「ようこそおいでになりました。
 お待ち申し上げておりましたよ。
 ソリス・レアード様。
 アリシア・ノベルズ様ですね。」

 城下町に入る大きな城門には左右に1人づつ、槍を携えた門兵が立ち、それよりも身なりのいい男がロール紙を伸ばして中の名前を確認している。

「くっっそっ!」
時間切れ(タイムアウト)
 良かったじゃない、もう1回ドレスを着れるわよ。」
 悪態を吐くアリシアを、門兵達は驚きを隠しきれない顔でチラチラと見ている。
 彼等からしたら、門をくぐった途端に機嫌が悪くなった。というところか……。

「馬車を待たせてあります。」
 うやうやしく礼をして職務を遂行しようとする男を、ソリスは手で制す。
「ちょっと用事があるの。
 城へは後で伺うわ。」
 町の中から2人に送られる視線に、はっきりと気が付いた。


 通りを曲がり顔を出した老女の前に、長い髪を揺らした魔道士アリシアが空から舞い降りる。
 その姿に慌てたように振り返る背後には、道を塞ぐように立ち塞がる剣士ソリス。
「あたし達に用事があったんじゃないの?」

「さっきは城で、あの子と話をしたのかい?」
 樫の杖を持ち、深い青緑色のワンピースを着た品の良い老女は悲しそうに口を開いた。


 老女の話では、あのペールブルーのドレスの姫は上位貴族の令嬢だったらしい。
 しかし父の後妻とソリが合わず、父の死後は召使い状態。
 老女は後見人だったが出入りを禁止されて、姫とも絶縁状態だった。

「でも、城で行われるパーティーはチャンスだと思ったんだよ。
 あの子はとっても美人だし、心根も優しい。
 そんなあの子が、現状に絶望し後妻とその連れ子を恨んでさえいた。
 私は少し魔道をかじっていてね。あの子の力になれると思ったんだ。」

「でもお妃には選ばれなかった……。
 恨みつらみが爆発して、魔力に増幅されたのかしらね。」
 ソリスが静かに続ける言葉に、一瞬アリシアがまゆをひそめる。

「いや。
 ちゃーんとお妃には選ばれたよ。
 可愛い2人の天使(こども)にも恵まれて、城で幸せに暮らしているよ。」

『はぁ⁉︎』
 ニコニコと微笑む老女に、2人の顔が引きつる。
「あの子ってばねぇ、私の事もちゃーんと結婚式に招待してくれたんだよぉ〜。
 それはそれは綺麗な花嫁さんで……。」
「ちょっとまて、ばーさん。」
 思い出話に花が咲きそうな老女にアリシアが待ったをかける。
「ちゃんと選ばれたって、じゃあこの現象は一体何なのよっ。」
「さぁねぇ。」
 困ったように首を傾げる老女に、アリシアとソリスも言葉が続かない。

「と、りあえず、あのペールブルーのドレス女は本物じゃないって事よね?」
 考えるように髪に手をやるソリスに、アリシアが言葉を続ける。
「鐘楼が鳴るのもコントロールしているみたいだしね。
 いい加減解放してもらいましょうか。
 次の狙いは鐘楼。その後は小娘よ。」
 元々こらえ性もないが、出し抜かれたことが相当腹に据えかねたらしいアリシアの目が、珍しくやる気に輝いた。