「もしもし?」

私は、眠たそうな目をこすりながらそう言った。

『なんで昨日、電話に出なかったの?姉ちゃん』

電話の向こうから聞こえる弟翼の声は涙ぐんでいたが、その中に怒りも含まれていた。

「電話くれてたの?ごめんね」

私は、軽い口調で謝った。

昨日は優太と一日デートを楽しんでいた為、弟からの電話に出る余裕がなかった。

『昨日、なにやってたの?電話にも出られない、大切な用事だったの?』

翼は、さらに怒りのこもった声で私に訊く。

「なんでもいいでしょ。それより、用があって私に電話してきたんでしょ。早く言ってよ!」

朝から弟の翼が喧嘩腰で話すので、私は強い口調で言い返した。

『………死んだ』

電話越しから聞こえた優太の声が突然、小さくなったので私は「えっ!」と聞き返した。

『お母さんが昨日、肝臓がんで死んだんだよ』

今度は怒り声ではなく、翼は悲しそうに言った。

「え、死んだ……」

自然とつぶやいた声とは裏腹に、私は母親の死が理解できなかった。