、そっちじゃないから!
「大体私は、修行なんてしてないし!」
「なんで?」
不思議そうにハル君は聞いて来た。まるで魔法使いの修行をするのが当たり前のように……。
「なんでって。方法しらないし! 儀式をやった後、ハル君達直ぐに引っ越ししちゃったじゃない! おじいちゃんが教えてくれたのって、魔法使いは想いの強さだって事だけだし! どうやって……」
って、私何言ってるの? これじゃ教えてもらってないから出来なかったと拗ねているみたいじゃないの!
それに引っ越ししてしまったのはハル君のせいじゃないのに……。
「あ、えっと。違うの。ごめんなさい……」
「ううん。僕の方こそごめんね。そうだよね……」
「では今度、おじい様にお会いになってはいかが? きっと喜びましてよ」
「そうだな。それで一緒に修行しようぜ!」
三人は、私を励ますように声を掛けて来た……。
うん。部では魔法使いって事にしておこう。三対一じゃ勝てませんから。
でも、どんな修行かも気になるし、おじいちゃんにも会いたいな。
「ありがとう。おじいちゃんには会ってみたいかも……」
そう返事を返すと、三人は安堵して頷いた。
そう言えばマリアさんとどうやって知り合ったんだろう? 魔法使いになりたいと思う程になったきっかけも知りたいな……。
って、ハル君とカナ君って名字違ったよね? 兄弟じゃない! あれ? どういう関係?
「あれ? 三人ってどういう関係なの?」
「は? 俺とハルは従兄弟だよ! 知らなかったのかよ」
知りませんでした! 小さい時はそんな事、気にもしてなかったので。
私が頷くと、カナ君はマジかーとため息をついた。
「俺の母親とハルの父親が姉弟なんだよ」
「夏休みとか休みの度に、僕の家にきていたんだ」
そうだったんだ。じゃ、おじいちゃんはカナ君の本当のおじいちゃんでもあるんだ。
「わたくしは星空と幼馴染ですわ。ちょうど陽翔とルナのような感じかしらね」
マリアさんがそう言って、二人との関係を教えてくれた。
「ふうん。で、ウィザードになったきっかけは? オーディションでも受けたの?」
別に特段意味はないけど流れて的に聞いてみた。だってこの二人なら魔法使いになりたいからって、受けたかもしれない。
けど、三人は何故か顔を見合わす。
「俺の父親がウィザードが所属するプロダクションの社長なんだ。これ、内緒な」
え? そう事なの? オーデションどころか親にお願いしてなったのかもしれないの?
私は目を丸くしながらそう思った。
「あと、この頭は俺のポリシーな。ホラ魔法使いってファンタジーの中では、髪が長かったりカラーだったりするだろう? で、もし召喚された時に黒髪だとダサいじゃん!」
カナ君は、きゅっきゅっと坊主頭を撫でながら語った!
うん? 聞きもしないのに語り出して、しかも黒だとダサいって? いやいやいや、スターリーは黒髪じゃん!
つい私は心の中で突っ込んだ。
「うんうん。髪の色は金髪が一番だよね。僕のこだわりは目の色なんだ! 左右違うのがいいよね! オッドアイ!」
続けてハル君まで語り出す。って、オッドアイ……シマールは両目ともブルーでしたよね? 私も続けて突っ込ませて頂きました!
「二人共見た目にこだわり過ぎですわ」
「そうですよね!」
マリアさんは、まだ毒されていなかった! よかった!
「ファンタジーの世界では、呼ばれ方が重要ですわ! そう思いません? ルナ」
うん? 呼ばれ方? 呼ばれ方って何?
「えっと……」
「いいですか! ファンタジーの世界のどこで先輩などと呼びますか! やはりそこはお姉様ですわ!」
あぁ、もう既に遅しでしたね。どっぷり毒されてました……。二人より意味がわかんないです。一つわかったのは、さっきお姉様と呼んでと言ったのは、ここから来てるって事くらいです。
私は三人の熱弁? にファンタジー部で確かに間違いないと確信しました! 私は語れませんがいいでしょうか?
「で、ルナのポリシーは?」
語れないというのに、ハル君は聞いて来た。しかもとっても答えを期待している様子。ありませんから。初めて聞かれましたし……。
「えっと……自然体?」
「自然体か。深いなぁ」
適当に答えたのにハル君には、凄く響いたようです。
このままではずっとファンタジーの話が続きそうだわ!
「あのところで入部届を出しに行かなくていいんですか?」
「あら、そうでしたわ」
何とか話を中断させる事に成功した。
「ではルナ、行きますわよ」
「私も?」
「あなたは副部長でしょう?」
あぁ、そうでしたね……。別に名前だけの副部長でいいのに。
「はい」
「では行って来ます」
私達は一階に下り、職員室に向かった。職員室は玄関の隣。
ノックして中に入ると、マリアさんは真っすぐと私の担任の小野寺先生に向かった。
「小野寺先生」
「うん? どうした?」
先生は呼ばれ顔を上げる。
「ファンタジー部の入部届と役員届ですわ」
「もう決まったのか。役員届出してしまっていいのか?」
「構いませんわ」
出してしまって? 出してしまうとどうなるんだろうか?
「役員を決めるという事は、部員募集を締め切ると事ですわ」
私が不思議そうな顔をしていたのか、マリアさんが説明をしてくれた。
本当に他の部員は入れる気はないようです。
「え? 天恵お前が副部長をやるのか?」
小野寺先生は届け出を見て驚いている。まあ、一年ですからね。でも、四人しかいない部だし、そこまで驚かなくてもいいとは思うんですが……。
「満場一致ですわ! 本人もやる気満々です。ね、ルナ」
あ、あまり人前でルナと呼ばないでほしい……。あだ名的には恥ずかしいですけど。
「が、頑張ります……」
「まあ、本人が納得しているなら……で、天恵ちょっと」
そう言いながら先生は手招きして、小声で聴いて来た。
「お前、あの事知っていてこの部に?」
あの事? ウィザードだって事を先生は知っているって事? でも内緒って事になっているし……。
「あの事とは? ハル……佐藤君に誘われて入っただけですけど?」
「そうか。いや別になんだでもない。頑張れよ」
「はい」
何も知らない素振りをすると言葉を濁した。芸能人がいるって大変なんですね、先生。
「あ、そうだ。ところで明日の依頼があるのだが受けるか? 時間は昼ぐらいだ」
「まあ! 当然お受け致しますわ!」
え? 受けるの? 活動月曜にからでもいいじゃん……。
「そうか助かった。二人以上だから四人で行ってもかまわない。ここだ」
小野寺先生はB五サイズぐらいのカード出しすとマリアさんは嬉しそうに受け取った。
「昨年も引き受けたところですわ!」
「じゃ宜しく頼むな。天恵、初課外授業頑張れよ」
「はい……」
気は進まないが、私は先生の激励に返事を返した。
「ただいま」
「おかえり。ご苦労さん。これ俺のおごり」
カナ君の言葉でテーブルの上を見れば、パンと飲み物が用意されていた。買って来てくれたみたい。
「ビックリだよ。今日から売店開いているんだから」
「ここの売店すごいんだぜ。休みなの正月と春休みぐらいなんだから」
それって、それ以外は買いに来る人がいるという事ですよね? なんか不思議だ。文化部だけど課外活動で出てきて……だから文化部なのかな?
運動部の練習と課外授業の両立は大変そうだもんね。
「あら、気が利くじゃない。いただきますわ」
「ありがとうございます。頂きます!」
私達が席に着くと、食べ始める。
私の好物のメロンパンがあった! それを一口頬張る。う~ん、ここのメロンパンも美味しいわ。
「メロンパン好きなのは変わってないんだな」
「パンと言えば、メロンパンばかり食べていたもんね、ルナ」
「覚えていたんだ……」
って、そんなにメロンパンばかり食べていたっけ?
「ところでルナ。先ほど小野寺先生に何を言われていたのですか? 何か耳打ちされていたでしょう?」
気になっていたんだ、それ。
「あの事を知っていて入ったのかって言われました。先生達も二人がウィザードだと知っているんだね」
「校長しか知らないハズだけど? っていうかあの事って俺のおじいちゃんの事じゃないか?」
おじいちゃん? おじいちゃんって有名人?
「二、三年の誰もが知っている事ですが、一年生はまだ知らなかったのね。星空のおじい様は、この学校の理事長ですわよ」
「カナの父親の親の方だから」
マリアさんの言葉にハル君が付け加えて教えてくれたけど……。カナ君って凄い家系? って! 魔法使い云々とかウィザード云々より大切な事じゃないかぁ!
私は、ポトンとメロンパンをテーブルの上に落とした。
学校生活する上で二人がウィザードだという事実より、同じ部の人が理事長の孫という事の方が学校生活する上で重要でしょう! こっちを先に教えてほしかったよ!
確かに秘密ではないけどさ……。
「そこまで驚く事かよ。……名字同じだろう? 入学してすぐにバレたんだよなぁ」
確かに学校と同じ名字だけど、凄く珍しいくもないし、気づかないって!
「大変でしたわね。同じ部に入りたいって人が多くて」
二人は去年の今頃の事を思い出し言った。
確かにそうよね。学校関係者と仲良くしたいって人いるよね。あ、それで役員提出して部員募集を打ち切ったんだ。ウィザードだとバレない為だけじゃなかったんだ。
先輩たちからの勧誘も凄かったから二人だけで部作ったのかな? って、だからこんな部でも通ったのね!
うん? 先輩……あ、今更だけどカナ君って先輩だよね?
「あの、カナ君って呼んでいていいのかな?」
「は? どういう意味だよ!」
カナ君はあからさまにムッとして返事を返して来た。理事長の孫と聞いた途端態度を変えたと思ったのかも! いや、違うから!
「あ、いや、そうじゃなくて。一応、先輩だったなぁって気が付いて。さっきからタメ口というか、友達のように会話していたから……」
「まさかあなた、星空の事を先輩と呼ぶおつもり? 星空の事はカナで十分ですわ!」
そこ反応するんですね。カナ君の事も先輩って呼んではダメですか……。
「十分って……。俺はルナを仲間だと思っているから、今更先輩後輩なんて言うなよ」
「今まで通りでいいと思いよ」
まあ、私も今更先輩って呼びづらいです……。
「えっと、ごめんなさい。改めて宜しくお願いします!」
私の言葉に三人はほほ笑んだ。私は胸を撫で下ろす。ギクシャクにならなくてよかった……。
「あ、そうでしたわ! もう奉仕活動受けてきましてよ。時間は明日の十一時ですわ。明日のお仕事は昼過ぎでしたわよね?」
あぁ、そういえば受けたんだったね……。って、マリアさんって二人の行動把握してるんだ。まあ、そうじゃないと受けられないか。
「さすがマリア。仕事が早い! 明日は二時からだから大丈夫だ」
「え~。明日の午前中はゆっくり出来ると思ったのに……」
カナ君は褒めたけど、ハル君は私と一緒で不服みたい。だよね~。
「文句は言わないで頂きたいわね。あなた達ウィザードの仕事がない時に、依頼を取らなくてはいけませんのよ。出来るだけ早くノルマは達成しておくのに越したことはありませんわ!」
「………」
ごもっともです。マリアさんのいう事は正論なのでハル君は何も言い返せない。
「では、明日の十時五十分に中央公園に集合ですわよ。制服着用でお願いね」
「え? 制服なの?」
「勿論ですわ。課外授業なのですから。指定ジャージでも構わなくてよ」
「いえ、制服で行きます!」
そんなこんなで早くも明日が課外授業になりました。