「聞きたいのは、ひとつだけ。金曜のあれはなんだったの? 俺はどうすればいいの?」

 そんな中、再度、今度はゆっくりと、噛みしめるように晄汰郎が尋ねた。

 私の警戒心を解くためなのだろう、戸のそばから離れる様子もなく、降参するときのように両手を顔の横に上げている晄汰郎は、不覚にもちょっとだけ可愛くて困る。

「……」
「……」

 月曜の午前中特有の、これからはじまる憂鬱な一週間に向けて無理やりテンションを上げているかのような喧騒が、まるで嘘のようにひっそりと静まり返る空き教室は、壁時計の秒針がチクタクとただ時を刻んでいるだけだった。

 遠く本校舎のほうから生徒たちの笑い声や廊下を走る足音がぼんやり聞こえて、かえってこの教室の中の静寂が際立つ。

 耳に痛い静寂というものを経験するのは、これが初めてかもしれない。

 目の前にはつい三日前、唐突に意識するようになってしまった晄汰郎が、私が何か言葉を発するのをじっと待っている。

 もし納得するようなことが言えなければ、晄汰郎はきっと、そこをどいてはくれないだろう。

 降参のポーズは相変わらず可愛いけれど、やっていることは、ひどく強引だ。