「ごめんなさい……。勝手についてきちゃって……」
「驚いたというのは、来てくれるとは思っていなかったという意味だ。嬉しい誤算だった」
私の言葉におじいちゃんはそう言ってくれた。
「嫌ですわ。泣く事などありませんわよ」
「そうだよ。喜んでいるんだよ」
「そうそう。ルナだって魔法使いなんだからな」
私の頬にいつの間に涙が伝っていた。別に泣こうとしたわけじゃない。なんとなく、裏切った気分になっていた。
三人は泣き出した私に驚いて声を掛けてくれた。
「違うの。私、魔法使いの資格ないから……」
「ないってなんで?」
ハル君が不思議そうに聞いて来る。ここにいるのだから魔法使いであるのは間違いないから。
「皆を騙していたから……」
四人は顔を見合わせる。
「おかしな事を言いますのね。わたくしたちが知り合ったのは昨日ですわよ?」
「あ、もしかして小学生の時の話?」
ハル君が思い当たり聞いて来るけど私はそれに首を横に振る。
「私は、魔法使いを信じていなかったの……」
私は騙していた内容を口にした。
「信じてなかったって……。ルナ、魔法使いになれているよね? ここにいるんだから」
ハル君はまた不思議そうに言った。私はそれに今度は頷いた。
「うん。儀式をした時は信じていた。……ハル君が引っ越ししていなくなってからもずっと信じていた。でも……中学生になって、魔法使いの話をすると皆に笑われるようになって、親からもあれは魔法じゃなくて手品だよと言われて……」
「それで、魔法使いを信じなくなっちゃったの?」
悲しそうにいうハル君の言葉に頷いた。
誰も信じてくれなかった。しかも私は魔法を使えない。魔法使いじゃない! そう思う様になった。
「引っ越しして北海道に来てからは、転校先の学校では魔法使いの話は、一回もした事はなかった。私は魔法使いになりたい想いを捨てたのよ!」
「捨ててないだろう? ここについて来た。魔法使いになりたいって……魔法使いでいたいって想いがあったから来たんだろう?」
「うん……」
カナ君の言葉の通りマリアさんの儀式を見て、あの時の想いを思い出した。でもそれまでは、ずっと否定していた……。
「それはすまなかった。あの時は、自分達の事で精一杯で……。ルナにちゃんと言っておかなかった私の責任だ」
「え? おじいちゃんのせいじゃ……」
私が否定しようとすると、おじいちゃんは首を横に振る。
「いや、魔法使いの事は皆に内緒だと、一言伝えておけば済んだ事だ」
「ルナ。あなたは魔法使いでしてよ。わたくしと同じ新米の魔法使い。わたくしの儀式の時にあなたも一緒に魔法使いにまたなったのよ!」
そうだね。あの時、この想いを取り戻した……。
「マリアさん、ありがとう……」
「まあ、おじいちゃんが悪いのは当たり前だな。俺達はちゃんとそう言われていたんだからな」
腕を組みうんうんと頷きながらカナ君は言う。言われていたの?
「え? そうなの?」
「うん。僕達周りには言ってないよ。親にも止められていたし」
まあ、言えば私の様になるのは目に見えているもんね。
「……ごめんね、ルナ。僕しらなくて。一人だったら心細くなって、そうなっちゃうよね」
「もう大丈夫ですわ! わたくしたちがおりますもの! 一人ではありませんわよ」
「ルナ、運がいいぜ! これから魔法の修行が出来るみたいだぜ!」
「うん。ありがとう」
今度は私はうれし涙で頬を濡らした。
「改めて、宜しくね!」
その涙を拭いて元気な声で私は言った。皆は笑顔で頷いた。
「さて、話はまとまったようだし、話を始めるか」
おじいちゃんは、私達を見渡してそう言った。三人はキラキラと目を輝かせおじいちゃんに向き直る。
「で、今回はどんな話?」
カナ君が待ちきれないとばかりに聞く。
「さっきも言った通り、魔法の話だ。で、ルナもいる事だし基本的な魔力の話から初めてみるかな」
うんうんと三人は頷く。私も一緒に頷いておく。
「魔法の元、魔力はどこから来るか覚えているかね?」
「はい! 地上からだよね! 台地の恵みなんだよね!」
まるで小学生のように手を上げ、ハル君は発言した。何か生き生きとしてる……。
「そうだ。魔力は地上からあふれ出している。但し我々人間は、その魔力をそのままでは使えない」
「え? じゃ、何かで変換して使っていたのか!?」
その事は知らなかったみたいで、カナ君は驚いて質問している。って、これ本当のお話し?
「そうだ。世界には精霊が存在し、そのモノ達が使う魔力に変えてくれている。……そうだな、光合成みたいな感じだと思えばわかりやすいかもな」
精霊! どんどんファンタジックな内容に……。いやすでにここに居る時点でそうだけど。
「精霊ですか。それはどのような? わたしくたちにも見えるモノなのでしょうか?」
「見えると思うぞ。どうだ?」
おじいちゃんがそういうと、スッと体から何かが出て来た!
それは女の子を形とっていて、背丈は大人の顔ぐらいで、体は透き通っていた。見た目は五つぐらいの女の子に見える。うっすらと光を放っているように見え、ふわふわと浮いている。
これが精霊?! って、本当にいたんだ!
「すげ~! 透き通ってるし!!」
「まあ、小さいのですね」
「おじいちゃんの体から出て来たけど、どうなってるの?!」
最後にハル君が驚いて言った言葉に私も頷く。まあ、透き通っているのだから通り抜け出来るんだろうけど……。
「私のマントの内側に隠れていただけだ。彼女は私のパートナーだ」
『はじめまして。パルミエです』
「「「しゃべったー!」」」
「お話もできるのですね」
話せると思っていなかったので私達は驚いた。知能もあるのね。
「で、パートナーって? 何のパートナー?」
カナ君がジッとパルミエちゃんを見ながら質問をする。
「精霊は元々は地上から出ている魔力が凝固したモノだと言われている。そしてそれが意思を持ったモノが精霊だ」
それって魔力そのモノって事なんだろうか?
「簡単に言うだな、精霊は魔力の塊という事だ。でだ、その塊を精霊塊《せいれいこん》と呼ぶ。最初は意思も何も持たずに魔力の変換を行っているだけだが、長い年月をかけ意思をを持つようになると精霊になる」
おぉ! ビンゴ。意思を持った魔力なんだ。すごいなぁ……。
「すごいですわね! 魔力が意思を持つなんて……」
「形も人間のように変化したって事だよね?」
「すげー」
「すごいだろう? この精霊が我々人間と契約を結ぶと放出する魔力を直接受けれるようになるって訳だ」
「じゃ、パルミエさんっておじいちゃんにだけ魔力を供給しているの?」
ハル君の質問におじいちゃんは頷く。
なるほど。精霊と契約してパートナーになると個人的に供給してくれるようになるってことね。そんな仕組みがあるなんて!
「あ、でも。そこら辺に精霊っているんだよね? それに精霊魂もあってパートナーになるメリットってある?」
よく考えればパートナーになる必要がないような……。
「私がいた世界では契約していなくても暮らしていけるな。まあ、魔法使いとして精霊に認めてもらったというところだろうか」
なるほど。精霊に認められたって事になるのか。それがどんな意味があるか知らないけど。
「だが、地球には精霊魂は見かけたが、精霊にはお目にかかった事はない」
なるほどと頷いていると、おじいちゃんは驚く事を言った! 精霊がいないですって! それってどういう事? あ、そう言えばこの前、ハル君がこの世界は魔力が少ないって言っていたっけ。少ないから精霊がいないって事?!
「え? なんで?」
「答えは定かではないが、考えられる事はいくつかある。一つは地球にある物質でアスファルトやコンクリートの類は、魔力を通さないようだ。その事から精霊はおろか、精霊魂さえ街の中にはいない」
ハル君が聞くと、おじいちゃんは神妙な顔つきで答えた。
魔力が少ない理由が、私達が作り出した物だったなんて!
これって森とかにしか魔力がないって事だよね?
「そして精霊がいない要因として、魔法使いがいない事があるかもしれない。いや、正確にはいなくなったからかな」
とおじいちゃんは続けた。
「それって。魔力があっても精霊が誕生しないって事?」
「それはわからないな」
私の質問に首を横に振って答えた。
「魔法使いがいなくなったっていうのはどういう事ですの?!」
「実はお前達に行った儀式は、魔法使いの血を目覚めさせる儀式だったのだ。星空《かなた》と陽翔《はると》は私の血を受け継いでいる。当然、目覚めるだろう。そしてマリアとルナ、お前達は生粋の地球人だ。つまり地球の人間にも魔法使いの血は流れていた事になる。その事からも魔法使いは存在していた事は確かだ。だがしかし、何らかの原因で魔法使いはいなくなり、精霊も一緒に消滅したと考えられる……」
おじいちゃんの話は壮大だった。
私達はおじいちゃんの話を聞いて大きなため息を漏らす。
色々と凄すぎる!
「すげー話だな」
「僕達の想像を超えてるよ」
「わたくしとルナはもしかしたら魔法使いなれなかったかも知れなかったのですか?」
「そうだな」
少しすまなそうにおじいちゃんは頷いた。
「おじいちゃん、地球でどうやって暮らしていたの?」
「そう来るか。別に魔力がなくなっても私は魔法が使えなくなるだけで、弱ったり死んだりはしない。私はパミエル殿がいるからな。魔力は何とかなっていた。まあ、向こうの世界から精霊の玉も持って来ているしな」
私が魔力がなくても大丈夫なのかと思いおじいちゃんに聞くと、笑いながらそう答えた。言われてみればそうかも。それより、新しい単語が出て来た。
「精霊の玉?」
カナ君が代わりに聞いてくれた。
「精霊魂が精霊にならずに、もっとギュッと魔力の塊になったものだ。それには、我々も触れられるので回収して使っている」
「触れられるって、精霊魂には触れられないの?」
「魔力そのものは触れられないというか空気と一緒だな。精霊魂になって初めて目に見えるようになる。だが見える様になっただけで触れる事は出来ない。そして初めて精霊の玉になって触れらるようになるのだ。精霊の本は、精霊の玉で作製されている」
「そう言えば、なんで普通の人間には見えないんだ? マリアが精霊の本が見えなかったんだけど……」
精霊の本っていう単語を聞いて思い出したらしく、カナ君が質問をする。私達も頷く。とっても知りたい。
「これは憶測だが、魔法を使わなかくなった地球の人間は、退化したのではないかと思われる。つまり魔力に対応していない体になった。精霊の本はいわば、魔力の塊だからな」
「でもわたくしは、異星人の魔法使いも見えませんでしたわ」
「その事か。私の世界の人間は体に常時魔力を身に纏っている。それで見えなくなっているのだと思う。詳しくは私も説明すれと言われても出来ないがそういう事だろう」
「おじいちゃんは身に纏ってないの?」
ハル君は、ごもっともな質問をする。身に纏ってないから普通の人にも見えているって事だよね? まあ地球で生活するにあたって身に纏う必要はないけど……。
「私はその事に気が付いた時から隠れる時以外は身に纏わず、足の裏に魔力を留めている」
「え? じゃ、お父さんも?」
その質問には首を横に振った。
「誠は魔法使いだが身に纏い方を知らない。教えようと思ったのだが、そういう事を嫌がってな。まあ、この世界で育てたから魔法使いというのが気に入らなかったらしい」
確かに。自分は魔法使いだって言えば、変な目で見られる。それに魔法使いじゃなくても暮らしていける。……だから、ハル君達はそうならないようにした訳か。こんなに立派な? 魔法使いになったわけね。
「あらでも、儀式をしてくださいましたわよ」
「あれか? あれは条件さえ整えば発動するものだ。つまり行う本人達が魔力を使って行使するものではない。まあマジックアイテムの一つだな」
「まあ!」
「マジックアイテム!」
「ああいうのもあるのかよ!」
マジックアイテムに三人は、すぐさま反応する。
私はそれよりも違う事が気になる。
「あの、魔法って魔力を身に纏わないと使えないんですか?」
「いや使える。だが大量に必要な時には身に纏っていないと足りなくなる。そうだな。いっぺんに水を使いたいと思った時に、蛇口からだと限られるだろう。でも先に溜めておけばそこから使う事が出来る」
そういうもんなんだ。つまり周りの魔力を使うのに一回に使える量が決まっているって事かな? でも、地球では身に纏ってないと使えないか……。
「ねえ、おじいちゃん。お父さんって空飛べるよね。なんで?」
飛べるんだ! すご~い!! 今更だけど本当に魔法使いだったんだ!
「それか? 飛ぶ事だけは教えたからな。基本中の基本だからな。魔力の使い方をコントロール出来るようになれば、お前達だって使える様になる」
「本当ですの?」
「飛びたい!」
「俺もやってみたい!!」
「あ、私も……」
三人に紛れて私もそっと声を上げた。
「そう言うと思ってここを用意した。地球では魔力がないから飛ぶ事さえ困難だからな」
なるほど。そういう事か。アメリアさん達が歩いていたのって、魔力温存の為だったんだ。魔力が全然ないんだからそうするしかないよね。
「やったー!」
「さすが、おじい様。わかってらっしゃるわ」
「早速やろうぜ!」
三人は大喜び。勿論私も楽しみ。だって、こんな風景のところで空を飛べるなんて! 本の中とは思えないよ!
「ではまず手を繋ごうか」
おじいちゃんはそう言って、ハル君とカナ君に手を出した。二人はそれぞれ手を握ると、ハル君は私とカナ君はマリアさんと繋ぎ、そして私とマリアさんが手を繋いで円になった。
「ところでさ、何で本の中?」
「うん? 精霊の本とはいわば魔力の塊が本になったようなもの。私の世界では本の中で作業を行う。ここでは時間の流れが違う。それに魔法は想いだが、それだけでは使えない。魔力が必要だ。しかし地球は極端に魔力が少ない。そこで魔力が豊富で時間を気にせずに行える本の中にしたってわけさ」
なるほど。ここは魔力で満ちているのね。って、本の中なのに凄い。おじいちゃんの世界では、これが普通みたいだけど……。
「ねえ、おじいちゃんの世界では本でどんな事するの?」
ハル君も興味があるようで聞いた。いや、他の二人も興味津々で答えを待っていた。
「どんな事にでもだが、極端な事を言えば牢屋みたいな使い方もある」
「え? 魔法の牢獄!」
「と言っても地球とは違っても罰を与える為に入れるのではなく、更生させる為だ。私の世界では警察みたいな組織もないし、そもそも地球とは考え方も違うからな」
へ~っと、私達は手をつないだまま頷いた。
「そうそう。私の世界では火は本の中で使わなくてはいけない事になっている。火事になったら大変だからな」
「じゃ、火を使っただけで逮捕されちゃんだ」
「逮捕か。そういうシステムはないが。まあ本の中で反省はあるかもな」
私の言葉に笑いながらおじいちゃんは答えた。
そうだった。警察組織みたいのはなかったんだった。それでも平和が保たれるなんて凄い世界だな~。
「さて、始めるか」
おじいちゃんがそう言って私達は頷いた。
「では、浮きたいと願いイメージする」
私達は真剣な顔で頷き、イメージする。
宙に浮く……宙に浮く……でも、落ちないよね?
ギュッと目を瞑っていたけど、目を開けて皆を見てみると、三人も目を瞑っていた。全然浮く気配はない。
「う~ん。おじいちゃん。全然浮かないけど?」
「そうか。受けないのはお前達は途中で落ちるかもという恐怖を持っているからだろう。まずは自分を信じ魔法を信じる事だな。今回は私が助けるから、手を繋いでいる限り落ちはしない。安心してチャレンジしてみるといいだろう」
「もう、そういうのは先に言ってよ」
「そうだ。もう、おじいちゃんはいつもそうだ」
ハル君とカナ君がブーブーとおじいちゃんに文句を言っている。何となく小学生の頃を思い出す。
「なんだよ……」
私がクスッと笑ったものだからカナ君がちょっとムッとして言ってきた。
「あ、ごめん。カナ君の事を笑ったんじゃないよ。小学生の頃に戻ったみたいで楽しくなって……」
「小学生かぁ。その頃ならきっと怖いなんて思わず浮けていたかもね」
ハル君も笑ってそう言った。
皆顔を見合わせほほ笑む。何となく緊張がほぐれた感じ。
「よし! やるぞう!」
カナ君の掛け声に私達は頷いた。
怖くない、怖くない。皆がいる。一緒に浮きたい!
フッと軽くなる感じがした。見れば地上から足が離れている!
「浮いてる!」
「不思議。下に引っ張られる感じがない!」
私が叫ぶと、ハル君も頷いて言った。
「そのままもっと上に。大丈夫お前達なら出来る!」
おじいちゃんの言葉に、どんどん上に上って行く。風も少し強く鳴るも恐怖感はない。
草原と青空しかない世界。青と緑のコントラストが綺麗。これ、おじいちゃんが住んでいた世界の風景に似せているのかな?
「目を閉じて……」
おじいちゃんがそう言ったので私達は素直に目を瞑った。そうすると、召喚された時の様に光を感じた――。
「うわぁ。びっくりした」
光が納まると同時に驚く声が聞こえ目を開くと、おじさんとアメリアさんがいた。いつのまにか本の中から出て戻って来たみたい。
「ずいぶん出てくるの早いんだな。消えたと思ったら一分ほどで戻るなんて……」
皆を見渡しおじさんが言った。一分? おじいちゃんが言っていた通り時間の流れが違うのね。
「一分? いや、俺達一時間ぐらい居たと思うけど……」
「本の中と現実とは時間の流れが違うのだ。すごいだろう?」
「すごいだろうじゃなくて! 父さん! もう子供達を巻き込むのはやめて下さい!」
私達がおじいちゃんの言葉に頷いていると、おじさんはそう訴えた。
「そう思うのなら本の事を言わなければよかっただろうに」
それにおじいちゃんはつらっと答えている。
うん? あれ? おじいちゃんって今、お兄さんになっているけどわかるんだ! じゃおじさんはおじいちゃんの正体を知っていたの!?
「おじさんは、この人がおじいちゃんだと知っていたんだ!」
「そりゃ知ってますよ。これが父さんの本来の姿です」
「お待ちになって? では、おじさまよりおじい様の方が若いって事になりますの?」
それ、私も気になる! どう見てもおじいちゃんの方が若い!
「それはな。誠も魔法で歳をとっているように見せているからだ。私の世界の人間は、地球人と寿命が違うようだ。我々は、二十代ぐらいまでは地球人と同じペースで見た目は進むがその後はずっとその容姿を保つ。そして死ぬ間際になって老けていくのだ」
私達四人はおじいちゃんの説明に目が点になった。凄い話を聞いた。不老不死みたいなもんだよね? 寿命がどれくらいかしらないけど……。いや、おじいちゃんって本当は何歳?!
「あ、えっと。じゃ、お父さんも本当は見た目二十代なの?」
おじさんはハル君の質問に頷いた。
「父さんに魔法をかけてもらって、わざわざこの見た目にしている」
「ちょっと待てよ! 俺の母さんがあんなに若く見えるのって若作りしている訳じゃなかったのか!!」
カナ君がそう叫んだ。
そっか。カナ君のお母さんはおじいちゃんの娘。女性だし老けたくないよね。
「なんか、羨ましいですわ」
マリアさんがボソッと呟いた。
寿命は兎に角、死ぬ間際まで見た目二十代でいられるなら確かに羨ましいかも。
「あの……すみません……」
アメリアさんがすまなそうに私達に声を掛けて来た。
忘れていたアメリアさんもいるんだった……。
「私はアメリアと言います。リアムさんですよね?」
「そうだが。そうか、あなたがリードを? しかしそのマントの色は……どうしてここに?」
アメリアさんが訪ねるとおじいちゃんはそうだと答えるも驚く。しかも来ている服の色で……。
「お願いがあって伺いました」
真剣な目で見つめて言った。
「なあ、おじいちゃん。服の色って何か意味あるのか?」
カナ君が私達の聞きたい事聞いた。
「私の世界では、外の世界を周る訪問者の役割を持つ者は、体を覆うマントが緑色なのだ。つまりそれ以外の者が外の世界にいるのは稀だ」
「じゃアメリアさんを追っていた男の人って訪問者? おじいちゃんも? あの人、悪い人じゃなかったんだ!」
おじいちゃんの説明を聞いて、ハル君がそう言った。
知り合いかどうかはわからないけど、同じ世界の人間同士で、あの男の人は服の色を見て追いかけていたのかも。
「ごめんなさい。騙すつもりはなかったのですが、どうしてもリアムさんに会いたくて。あなた達についていったら、精霊の本が出て来たので……」
「もしかしてリードを申し出たのは、おじい様に早くお会いになる為でしたの?」
マリアさんの質問にアメリアさんはそうですと頷いた。
「随分と協力的だとは思ったが……」
そう言いながらおじさんは、私達を庇う様に前に出た。
「利害た一致しただけです……」
「なるほど。で、用件は?」
「父さん! もう少し考えて行動して下さい。子供達が危ない目に遭うところだったのですよ!」
「何を言っている。危ない目に遭わせたのはお前ではないか。この者に精霊の本を見せたのだろう?」
「そ、それは……」
「それに危害は加えられていないのだろう? 外に出たことがない者がここまで来たのだから余程の事なのだろう」
「………」
分配はおじいちゃんに上がったようです。
「で、アメリアさん。私に何の用だ?」
アメリアは尋ねられるとスッとマントから精霊の本を出した。それを見たおじいちゃんは眉を顰める。
「この中に兄が閉じ込められています。出してあげてほしいのです! 無実なんです!」
無実って……。もしかして魔法の牢屋に入れられちゃったって事?!
「本当にそういう使い方をしておりますのね……」
マリアさんも驚いて呟いている。ハル君とカナ君もそれに頷いた。これって持ち出して来たって事なのかな? もしかして本に閉じ込めて保管してあるとか?
「もしかして、その本は向こうの世界から持ち出して来た物なのか?」
少しトーンが低い声でおじいちゃんは、アメリアさんに問うと彼女は頷いた。
おじいちゃんはそれを聞くと、大きなため息をつく。先ほどまでの笑顔はなく険しい顔つき。
「何故そんな事を……。どちらにしてもそんな事は出来ないな。ティメオ様がお作りになった本であろう?」
アメリアさんは、本を両手でギュッと握りしめた。
「兄が精霊の本を持って来るようにエリーヌさんに頼まれたと言ったのですが、ティメオ様は兄が嘘をついていると言って本の中に……。兄がそんな嘘をつくはずがないのです! リアムさんが地球にいると聞いて……。お願いです! 助けて下さい!」
最初は俯いて話していたアメリアさんだったけど、最後はおじいちゃんをまっすぐに見て懇願していた。
よくわからないけど、アメリアさんは誤解で兄は閉じ込められたから出して欲しいと本を持ってきたみたい。って盗んで来たんだよね、きっと。向こうの法律がわからないけどダメだよね……。
おじいちゃんは、腕を組んで神妙邪顔つきで考え込んでいる。
「あなたが言っている事は恐らく本当のことだろうが……。私が本から出す事は出来ない。だがティメオ様には説明してみよう」
「本当ですか! お願いします。ありがとうございます!」
おじいちゃんの言葉に嬉しそうにアメリアさんは頭を下げる。
「ちょっと、父さん! その人に協力するんですか?! その本って盗んで来たんですよね?」
「確かに断りもせずに持ち出してきたんだろう。だがその原因を作ったのはエリーヌだ。迷惑をかけたのだから当然だ!」
「迷惑? 父さんはエリーヌさんをご存知で?」
「お父さん、鈍感! おばあちゃんの名前、絵理《えり》じゃん。で、向こうの世界の名前がエリーヌ。だよね? おじいちゃん」
ハル君の説明におじいちゃんはその通りと頷いた。
つまりおばあちゃんがアメリアさんのお兄さんに本を持って来るように頼んだせいで精霊の本に閉じ込められたって事?!
「………。そ、それは、母が大変なご迷惑を……」
おじさんも理解したようで、アメリアさんに謝った。
「いえ、こちらこそ、すみませんでした」
「でも、どうしてこっそり帰ったんだ? 向こうの人は母さんが帰ったのを誰も知らなかったって事だよな? そのせいでアメリアさんのお兄さんが閉じ込められたのだし……」
「戻ったのを父親に知られたくなかったのだろう」
おじさんが私達の疑問を代表したかのように言うと、おじいちゃんはまた疑問が残る答えを返して来た。
「何でさ? おばあちゃん里帰りしたんだよな?」
「まあ、それは……。この世界で言うと家出だったからだと思うが……」
カナ君が質問をすると、思わぬ回答が飛び出した! 家出してきたと言う!
「家出! それでここにずっと居座っていたんですか? 孫ができるぐらいまで?!」
おじいちゃんの発言に驚いて、おじさんは聞き返す。
壮大な家出ですね……。異世界を渡るなんて……。
「まあ、駆け落ちでしたの?」
「いや、ただの家出だ。父親と喧嘩してな」
「ま、まさか。本当は恋人ですらなかったとかじゃないですよね? それなのに孫まで作ってしまったから帰り辛くなったとか言わないですよね?!」
「そんな訳あるか! れっきとした妻だ! エリーヌがティメオ様と喧嘩して出て行くと言うので一緒について来たのだ。前にこの世界に来た事があったから地球を選んだまでだ!」
おじいちゃんが慌てて弁解した言葉に皆、驚いた!
本に閉じ込めた人がおばあちゃんの父親だった! そりゃ帰って来たのを知らなければ憤慨もするかも……。
「お待ちになって。 今、ティメオ様とおっしゃいました? その方、おじい様が様を付けてお呼びしているぐらいですからお偉い方なのではないのですか?」
あ、本当だ! マリアさんの言う通りかも。
「そうだな。この世界で言うと、総理大臣や大統領みたいな立場かもな。人間のトップだ」
って、おじいちゃんは淡々と述べたけど、私が想像しているより凄い立場の人だった! 会社の上司とかじゃなかったんだ!!
「すっげ~。俺のおばあちゃん!」
「それじゃ、捕まるはずだね! 早く誤解をといてあげないと!」
「そうだな。では……」
「ちょっと待て!」
話がまとまったかの様な流れに、おじさんは待ったをかけた。おじさんは納得していないのかな?!
おじさんは真剣な顔だ。そしてスッと私達を指差した。正確には足元だけど。
「なんだよ、そこ!」
私達はおじさんに言われ、下を向いた。
そこは見事に足跡が緑色でペイントされていた!
これって、草原を靴下のまま走り回ったから? すご~い! なんか感動!
「って、もうこの靴下はけないじゃん!」
「そっか。俺達、靴下で草の上歩いたから……」
「あら、嫌ですわ」
「本の中に入る時は、靴を履く事だな」
「靴を履く事だな。じゃない! 今すぐ靴下を脱げ! 拭く物を持って来るからそれで拭いて! そして床も拭けよ! って、父さんは何故靴なんだよ!」
私達が感動している中、おじさんだけが怒鳴り声を上げ、雑巾を取りに行った。
「本当に短気な奴だ」
おじいちゃんがぼそっと呟く。
まあ汚されれば怒るかもね。
おじさんは私達には、濡らしたタオルを渡し、自分はせっせと床を拭き始める。
靴下を脱いで渡されたタオルで私達は足の裏を拭く。
「まったく……父さんが絡むとろくな事がない。って、父さんは、拭くんじゃなくて靴を脱いで下さい! ここは日本です!」
「そんな事は知っておる」
おじさんが怒鳴るも、おじいちゃんはつらっとして返し、ゴシゴシとタオルで靴裏を拭く。その姿におじさんは、大きなため息を漏らす。
ピピピピ……。
突然少し高い音が聞こえ、おじさんがスーツからスマホを取り出す。
「はい。佐藤です。お世話になっております。……え! はい! 時間までには間に合いますので、申し訳ありません! 失礼します!」
会話の途中で立ち上がると、ペコペコお辞儀をしつつ電話を切った。
くるっとハル君達を向いた顔は青ざめている。
「時間がない! 早く着替えて!」
おじさんが壁時計を指差し言うと、ハル君達は言われている事がわかったようで、ハッとして走り出す。
「集合時間過ぎてる!」
カナ君はそう言って姿を消した。
一体なんだろう?
「電話こなかったらやばかった……。部活から戻ったらすぐに出かけようと思っていたんだった……」
「すみません。私が来たばかりに……」
「いえ、アメリアさんのせいでは……」
何か急ぎの用事があったんだとアメリアさんもわかったようでそう言うと、慌てておじさんは否定する。
「気にする事はない。誠が忘れていただけだ。まったくマネージャーなのにな」
おじいちゃんの言葉にアメリアさんは首を傾げる。マネージャーと言う単語は通じてないみたい。それにしてもおじさんがマネージャーだったなんて! 出掛ける用事ってウィザードの仕事だったんだ! それは遅刻したら大変だわ!
「遅刻したらしゃれにならない……。父さん!」
「なんだ?」
文句でも言うのかと思ったら、おじさんは突然頭を下げた!
「お願いします!」
「全く。そういう時だけ。普段は魔法なんてと文句ばかりだと言うのに……」
「うん? 魔法?」
「魔法を使って、空を飛んで現場まで行くのですよ」
私が不思議そうに呟いたので、マリアさんがそっと教えてくれた。
そう言えば、おじさんが空を飛べるとかなんとか言っていたっけ? もしかして、毎回遅刻しそうになると空飛んでいるわけ?
「仕事場に魔法で飛んで?!」
「そうだ。遅刻しそうになるたびに借り出される。一人なら連れていけるんだけどってな」
私が驚いて叫んだ為、今度はおじいちゃんがそう教えてくれた。どうやら予想はあたっていたみたい。これもう、魔法が生活に溶け込んでいませんか?
「ほれ、全く。私がまだ本の中だったらどうする気だったのか……」
文句を言いつつおじいちゃんは、おじさんに何かを手渡した。
「それって何?」
直径三センチ程のキラキラ輝く球。それが今、おじさんの手の平にある。
「それが精霊の玉だ」
「まあ、これが……」
おじいちゃんの答えに私達は、ジッと精霊の玉を見つめた。マリアさんも言われるまで気づかなかったみたい。
「お待たせ!」
二人が十分もしないで着替えて現れた!
ハル君とカナ君は今、ウィザードの姿だ。何故か緊張してしまう。本当に二人はウィザードだった! いや、聞いてわかってはいたけど、目の前にすると、ね……。
やっぱり魔法使いだと言われるより、信じられません!
「アメリアさん、すまないが少し待っていてくれないか。すぐに戻ってくる」
おじいちゃんがそう話しかけるとアメリアさんは頷いた。
「さてパルミエ殿。毎度すまないが結界をお願い出来るかな?」
『はい。今回も四人分ですね。頑張ります』
呼ばれおじいちゃんのマントからスッとパルミエちゃんが出て来た。
「って、精霊って魔法使えたんだ! しかも結界!」
「精霊は私達より達者だ。結界は万が一に備え、姿を消すモノだ」
驚いて叫ぶと、また淡々とおじいちゃんは答えてくれた。
そう言えば、精霊は魔力の塊だったね。だとしたら魔法は使えそうだね。今はスマホとかで気軽に映像も撮れちゃうから見られたら大変だもんね……。空を飛ぶのも大変だ。
「精霊であっても、四人分はこの世界では大変でありませんか?」
「まあそうだが。誠はパートナーがいないからな」
「では、私のパートナーのヌガーさんを連れて行って下さい。いいわよね?」
アメリアさんが驚く提案をしてきた。おじいちゃんも驚いている。
『はい。大丈夫ですよ』
アメリアさんに言われて姿を現したのは、パルミエちゃん同様の大きさと見た目は人間の姿。でも髪がパルミエちゃんが肩ぐらいまでだけど、ヌガーちゃんはアメリアさんのように長かった。
「よいのか?」
「え? いいのですか?」
親子声を揃え聞くと、アメリアさんとヌガーちゃんは頷いた。
「ありがとうございます」
「すげ~。精霊だ!」
「この子もかわいい!」
おじさんがお礼をする横でハル君達は、精霊に見惚れていた。
「すまないな。ではヌガー殿、宜しく頼む」
そうしてぞろぞろと玄関に向かった。
そっとおじさんが、玄関のドアを開け、外の様子を伺う。
「誰もいない。オッケーだ」
そう言ってハル君――シマールと手を繋ぐ。
「じゃ張り切ってジャックしてくるぜ」
ハル君はシマールになりきり、その言葉を残しフッと姿が消えた!
驚いていると、おじいちゃんと手をつないだカナ君達も消える。
私達は見えなくなった四人が飛んで行っただろう空を仰ぎ見送った――。
ハル君達は見えなくなった。……いや、最初から飛び立つのさえ見えてないけど。空飛んだんだよね? 凄いなぁ。魔法って……。どうせなら飛んでいるところを見たかった。
そう言えば、ハル君、張り切ってジャックしてくるって言っていたけどなんだろう?
「ジャックって何かな?」
「今日は確か、ラジオジャックですわね」
私の呟きに、マリアさんが答えてくれた。
「あ、そっか!」
ウィザードはデビュー当時はテレビに出ていたが、ここ最近は何故かテレビやラジオの生番組をジャックして歌を歌う売り方なっている。路線変更したのかな?
まあ、北海道にいたら色々大変だよね……。なんで北海道なんだろう? まあそのお蔭で出会えたけど。
あ、北海道にいるから仕事減らしたのかな?
「聞きたいのでしたら、わたくしの家で聞けましてよ。ここから近いのでお寄りになります?」
「いいんですか! 私まだ、ジャックを生で聞いたり見たりした事がないんです!」
私が難しい顔をしていたせいか、マリアさんがそう言ってくれて、お言葉に甘えちゃう事にしました。って、アメリアさんはどうしようか……。連れて行って平気だよね? ここに一人残しておくわけにもいかないし……。
「キャー!」
突然の悲鳴に驚いて見れば、アメリアさんの肩を掴んでいるあの緑の男の人がいた! おじいちゃんの世界の訪問者の人だ!
誤解いや、ちゃんと説明しなくちゃ!
「やはりな。あなた達は、この世界の魔法使いだったか!」
「きゃー!」
説明をしようと口を開きかけると、訪問者のお兄さんは、事もあろうことかアメリアさんのマントの中に手を入れた! 彼女の手を引っ張り出す為だったみたいだけど。
「な、何をなさっておりますの!」
「いや、離して!」
二人が声を上げる中、訪問者のお兄さんはアメリアさんが持っていた本を取り上げた!
「あ! 返して!」
「何を言っている。盗んだ本だろう。このまま来てもらう!」
説明も何も出来ないままアメリアさんを連れて行かれそうになり、慌てて私は叫ぶ。
「待って! 誤解なの!」
「そうですわ! おじい様がお戻りになれば解決ですわ! まずお話を……」
私達が引き留めようと言うと、訪問者のお兄さんは驚いた顔をしてアメリアさんを見た。
「あなたは、この世界の人達にべらべらと話したのですか! 何を考えて……。仕方がない。そこの二人にも一緒に来てもらおう!」
「待って! 彼女達はこの世界の魔法使いですが新米なのです! 空すら飛べないようなんですよ! それに彼女……」
「話した君が悪い!」
訪問者のお兄さんはそれ以上聞き耳を持たないと言わんばかりに、強めにそう言った。
って、アメリアさんの言っている事は正しいけど、もう少しソフトな説明の仕方がないかな? というか、どうしよう……。きっと同じ仕事仲間? なのだからおじいちゃんの事知っているよね? でもこれ以上言って攻撃でもさ
れでも。どうしよう……。
「マリアさん、どうした……ら……」
って、マリアさんの目がキラキラ輝いている様に見える。まさかこのまま捕まってみようかな? なんて思ってないよね? もしかしたら私達、本の牢獄に入れられるかもしれないんだよ?
「マ、マリアさん……」
ハッとしたように私を見た後、マリアさんは頷いた。
「おじい様は、二人を送って行ったのですぐに戻ってきますわ。お願いですから……」
「俺は、彼女とこの本を持って戻ればいいだけだ。あんた達の処遇は向こうについてから決まる。兎に角いう事を聞いてほしい。三人共手を繋いで」
ダメですね。私達の言い分を聞く気は一切ないみたい。まあ、自分が判断する事じゃないみたいな事を言っているし。しかも手を繋げって言っているし……。なんで繋ぐんだろう? 逃げようと思えば、アメリアさんを置いて逃げれるのに……。
もしかして、手を繋いだら離れないような魔法があるとか!?
アメリアさんとマリアさんが繋ぎ、もう片方を私が繋ぐ。……何も起こらない。向こうでは連行する時に手を繋ぐのが普通なのかな?
「これでよろしいかしら?」
「着いてこい。こっちだ」
仕方なく促されるまま私達は手をつないで歩く。って、もしかして今、他の人達からすると、私とマリアさん二人で仲良く手を繋いで歩いているように見えているんじゃ……。
私は慌てて周りを見渡す。ハル君の家の裏手に向かっているようで、周りには人影はない。まずは一安心。
チラッとマリアさんを見ると、心なしか嬉しそうだ。この状況を絶対楽しんでいる! いや私は楽しんでいる訳じゃなく、状況判断を……。少しだけどんな世界か見てみたい気持ちはあります。はい。
だって、本の中の素敵な世界が広がっているかもしれないんだよ! おじいちゃんが助けに来てくれそうだし。多分……。でも、捕まったって知らなかったら、知らずにそのままもありなのかな……。そうなったら大変だ! やっぱり何とかしないと!
「ここだ……」
ぐだぐだ考えていたらどこかについたようって、やっぱりハル君家の裏手の道。ここに一体何が?
あたりを見渡しても特段何もない。人影すらない。
「ここに次元の扉がある。閉じているがな……」
意味不明な言葉を言いつつ、訪問者のお兄さんは目の前を指差した。勿論何かあるように見えない。
そう思っていると、指差していた手をパーに広げた。すると、目の前が陽炎のように揺らめく!
「え? なんですの?」
「こんな所に扉が……」
アメリアさんには見えているのか、理解できたのか、そう呟いた。って、その扉って何?
「いいか手を離すなよ。離してどうにかなっても自己責任だ!」
訪問者のお兄さんは、不吉な事を言って一歩前に進む。
ちょっと怖いんですけど!
「ちょっと待って!」
私が叫ぶも更に進むと、訪問者のお兄さんが揺らめく中へ入って行く! まさに入っていくだった! だって揺らめきの先からは、体が見えなくなっていた!
これ魔法じゃなかったら怪奇現象だよ!!
そして私が怯え驚いていると、凄い勢いで引っ張られ、次々と揺らめきの中へ!
「キャー!!」
「すごいですわ!」
私が悲鳴を上げるよ横で、マリアさんは感動していた!
不思議な場所だった。進んでいる感じが全くない。辺りは漆黒と言っていいほど真っ暗闇なのに自分達の姿は、はっきりと見える。多分、上も下も右も左もない世界なのかもしれない……。
「変だな。ここら辺のはんずなんだが……」
五分ほどたった頃だと思う。訪問者のお兄さんがボソッと呟いた。まさか、迷子になったんじゃないでしょうね?
「シュトルさん、近くにないか?」
『変ですね。私もここら辺だと思ったのですが……』
あ、あれはもしや、精霊なのでは!? おじいちゃんと同じ世界から来た魔法使いならパートナーがいてもおかしくない!
訪問者のお兄さんの肩の辺りにツインテールの精霊がいた。
なんだろう? 昨日まで魔法とは無縁だったのに、魔法を目の当たりにし精霊なんて三人目!
マリアさんを見れば、彼女も頬を染めてシュトルちゃんを見ている。興奮してます!
「見つからないのなら一度戻った方がよろしいのでは?」
アメリアさんは冷静です。まあ、見慣れてますよね……。
確かにさっきから訪問者のお兄さんは、オロオロしている。手を離すなと言ったりしていたし、凄く不安なのですが……。
「わかってる。一度戻るぞ。一体どうなっているんだ……」
納得がいってないようだけど、戻る事にしたみたい。って、無事戻れるのかな? それも不安だよ。
「いいですか。落ち着て聞いてい下さい……」
ぼそりとアメリアさんが私達に話しかけて来た。やっぱり迷子なんだろうか?
「彼の魔封じが解かれました……」
うん? どういう事なんだろう? 魔封じに掛かっていた事を知らなかったけど。って落ち着くも何も普通それっていい話なんじゃないの? 解放されたんだし……。
「そ、そうですか……」
マリアさんも戸惑いながらそう返す。私達には、彼女が言いたい事がわからない。
「同時に私とあなた達を私の魔法を使って移動しています」
アメリアさんの言葉に私達は顔を見合わせる。魔封じを解除されて自分で移動しているって事だよね? それってそれまでは訪問者のお兄さんが移動させてくれていたって事なのかな?
「それはどういう意味なのでしょうか?」
マリアさんが聞いてくれた。
「彼の魔力が尽きようとしているという事です。そして、私も後少ししか魔力がありません。魔力が尽きればここを彷徨うしかありません」
「え~~!」
「なんですって!」