千紫万紅~君と見たい景色~


十人十色なクラス

衣替えも終わり、梅雨の半ば。


湿気と暑さが増し、蝉もそろそろ出てくる頃。



都会の喧騒から少し離れた
私立 天桜(テンオウ)高校 2年A組の日常はどんなものだろうか?



彼らは今日も騒がしい…………いや、元気一杯のようだ。



覗いてみるとしよう。

「おはよー!」


「あ、楓おはよう。」


「あんた、また遅刻ギリギリ。まったくいつまでたっても進歩しないわね。」



「あは、葵厳しいー☆ねぇそれより、昨日のドラマ見た?主役の俳優カッコよかったよね!」


「うん見た見た。でも桃歌は、その弟の方が好みかな。」

「はぁ?何言ってんの。一番は主役の親友よ。」




なんて朝から下らない議論で、女子3人組は盛り上がっている。



背が高く第一印象はクールなお姉様、だけど本当は優しい
香月葵(コウヅキ アオイ)



可愛い小悪魔系なのに男子には毒舌
海波桃歌(ミナミ トウカ)



学年一番ハイテンションでお調子者
森崎楓(モリサキ カエデ)



三者三様にも関わらず、不思議と仲が良い。

「はぁ~あいつらまじ煩い。」


「まったく、レディに向かって煩いは駄目だよ。お喋りは女の子の特権だからね。それくらい許してあげないから僕みたいにモテないんだよ。」



「あーあー聞こえない聞こえないっ。」



「って陽、口より手動かせ。また赤点取る気かよ。」


「げ。それだけは勘弁。」





馬鹿で能天気、赤点常習者
藤松陽(フジマツ アキラ)


ナルシストでフェミニスト
霧谷風馬(キリタニ フウマ)


二人の会話に呆れながらも話を戻す常識人、つまり目立った個性がないともいえる
木山悠晴(キヤマ ユウセイ)




期末テストを一週間後に控え泣きついてきた陽に悠晴と風馬は勉強を教えている。


進級は追試でギリギリ、中間テストの時も赤点取って担任にこっぴどく絞られたのに陽は全く懲りてはいなかったらしい。

♪~キーンコーン
      カーンコーン~♪



「ほら、みんなーチャイム鳴ったわよ。席につ…きゃっ!?」


バサバサバサッッ―――



「…ったく、朝からプリントぶちまけてんじゃねーよ。」


「あわわわっ!す、すみません!!!」



教室に入った途端、教壇の横で一昔前のコントの様な事を繰り広げているのは


このクラスの担任で数学担当、強面だが面倒見が良い1児の父
雨島椿樹(サメジマ ツバキ)



副担任で教師2年目国語担当、超が付く程のドジ
蓮見なずな(ハスミ ナズナ)



「先生お怪我はありませんか?お手をどうぞ。」


「毎朝毎朝、飽きずによく同じ事を…。はい、プリント。」


「あ、ありがとう、霧谷くん、香月さん。」



「先生、ドンマイ☆」



このやり取りを誰も驚きはしない。


何もない所でなずなが転んで持っている物をぶちまけるのは、このクラスでは日常と化しているからだ。

「あっ!萩野さん、雪ちゃんおはよう☆」


「おはよう。」



「あら、おはよう。森崎さん今日も朝から元気いっぱいね。」



「えへへ、それほどでも~。」



褒められている訳ではないのに、楓は照れている。

そして、雪ちゃんはそんな楓を気にしない。



「うふふ。じゃ、萩野さん何かあったらいつでも言ってね。」


「ありがとうございます。」



「……!」




雪ちゃんとは、保健室の養護教諭
雪丘茜(ユキオカ アカネ)のこと。


小柄で白衣がよく似合い、皆から慕われている。

生徒の相談にもよくのっているので、学校では唯一あだ名で呼ばれている先生である。


そして雪ちゃんに連れられて入ってきたのは萩野和咲(ハギノ カズサ)



喘息持ちで、今は日常生活には問題は無いものの、通学中の車の排気ガスなどは要注意。


だから、朝は雪ちゃんに診てもらう為に保健室に寄っている。

無口で女子達の輪に自分からは加わらない、読書好きの典型的な優等生タイプ。



なのにクラスで浮いていないのは、人当たりが良くて面倒見も良い性格のおかげ。


楓のマシンガントークに長々と付き合えるのは和咲ぐらいだとも言われている。



因みに大抵一緒にいる葵と桃歌は、大体が内容の薄い話なので大半聞いていない。



話が噛み合わない事もしばしばだが、そんなことさえ気にしないのが今の女子高生である。

合縁奇縁の追憶

そしてこのクラスには、和咲に片思いしている人物がいる。


和咲が教室に入ってきてからずっと視線を外さず見ている男子…悠晴である。




きっかけは、ほんの些細なことだった。



遡る事、約1年前

入学式も終わり、桜が新緑に変わり始めた初夏のある日の出来事である。

「まったく陽のやつ、放課後まで俺をこき使いやがって。家庭教師じゃねぇつーの。」



入学してから知り合った陽に悠晴は、今日の授業さっぱり分かんなかったから教えて。と頼み込まれ教えていた。


だが陽の理解力が悪く、休み時間だけでは足らず放課後までかかってしまった。



(あれでよく入試受かったもんだな…謎すぎる、学校の七不思議に加えてもいいレベルじゃないか)と悠晴は思う。




タタタッッ――ドサッ――……


「うわぁぁぁぁぁんっ!!」


「!なんだ?」



歩いていたすぐ横の公園で、小学校1年生くらいの男の子が勢い余って転けたらしく泣いている。


その泣き声に気付いて向こうから近づいてきたのは、悠晴と同じ学校の制服を着た同い年くらいの女の子。

「あー転んじゃったね。立てるかな?お姉ちゃん、お薬持ってるからお薬塗ろうか。」



男の子を近くのベンチに座らせると、鞄から救急セットを出して、手際よく手当てをしていく。



「はい、よく頑張ったね。もう大丈夫だから泣き止みな。」



手当てが終わっても泣き顔の男の子に、頭を撫でながら優しく話しかける。



「…うん。ありがとお姉ちゃん。」


「よしよし良い子。じゃあ遊んでおいで。」


「うん!バイバイお姉ちゃん!」



男の子は手を振りながら、元気よく駆けていく。



その光景を見た。

たったそれだけ、それだけだった。



次の日、同学年でしかも陽と同じクラスと知った悠晴は、それを口実にクラスに入り浸って気付けば陽の話そっちのけで目で追っていた。


学校では見たことがない、公園で男の子に見せた和咲の笑顔が焼き付いて離れなかった。

悠晴は、顔はまあまあイケメンの部類で、性格も至って普通。

今まで何度か告白されたことはあったが、自分から誰かを好きになったことはなかった。



和咲が好きだと自覚したのも風馬に言われたからだ。


態度が物凄く分かりやすかったらしく、それは好きってこと。なんてため息混じりに呆れられた程の鈍感ぶり。



それに片思いといっても悠晴の場合、自分から話しかけたのは挨拶か必要事項ぐらい。



アプローチなんてもってのほかで、悠晴が和咲に関して知っているのはクラスで見聞きした程度。



そんな感じで接していたものだから、風馬と陽にはヘタレと言われてしまう始末。



(まったく俺はヘタレじゃねぇ!…と思う。つーかそれが出来たら1年も片思いしてねぇよ!……ってやっぱりヘタレか…?!)


などと、強気なのか弱気なのか分からない言い訳を、心の中で一人押し問答をする悠晴だった。

「………い……せい、悠晴!」




「……あ?何?」



少し焦った様子の陽に揺さぶられる。



「ホームルーム終わったぞ?次移動だろ?行くぜ。」


「あ、あぁ…。」




見回してみると、移動の為に教室に残っているのは数人。


どうやら和咲を見てから悠晴は10分以上も物思いに耽ってたらしい。



(最近萩野のことを考えてたら30分とかあっという間に過ぎる。恋は盲目とか馬鹿にしてたけど、馬鹿にできねー。)


なんて完璧に恋する乙女状態の悠晴であった。

精励恪勤で尽き果てる

あれから一週間経ち、ついに期末テストが始まった。




ここからは、彼らの期末テストの模様をお送りするとしよう。




おや?
彼らが1教科に付き1人づつ感想を言ってくれるみたいだ。



果たして彼らは真面目にテストを受けているのだろうかね?

・1日目



《1限 数学》

「初日の始まりが数学ってテンション下がりまくりだぜ。」



《2限 世界史》

「桃歌、世界の歴史とか興味ないんだけど。」



《3限 英語》

「書くよりは話す方が好き。」

・2日目



《1限 化学》

「スイヘイリーベボクノフネ☆」



《2限 選択科目4:美術》

「画家や作品の事じゃなくて、自画像なら得意なのに。」

・3日目



《1限 地理》

「地表より空の方がよく見てるけど、必修科目だから仕方がないか。」



《2限 生物》

「得意というより必然的に学習した感じ。」



《3限 選択科目1:家庭科》

「選択科目の中では(将来的な意味で)一番マシよね。私は結婚してもバリバリ働きたいけど。」

・4日目



《1限 選択科目3:体育》

「テンション上がりまくり。俺の時代がキター!!」

・5日目



《1限 国語》

「本を読んでるからって訳じゃないけど、活字は得意。」



《2限 選択科目5:パソコン》

「情報化社会だからな。」

「あー終わったー!!!」


「おい、俺の机に倒れこむな!プリントが皺になるだろ!」



「これで安心して夏休みを迎えられるね。」



「まっ、赤点取ったら夏休み補習で潰れるけどな。」


「悠晴、それを言っちゃぁおしまいだぜ…。でも、今回は中間テストから学んで前もってちゃんと勉強したから大丈夫だ!」


勉強したことで、陽には変な自信が付いてしまったらしい。



「一週間前からだけどね。」


「微妙な学習の仕方だよな。」


そんな男子達に女子達は冷めた目を向ける。



「どうして男子の会話ってあぁも低レベルなの?」


「同感ね。」



「ねぇねぇっ、萩野さんテストどうだった☆?」


「まあまあ。でも数学は少し難しかったかな。」


「だよねー!応用ムズすぎ。もう少し基本問題出して欲しいよね☆」

「桃歌達これからファミレスにご飯行くんだけど、萩野さんも行こうよ。」


「うん。」


「そんじゃ、レッツらゴー☆」


教室を出ていく和咲達を目で追う悠晴に、風馬は呆れ顔。



「いい加減告白したら?」


「!うるせーよ。何の脈絡もなくできっか。」


「きっかけがあればするの?」

「………。」





「なぁ~俺らも昼飯行こうぜ?腹へった!」


「……。はぁ、陽は本当にデリカシーというものが無いね。」

「あんだとー!!」



「あーもういいから行くぞ!」


陽のあげた大声に、クラスメイトの注目を多少浴びてしまったので、とりあえず教室から出ようと悠晴は2人を押したのだった。

一喜一憂の出来事

期末テストの数日後、和咲は次の授業に使う資料をなずなと共に図書室で探していた。



「ごめんねー、手伝ってもらっちゃって。」


「いえ、資料探しなら私にも出来ますから。それに、いつもリクエスト聞いてもらっているので。」



なずなは探し物が下手らしく、探していると物が散乱し同じ場所を何度も探す為、一向に見付からない。


なので、図書室で本を読んでいた和咲は見兼ねて手伝うと申し出たのだ。


図書室に置く本の希望を司書にプッシュしてくれているお礼も兼ねて。



20分程経った頃、それらしき冊子を和咲は見つけた。



「先生?もしかして、これじゃないですか?」


「え?あーそれそれ!ありがとう!」



「先生、気を付けてください。その辺はまだ片付けて…」


「へっ?きゃっ!!」



ドサッ、バサバサバサッ……



「――――っっ!!」



床に物が散乱した状態で移動しようとしたなずなは案の定躓き、持っていた古い資料をばらまいてしまった。


大量に積もった埃も一緒に。

「ゴホ、ゴホゴホ、ゴホゴホゴホ、ゴホゴホゴホ………」



和咲は舞い上がった埃を思いっきり吸い込んでしまい咳き込む。



「…っ痛ーい…。萩野さん大丈夫?」



「ゴホゴホゴホ、ゴホゴホ、…ゴッホ……………」



「!」



「萩野さん、ねぇ萩野さん返事して?!萩野さん!」


床に置いた本にダイブしたなずなが、咳き込んでしまった和咲に気付くも遅く、和咲は気を失ってしまう。


和咲を保健室に運んだなずなは、雪ちゃんに診てもらった。



「少し落ち着いたわね。…蓮見先生、そんなに落ち込まないで?今のところ命に別状はないのだから。」



「でも、私のせいなんです。手伝うって言ってくれた萩野さんに甘えなければこんなことには…。」



「まぁ、起きてしまった事を後悔しても仕方がないし…。教頭先生に呼ばれてるのでしょう?ここは大丈夫だから。」



「…はい、ありがとうございます。お願いします。」

なずなが保健室を出て行ってから数分後、和咲が目を覚ました。



「……――っ………」


「!萩野さん、気が付いた?」


「――っ、はい。私……」


「図書室で倒れたのよ。覚えてる?」



「……あぁ、そういえば…。すみません。」


「それは別に良いのだけれど。もう、苦しくない?」



「はい、大丈夫です。あの、蓮見先生は…」


「蓮見先生ならさっき…」



この場に居ないなずなが気になって雪ちゃんに行方を尋ねたその時、保健室のドアが開いた。


「和咲!!」


「藍姉……。」



「貴女、大丈夫なの?倒れたって聞いて私……」



「藍姉、落ち着いて。大丈夫だから。」



慌てた様子で保健室に入って来たのは和咲が暮らしている施設の経営者の娘、泉藍(イズミ ラン)だった。



「泉さん、心配ありませんよ。こちらにお座り下さい。」



「すみません、ありがとうございます。」

和咲は施設で暮らしている。



小児喘息を患っていた和咲は長い間入院していたが、症状が落ち着いたので退院し通院していた。


しかし3年前、交通事故で両親が亡くなった為施設に引き取られたのだ。



中学は義務教育ということもあり病院の紹介で入学出来たものの、時々発作が起きてしまう和咲を受け入れてくれる高校は簡単には見付からなかった。


通信教育でも学べればいいからと和咲は言ったのだが、施設長や藍の強い勧めもあって、天桜高校に進学した。



因みに、天桜高校の校長は和咲の事を他の学校の関係者から聞いて、私の学校で良ければ…と申し出た懐の広い人物である。

藍が保健室に着いた頃、職員室では謝罪と怒号が響いていた。




「申し訳ありませんっっ!!」


「貴女、何をしたのか分かっているのですか!?」



「まぁまぁ教頭、落ち着いて下さい。今回は大事無かったんですから。」


「雨島先生、そういう問題ではありません!それにこれは貴方の監督責任も問われますよ!」


「いえ、雨島先生には…。私の責任です!」



雨島が落ち着かせようとするも火に油だ。



「教頭先生、蓮見先生は関係ありません。手伝うと言ったのは私ですから。」


「!萩野さん。」



教頭の怒号が廊下にまで聞こえてたらしく、和咲が止めに入る。

「萩野、大丈夫か?」



「はい、問題ありません。教頭先生、発作が起きただけなので大丈夫です。私は、学校に通えているだけで十分ですから。」


「萩野さん…。」



「本人もこう言ってますし、今回は厳重注意ということで終わりにしましょう、教頭先生?」


「!校長!……ですが…」



出掛けていて、今しがた帰ってきたらしい校長が教頭を諭す。



「あまり大事にしては萩野さんが学校に居づらくなってしまいますよ。」



「……分かりました。」


校長の一言で渋々ながら教頭も納得し騒ぎも収まったので、校長に連れられて和咲と藍は正門へと向かう。



「校長先生、さっきはありがとうございました。」



「いやいや、良いんだよ。でも教頭先生もああ見えて凄く心配していたんだよ。」



「…はい、分かってます。先生もクラスの皆も凄く優しいですし、発作が起きない様に色々気を使ってくれています。私は幸せ者です。」

「………。萩野さん。学校に通えている事は確かに幸せなことですが、幸せはそれだけではありませんよ?」



「分かってます。でも、私にとって学校に通うというのは夢でしたから。それだけで十分なんです。」



「そうですか。したい事があればどんどん希望を出して下さい。勿論、図書室に置く本の希望もね。生徒が楽しく学べる環境を作るのも私達教師の役目ですから。」



校長はニッコリと優しく笑う。



「…はい、ありがとうございます。」


「泉さんもご心配をお掛けしましたね。」



「いえ、とんでもありません。和咲の事気にかけて下さってありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。」



「こちらこそ。では萩野さん、また明日。」



「はい。失礼します。」

帰ろうとして職員室での一部始終を聞いてしまった悠晴は、正門からは死角になる廊下で和咲達のやり取りを見ていた。



「……………。」



「木山、盗み聞きか?」



「!!!ビックリしたー。雨島、脅かすなよ。」



「先生を付けろ、先生を。それと学校内でストーカーするんじゃねぇよ。」



「し、してねーから!」



察しの良い雨島は、悠晴の目線の先にいる人物に気付いていた。



「何、萩野の事気になる訳?」


「……。別に。」



「(何だその間は。)萩野は利口過ぎるんだよな。もっと年相応になってもいいんだがなぁ、森崎みたいに。あーでも、あいつはお子様過ぎるか。」



「…俺に言うなよ。」



「あ~まぁそうだな、すまんすまん。俺の独り言だ、気にするな。」



「(独り言かよ!)」

「まぁ~なんだ、遠くから見てるだけじゃ何も始まらん。手始めに、一緒に帰ってみるとかしたらどうだ?…うん、そうだ、それがいい、そうしろ!恋の先輩からの有難い言葉だ、よく覚えておけ!じゃまた明日な。きーつけて帰れよ!」




一人納得して、更に変な格言を残して雨島は去っていった。



「……。んなこと、言われなくても分かってるつーの!」



分かっていてもなかなか実行に移せない悠晴の叫びであった。

和気藹々な空間

和咲が倒れてから3日――、悠晴は悩みに悩んでいる。


雨島の言葉が頭の中でループしているからだ。



丁度今日から月が変わって終業式まで短縮、授業は午前で終わる。



「見ているだけじゃ始まらない、か…。」



和咲の言葉に少し引っ掛かった事もあり、雨島に言われたからではないと言い聞かせ、勇気を出して誘ってみることにした。




「雪ちゃんありがとうございました。さようなら。」


「さようなら、また明日ね。気を付けて帰ってね。」


「はい、失礼します。」



悠晴は、倒れてからは帰りも雪ちゃんに見てもらっている和咲を待ち伏せていた。



「は、萩野!」


「?なに?」



「あのさ…俺と…、俺と一緒に………俺と一緒に帰って欲しいんだけど!」

「あー萩野さん!今帰り?あたし達帰りにクレープ食べに行くんだけど行く☆?」



「(も、森崎!)」




全く空気の読んでいない楓が、勇気を振り絞った悠晴を華麗にスルーして和咲に話しかける。


「……。ありがと、でも今日は先約があるから。ごめん。」


「そっかー。じゃあしょうがないね。また食べに行こ☆」


「うん。また明日。」


「また明日ー☆」


「(先約があるのか…。)」



楓は嵐の様な騒がしさで去って行った。

「木山、帰ろ。」


「え!?先約があるんじゃ…」


先約と聞いて落胆していた悠晴は自分に帰ろうと言われて驚く。



「うん。木山の方が先に誘ってくれたでしょ。だから先約。」

「!」



和咲の先約とは悠晴と帰ることだった。



「なんだ、そっか…」



沈んでいた気持ちが浮き上がる。


「?なに?」


「え?ああ、何でもない。か、帰ろ。」



そして2人は一緒に帰っているのだが…



悠晴は緊張しすぎて何を話して良いのか分からない。


和咲は和咲で自分からは喋ろうとはしない。



だから必然的に2人とも無言。


なのに歩くスピードは不思議と同じである。

「あ、和咲!お帰り。」


「藍姉!」



突然後ろから話しかけられたと思ったら、買い物袋を提げた藍だった。



「買い物?」


「そう、卵が足りなくて。あら、そちらはお友達?」


「うん。同じクラスの木山。」


「は、初めまして。木山悠晴です。」


「私は和咲と一緒に住んでいる泉藍といいます。よろしくね。あ、そうだわ!今帰りってことはお昼まだでしょう?うちで一緒に食べない?皆で食べた方が楽しいし。ねっ和咲良いでしょ?」



「べ、別に木山が良いなら。」


捲し立てる様に、そして何故か嬉しそうに話す藍の勢いに圧倒されながらも、同意を求められた和咲は悠晴を見ながら言った。

悠晴は初対面の藍に誘われたことに戸惑う。

しかし、和咲の家で一緒にご飯を食べれるという喜ばしい展開に内心を悟られない様にしながら答える。



「お、俺でよければ…」

グゥ~


「!!」



「あらあら。良いタイミングみたいね。」


「す、すみません…。」


「気にしないで。さっ、行きましょ。」



悠晴のお腹の虫が返事をしたので、決まったとばかりに藍は2人を促した。

和咲の暮らしている施設 なでしこ園 はその名を表す様に、入り口には色とりどりの花が花壇に植えられている。



「あ、藍姉、和咲姉お帰り~」

「二人ともお帰り。」


「ただいま七穂、四朗。」



「卵はあったかい?」


「ええ、ほらたくさん。三夜と二葉は台所?」


「ああ、じゃあ早速作ろうか。」


「私も手伝うわ。」



読んでいた本をしまった七穂と藍から卵を受け取った四朗は、帰ってきた藍と一緒に三夜と二葉のいる台所へと向かう。



「和咲姉、こいつ誰?」



和咲達のすぐ後に帰ってきた一護は悠晴にいち早く気付いた。


「和咲姉の彼氏だ~」
「彼氏だ~」


「こら、一護失礼でしょ。ただいまくらい言いなさい。八雲も九雲も走り回らない!」



「十環ちゃんが怒った~」
「怒った~」



一護のせいで八雲と九雲も悠晴の存在に気付き、おませな2人は彼氏彼氏と大はしゃぎ。十環来の注意すら楽しんでいる。


因みに、大部屋の床はフローリングで埃は立たないから、八雲と九雲が走り回っても大丈夫なのである。

大部屋に入った途端、悠晴は固まってしまっていた。



「ごめん、煩くて。」


「いや、別にいいんだけど。…なんかイメージがさ。」


「イメージ?」


「施設ってもっと静かな感じだと思ってたから。」


「施設にもよると思うけど、私はここしか知らないから。ここは常にこんな感じ。」



大部屋は大きな窓もあり、明るく開放的な造りをしている。



「とりあえず皆のこと説明しとく。」



ご飯が出来る間の今のうち、と和咲。



「藍姉から卵を受け取ったのが四朗(シロウ)兄。ここの施設出身で、施設の子供の面倒をみる児童指導員。藍姉の旦那さん。


藍姉達の会話に出てきた三夜(サヨ)姉もここの施設出身で保育士。


二葉(フタバ)は三夜姉の親戚の子で小学2年の女の子。


そこで本を読んでいた女の子は七穂(ナホ)。中学1年生。」

「木山に気付いた男の子は一護(イチゴ)。中学2年生。


走り回ってる男の子2人は八雲(ヤクモ)と九雲(ツクモ)。今年で5歳になる双子。


その3人を注意したのが十環来(トワコ)姉。十環姉もここの施設出身で児童指導員。

それから…」



「とわちゃん…ごはん…」


「ただいまー腹減った~藍姉ー昼飯まだ?」


「りっちゃんお腹空いたね、もう少しで出来るからね。五楼!腹減ったじゃなくてお腹空いたでしょ!もう、言葉使いをちゃんとしなさいって何度言ったら分かるの!」



「げっ、十環姉!お、俺着替えてくる!」



「………。今走り去っていった男の子が五楼(イツキ)。小学5年生。


十環姉に抱っこされてる女の子が六香(リッカ)。3歳。


あと、今は出掛けてるみたいだけど藍姉の両親で施設長の雷(アズマ)さんと霞(カスミ)さん。これで全員。」



和咲を含めて14人家族。



「皆、萩野みたいに親が亡くなってるの?」


「ううん違う。施設にくるのは家庭の事情だけど。私みたいに親と死別したり、ネグレクトだったり、虐待だったり…。」


「………色々あるんだな。」

「みんなお待たせ~!今日はチャーハンよ。八雲、九雲スプーン並べてくれる?」


「「は~い!」」



話しているうちにだいぶ時間が経っていたらしい。

藍と四朗と七穂がチャーハンを、三夜と二葉がお茶とコップを、それぞれ人数分運んできた。

大部屋には横に長いテーブルが2台あり、それぞれそこに並べ始める。



「ねぇ一護兄、和咲姉の隣の奴誰?」


「さぁ?帰ってきたらいた。八雲と九雲は彼氏だって騒いでたけど。」


「彼氏!?ありえねーだろ。和咲姉の性格からして。」


「だよな、俺もそう思う。多分買い物袋提げてた藍姉あたりが誘ったんだろ、皆で食べた方が楽しいとか言って。」


「あ~それはありえる。」

「(…イラッ…)」



藍の掛け声で大部屋に来た一護と五楼は、悠晴を見て何やらコソコソと話始めた。



悠晴には丸聞こえだったが、小中学生相手にムキになるのも大人げないし、しかも内容がその通りなのでカチンときたものの何も言わないことにした。



和咲にも一護と五楼の会話は聞こえていて、(木山が来たのは藍姉が言ったからだけど、そういえば何で木山に帰ろうってあんなにすんなり言えたんだろう?)と不思議に思っていた。



全てを並び終えみんなが席に着いたところで、藍が話始める。



「皆気づいてると思うけど、和咲の隣にいるのは和咲と同じクラスの木山悠晴君です。買い物の帰りに偶然会ったので誘いました。」



「…は、初めまして…。」



「な?俺の言った通りだろ。」


「だな。…じゃあ和咲姉と一緒に帰ってたってことかよ?!」


一護はやっぱりとしたり顔で、五楼は和咲が異性と一緒に帰っていた事に驚く。

「「和咲姉の彼氏~」」


「こら、静かにしなさい。」


「へぇ~和咲姉と、ねぇ~」



紹介により八雲と九雲は再び騒ぎ出して十環来が止めに入るが2人は聞く耳を持たない。


七穂に至っては何を考えたのか含み笑いである。



「和咲が友達連れてくるなんて珍しいね。今までは女の子だけだったし。」


「でしょ!私も見た時驚いて。それで思わず誘ってしまったのよ。」



藍が悠晴を連れてきた理由は、まさかの興味本位であった…。


「ねぇねぇ。お兄ちゃんは、和咲姉のこと好きなの?和咲姉の彼氏なの?」


「え!?」



二葉がキラキラした目で悠晴聞く。



「二葉、そういうことを聞かなくても分かってあげるのが大人の女性ってものよ。」


「三夜姉かっこいい~!」



しかし、悠晴が驚いている間にすかさず三夜が言うと、二葉は更にキラキラした目になる。



「あ、あの…。(俺はどうすればいいんだ…?)」



聞かれたのに勝手に話を進められてしまったので、悠晴は口を挟む隙が無く反応に困ってしまう。

藍が悠晴を紹介した途端、和咲と悠晴そっちのけで話始めてしまった。



「………ねぇ。」



キリが無さそうなので和咲は静かに声をかける。



「「「なに?」」」



「りっちゃん食べたそうだし、ご飯冷めると思うけど。早く食べない?」



「そ、そうね。はい、それではみなさん手をあわせて…」




「「「いただきます!」」」



和咲の言葉に、慌てて藍は同意し皆もそれに従った。


きっと、和咲の声色が怖かったからに違いない。



「ごめん、静かなの寝てる時ぐらいで。皆好き勝手言うけど、気にしなくていいから。」


「あぁ、大丈夫。学校以外で、こういう大人数初めてでビックリしただけだから。」


「そう。ならいいけど。」


「このチャーハンうまいね。」


自分の家とはもちろん違う味だが、とても美味しい。



「口に合って良かった。」



和咲が自分を気にしてくれてたこと、そして口々に言うもののあたたかい雰囲気に、悠晴は嬉しさを感じていた。

「チャーハン美味かったです。ご馳走さまでした。」


「いーえ。お口に合って良かったわ。」



「大人数で食べることもあんまり無いんで楽しかったです。」


「そう、良かった。またいつでも遊びに来てね!」


「ありがとうございます。失礼します。」



藍に玄関先まで見送ってもらった悠晴は、最初は成り行きだったけど、和咲の家族と会えたし来て良かったと思った。



「もうここでいいから。」



外門まで来たところで悠晴は声をかける。



「そう。木山…、今日はありがと。」



「え?」



「みんな何だかんだ言っても嬉しかったみたいだから。私が友達連れてきたこと。」



「(友達、か…)そっか、それは良かった。じゃまた明日。」


「うん。また明日。」



和咲に友達と言われて一瞬ショックを受けるものの、初めて一緒に帰ることが出来た上に、家にまで誘われたことは、自分にしては凄くいい日になったと思うのだった。

試験返戻に一考する

期末テストから数日後、テストが次々と返されていく。






おや?
また彼らが1教科に付き1人づつ感想を言ってくれるみたいだ。



果たして、彼らの結果はどうなったのだろうか。



覗いてみるとしよう。

《数学》

「後1点で赤点!良かった~!」




《世界史》

「う~ん。やっぱり人の名前とかは難しかったなぁ。カタカナばっかりだもん。」




《英語》

「文法間違えた。やっぱり書くのは苦手。」




《化学》

「化学式はダメダメだけど、元素記号はバッチリだったよ☆」



《美術》

「まっ平均的より上ならまずまずだね。過去を語るより現在の僕が一番芸術的だけどね。」

《地理》

「まさか天気の問題もでるなんてな。助かったぜ。」




《生物》

「勉強出来た経緯が入院生活じゃ満点でも嬉しくないかな。」




《家庭科》

「実技は微妙だったけど、筆記はまぁまぁってとこ。腕が伴わないのよね。」




《体育》

「よし!今回も満点。テストが体育だけだったらなー。」




《国語》

「書き手の心を読み解くのは難しい。」




《パソコン》

「実技のスピードはともかく筆記は完璧。」

「萩野、テストどうだった?」


「まあまあ。でも英語は他のより点数が低かった。」



2人はなでしこ園に行ってから、誘ったり誘われたりで毎日一緒に帰っている。



「英語苦手?」

「文法が特に。日本語と順番違うから迷う。」


「確かに。」

「木山は?」


「俺は結構出来てた。いつもは点が悪い地理で天気の問題が出たからさ。」



悠晴は大分緊張がとれたのか積極的に話し掛け、和咲も返事や相槌だけでなく質問したりして、会話が続く様になっていた。

この日は、今日返ってきた期末テストのことを話していた。



「天気、得意なの?」


「天気というか、天候?俺昔から空見るの好きでさ、星とか雲とか。で、どうして晴れるのかとか気になって調べ始めたのがきっかけ。」



「そうなんだ。私も調べるまではいかなかったけど、病院で景色が変わっていくのを見てた。飽きないからそれこそ一日中。」



「そうそう!ずっと見てられるんだよな。」



テストから空の話になって2人は共通の話題に気付き盛りあがる。

そして、星の話になり…


「萩野はプラネタリウム行ったことある?」


「…無いけど、院内学級で星座の勉強はした。」




「じゃあ、七夕伝説知ってる?ガキの頃本で読んで、それから夏の大三角が特に気に入ってるんだ。織姫と彦星のモデルはベガとアルタイルだし。天の川も綺麗だしさ。」



電気が明るすぎて、肉眼では見辛くなった幻想的な星空。



「あ、そうだ!今年の七夕雨だったし、行ったことないならさ……今度の休みに一緒に行こうぜ?」



今年は見れなかった星空を一緒に見たいと思い、少々早口になりながらも言った。



「……。ごめん、私だけ行くのは気が引けるから。」


「でも、みんな分かって」


「それに休みはチビ達の面倒見るから。」



「……そっか。それなら仕方がないか。」


「うん、ごめん。」



それまでとは違い和咲の口調が強かったので、悠晴はそれ以上は言えなかった。

恬淡寡欲の深意

「あ~後もうちょっとで夏休みだ~☆」


「今年もお祭り行くでしょ?」

「もっちのろん☆」



毎年この時期に夏祭りを開催している栗花落(ツユリ)神社は小さいながらも歴史のある古い神社。


学校の近くにあるので来るのは天桜高校の学生が最も多い。


その為、見回り要員がほぼ天桜高校の教師達で構成される。



今年の開催日は終業式前日と終業式の日、前祭・本祭の2日間ある。



「今年は花火の種類も増えるってポスターに書いてあったし、期待大ね。」



花火は2日目・本祭の一番の見所で、本祭は毎年大体終業式の日に当たるので、学生が特に集中し人数も多く賑わう。



大きい神社や河川敷で開催される凝った花火大会ブームに、運営側も負けてられないと思ったようだ。



「じゃあ今日早速浴衣買いに行く?」


「オッケー☆」



お祭りまでまだ2週間もあるというのに、なんとも気の早いことである。

「なぁ、俺達も行くよな?」



楓達の会話が聞こえたのか陽も行く気満々だ。



「僕は遠慮するよ。陽と一緒に行くと食べ物ばかりで懲りたからね。」


「それが祭りの醍醐味ってもんだろ!好物が纏めて食べられるんだぞ!こんな夢みたいなの、祭り以外ねーだろ!」



規模が小さいので毎年ほぼ同じ露店の種類なのだが、陽は飽きないみたいだ。



「僕はお祭りに来た女の子達と楽しむ予定だから。」



「んだよーつれねーな~。悠晴は行くよな?」



「あー…、俺他の奴と行く予定だから無理。」


「はぁ?!まじかよ~。もうこうなったら全部の露店制覇してやる!!」



頼みの綱の悠晴にも断られた陽は一瞬落ち込むも、能天気の本領発揮とばかりにすぐに露店の制覇に意気込む。

「他って、萩野さん?オッケー貰ったんだ?」


「ま、まだ話してねぇ…」



「この頃一緒に帰ってるよね?言ってないの?」



悠晴は和咲を誘いたいのだが、なかなか言い出せないでいる。



「簡単に言うなよ…。一緒に帰るって言った時だってものすごーぐ勇気いったんだからな。それに、園の皆がどうしてるか分かんねーし。」



悠晴が言い出せない理由はもう一つある。
この間、プラネタリウムに誘った時の和咲の態度が気になるからだ。



自分だけ行くのは気が引ける、と言うわりには女子達とは放課後連れ立って遊びに行っている。


だから、出掛けるのが嫌いな訳ではないようだが、あの口調からは遊びに行くのを拒絶しているように悠晴にはみえたのだ。

「じゃあ、聞いてみれば?お祭りは毎年あるんだし。萩野さんの園は小さい子もいたはずだからお祭りには興味あると思うよ。」



「相変わらずの情報通だな。…でも、とりあえずそうしてみるわ。」



風馬の言葉に、誘う前にあくまで然り気無く聞いてみようと思う。


因みに、風馬の情報源は勿論噂好きの女子達からである。




そして、帰り道を半分ほど来たところで悠晴は実行する。



「な、なあ萩野…」


「なに?」



(然り気無く、然り気無く……)



「栗花落神社のお祭り、萩野はどうしてる?」


…………全く然り気無くなかった。



心の中で唱えていた、然り気無く、というのは和咲を前にした悠晴には無意味だったようだ。

「チビ達が行きたがるから、毎年人が比較的少ない前祭に行ってる。去年までは雷さんか霞さんのどちらかと、りっちゃんと私はお留守番。多分今年はりっちゃんも行くと思うけど。」




「え?萩野は前祭でも行かないの?本祭よりは人少ないのに。」



花火が上がるのは本祭なので、前祭は本祭よりも人は少ない。学生軍団がほぼ居ないのも理由の一つ。



「人混みもそうだけど、露店の煙も駄目だから。風向きによっては集中してきちゃうし。」



「そっか。でも風上とかでも駄目なの?」



神社の境内は、露店も無く風上でもある。



「多分大丈夫だと思うけど、人混み好きじゃないし。それに、色々買って帰ってきてくれるから十分楽しめる。」



「あ、でも花火は?花火なら遠くからでも……」




「小さい頃から見れないものだと言われてるし特に見たいとは思わない。それにチビ達が楽しんでるの見てるだけでいい。」

「……萩野はさ、したいこととかねぇの?祭りに限らず。」



あまりにも欲がなさすぎないか、と悠晴は疑問に思う。





「したいことは今してる。一番したかったことは学校に通うことだったから。院内学級が悪い訳じゃないけど、今学校楽しいしとっても幸せだから。それに校長先生には本当に感謝してる。どの学校も受け入れてくれなかった私を受け入れてくれたから。」




そうやって饒舌に話す和咲は、とても懐かしそうで楽しそうだった。


だけど、悠晴には少し寂しそうにも見えていた。

初志貫徹の行方

一週間後に夏祭り&終業式が迫ってきて、学校内はその話題で持ちきりだった。




授業そっちのけの生徒に教師陣は、テストも終わっているし毎年のことなので放置である。





そして、なでしこ園の面々もお祭りに向けて準備中。




浴衣のサイズのチェックをしているようだ。

「一護兄~俺の帯知らねぇ?」


「知るか。自分で探せよ。つーか俺のベッドまで侵食すんじゃねーよ。」



浴衣は見つかったものの帯が見つからず手当たり次第に探した五楼のせいで、男子部屋の中は散らかり放題である。



「探すよりまず片付けなきゃね。僕も手伝うから。」


「へ~い。」



散らかり具合を見て、探すより元の状態に戻す事が先決だと、様子を見に来た四朗は苦笑いで促した。



一方、女子部屋では七穂の着付けを和咲がしてサイズを確かめていた。



「サイズがピッタリだから、来年は買わなきゃね。まだまだ伸びるから。」



「これ以上伸びなくていいんだけどなぁー。」


「身長があると模様が綺麗に見えるから良いんだよ。」



「そういうもの?」


「そういうもの。」



理由にはなっていない気がする七穂だが、和咲は力強く頷く。

「切り捨てごめん!」

「うわ~や・ら・れ・た~」



着物に似ている浴衣を着たからか、八雲と九雲は侍ごっこを始めてしまう。



「あんた達、なにやってるのよ。大体切り捨てごめん、の使い方間違ってるし。着れるなら買う必要ないから脱ぎなさい。」


「「嫌だ~」」


「あ、こら待ちなさい!」



「きゃーお代官様、お許しを~」
「お許しを~」



「誰がお代官様よ!まるっきり悪役じゃない!」




結局何でも遊びにしてしまう2人に十環来は付き合わされ、大部屋はたちまち鬼ごっこの場所と化す。

「見て見て、小夜姉!似合う?」


「ええ、とっても似合ってるわよ。」



クルリと一回転してはしゃぐ二葉に六香を着付けながら答える。



「うん、りっちゃんもこのサイズで大丈夫ね。」



「あれ?和咲姉は?」



七穂は、先に部屋を出たはずの和咲がいないので尋ねる。



「こっちには来てないけど。2人で部屋に居たんじゃないの?」


「私の終わったからこっち手伝うって言ってたんだけど。」



和咲の行方を小夜に聞くが分からず、トイレにでも行ったんだろうと自己解決。



「ねぇ七穂、藍達呼んできてくれない?浴衣干すから。」


「分かった。」



八雲と九雲のせいで汗だくな十環来の頼みで藍を探しに行く。

その頃、和咲は園長室にいた。



大部屋に向かう途中、話があると藍に呼び止められたのだ。


中に入ると雷と霞もいた。



「話ってなに?」



呼ばれた意味が分からず尋ねる。




「和咲は今幸せ?」


「いきなりなに?」



藍に聞かれるが、ますます意味が分からない。



「悠晴君にね、言われたの。」




事は、一週間前に遡る。


和咲がお祭りの事を話した次の日。

悠晴は、和咲と帰った後、和咲に見つからないように藍に会っていた。

―――萩野は欲が無さすぎると思うんです。



生きているだけでいいとか、学校に通えているだけで十分とか、皆が楽しんでる姿を見ているだけで楽しいとか。



はっきり言って、萩野の事も病気の事もまだよく知らないです。


俺は、両親もいて何不自由なく暮らしていて、施設で暮らしてる人達がどんな暮らししてるかなんて、ここに来て初めて知りました。



でも、生きて学校に通ってるだけでいいなんて、それで幸せなんて…………



俺は違うと思うんです。


そこに、萩野の思いが無いと思うんです。



いつも周りの事気にかけて、自分の事は後回しで。



学校に通うのが夢だって言ってました。



嬉しそうに話てたけど、俺には少し寂しそうにも見えたんです。

花火も見たことないって言ってました。



祭りの会場じゃなくていいんです。せめて、花火の見える場所まで連れて行って欲しいんです。



皆さんがここを離れられないなら俺に行かせてください。


俺毎年行ってますし、露店の場所とか風向きとか分かりますから、萩野が大丈夫な道調べます。



他人の俺が口を挟むことじゃないのは分かってます。


でも、萩野に知って欲しいんです。


萩野が思ってる幸せよりも、もっとたくさんあるってことを。


萩野も楽しんだっていいってことを。



お願いします!


俺から言っても、萩野はきっと遠慮するから。


だから藍さんから言ってくれませんか?



お願いします!!―――

「木山がどうして……」




まさか悠晴が自分に対してそこまで思ってくれているとは和咲は知らなかった。


でも和咲には理由が分からない。



「大切に思ってくれているんじゃないの?それに和咲も。貴女が男の子と帰るなんてこと無かったし。」



藍は悠晴が和咲を好きだってことはすぐに分かった。


しかし、そういうことは本人が言うべきだと思って藍は言葉を濁す。


まぁ、ここまで言われて気付かないのは、自分には縁のないことだと思っている和咲本人ぐらいであるが。



「私達も驚いたのよ。でも嬉しかったわ。貴女は一歩引いている時が多いから。」



「私達もねぇ、悠晴君の話を聞いて思ったんだよ。確かにって。甘えていたかもしれないね、和咲が私達に心配かけないようにしてくれていたから。」



「それは当然だと思っていたから……」



雷と霞に言われるが、和咲にとって心配をかけないようにするのは当たり前のことだった。


倒れれば、その介抱をするのは園か学校の人ということになるのだから。

「最初言われた時ね、和咲のことこれだけ考えてくれているんだと思って嬉しかったの。でもこの間のこともあるしお祭りは…って断ったの。」



だが悠晴は、何度断られても藍に頼み込んでいた。



「でも、それから毎日来てくれてね。どうしてもって。」



そして昨日、藍は一度本人に聞いてみるわ。と承諾し、雷と霞に相談するとやはり本人にということになって今に至る。




「ねぇ和咲。私達は家族なの。血の繋がりが無くても家族なの。言わなくたって皆そう思ってるけど、言わなくちゃ分からないこともある。したいことがあるなら言って欲しい。」



目線を合わせて、途中涙声になりながら藍は言う。



「まず始めにお祭り行こ?花火見よ?あ、でも悠晴君誘ってくれてるんだし、一緒に行ってきたらどう?」




「か、考えてみる……」



たくさんの感情が渦巻いて、和咲はそう言うのが精一杯だった。

落花流水のごとく

次の日の放課後、帰る前に話があるといって和咲は悠晴を呼び出した。



「は、話ってなに?」



昨日藍から聞いてみると言われたので、そのことだと思いながらも一応聞いてみる。



「藍姉になんであんなこと言ったの?」



やっぱり、と悠晴は確信し覚悟を決めて話始める。



「もっと知って欲しかったんだ。学校以外のこと。」



「木山がそこまで気にしてくれる理由が分からないんだけど。」



和咲は怪訝な顔だ。



「ずっと思ってたことなんだ。でも一緒に帰るようになって、話して余計にそう思った。萩野は周りを気にしすぎだって。」


校長との会話を聞いてしまってからずっと引っかかっていたことだった。

「私が何かして倒れでもしたら、この間みたいに皆に迷惑がかかる。私は生きて学校に通えているだけで幸せだから。他に何もいらない、望んじゃいけない。迷惑なんてかけたくない!」



そう言う和咲に悠晴も黙っていられなかった。



「心配はするけど、そんなの迷惑だなんて思わない!俺だって、学校の奴だって、藍さんだって思わない!俺はあの時みたいに笑って欲しいんだ。萩野のこと、ずっと前から好きだから!」




「…………え?」



好き、と言われて固まる和咲。



「去年、学校の側の公園で小学生が転んで怪我したのを手当てしてるところ見たんだ。その時の笑ってる顔が頭から離れなくってさ。」



和咲には思い当たる節があった。たまたま帰りがけに遭遇してしまって放っておけなかったのだ。


悠晴は深呼吸をして和咲を真っ直ぐ見る。



「その時から萩野が好きです。俺と付き合って下さい!」

「……そんなこと急に言われても………」



「だ、だよな。返事すぐじゃなくていいから。」



焦って訂正する悠晴には俯いていて和咲の表情は見えない。


和咲の頭の中には、昨日の藍達の泣きそうな顔が蘇る。



「それに、あんな余計なこと……放っておいてよ、迷惑なの。藍姉達にあんな顔させたくなかったのに……!!」



「え?あ、ちょ…萩野っ!」




自分の気持ちを吐き出す様に和咲は言うと、悠晴の呼ぶ声も無視してその場からいなくなってしまう。


悠晴は和咲の頬に流れる涙を見てしまって、追いかけることが出来なかった。

「はぁ~……」



あれから3日、和咲と悠晴は別々に帰っている。


というより、悠晴が話しかけようにも和咲が意図的に避けている為か挨拶すら出来ていなかった。



「はぁ~……」



「……。あのさ、ずっと我慢してたんだけどその溜め息、そろそろ止めてくれない?僕の幸せまで逃げていきそうだから。」


「え?俺、溜め息なんてついてた?」



「自覚無しかよ!さすがの俺でも限界だぜ。萩野になにしたんだよ?」


「な、なんで分かんだよ。」


「それも自覚無しかよ!」



溜め息もその原因も2人には分かりやすいぐらい見え見えな態度をとっているにも関わらず、悠晴には自覚が無かったらしい。

「萩野さん、あからさまに悠晴のこと避けてるしね。まぁ気付いてないの2人ぐらいだよ。クラスというか、先生達すら知ってるし。」



「はっ?なんで!?」



まさかの知れ渡りぶりに悠晴は驚く。



「だ・か・ら、態度があからさまなんだよ。陽でも気付くぐらいだからね。」



「それ、どーゆー意味だよ!」


「どうどう。僕がお膳立てしてもいいけど、どうする?呼び出すぐらいは出来るけど?」


「え?あぁ………」

「どうしてこうなったかは知らないけど、話しなきゃどうにもならないと思うけど?」



お節介だとは思いつつも、これ以上落ち込まれ続けても困るので風馬は提案する。



「明後日終業式だしさ、このまま夏休みとか辛くね?」



確かに陽の言う通り、このまま夏休みを迎えたくは無かった。


「………。風馬、いいか?」



自分では会うことすら出来ない状況なので、悠晴は風馬に頼むことにした。



「オーケー。じゃあ明日の放課後な。」

一方和咲は、3日経っても自分の気持ちに整理が付かなくて悠晴を避け続けていた。





――俺と一緒に帰って欲しいんだけど



――行ったことないなら一緒に行こうぜ?



――したいこととかねぇの?



――もっと知って欲しかったんだ。




一人の帰り道、思い出すのは悠晴の言葉ばかり。



悠晴と一緒に帰りたいと思ったのは。


心の内を初めて言うことが出来たのは。





――俺はあの時みたいに笑って欲しいんだ。




――萩野が好きです。





悠晴の真剣な顔が離れなかった。

「和咲姉、ちょっといい?」



帰ってきて早々、七穂に大部屋へ連れていかれた。


そこには、雷をはじめとした皆が勢揃いしていて、和咲は何事かと思う。



「どうしたの?」



「和咲、これ。」



座らされたと思ったら、少し大きな包みを渡される。



「なにこれ?」


「開けてみて。」



藍に促されて包みを開ける。



「これ………」



包みの中は、牡丹柄の薄紫色の綺麗な浴衣だった。



「皆からのプレゼントよ。」


「プレゼントって…」



今日は、誕生日でも記念日でもない。



「お祭り、行ってきてよ!悠晴さんに誘われてるんでしょ。」

「七穂、なんで知ってるの?」

「この間、聞いちゃったんだ。それで皆に相談したの。」



藍を探しに行って和咲達の会話を聞いてしまった七穂は、和咲にもお祭りに行って欲しいと思ったのだ。



「行って来いよ!」


「そうだぜ、和咲姉!」



一護と五楼も後押しする。



「「デート、デート!!」」


「でーと?」


「悠晴兄とデート!」



八雲と九雲が言うと、意味が分からない六香は首をかしげ、意味が分かる二葉は嬉しそうに言う。



「確かに。デートしてきなさい。」


「そうよ、いい機会だしね。」


「小夜、十環来……目的変わってるから。でも行っておいで。」



デートを強調する2人に四朗は苦笑する。

「和咲はいつも僕達のことを優先してくれている。それはとても嬉しいことだ。」


「だけどね、私達だって和咲の喜ぶことをしたいのよ。」



雷も霞も笑顔で頷いている。



「みんな………」



あの話が、まさかここまで大きくなっているとは思っていなかった和咲は驚きを隠せない。



「和咲、昨日も言ったけど私達は家族なの。家族の喜ぶことをしたいの。喜ぶ顔が見たいの。」


「藍姉……」

「叶えられるかは別問題だけど、我が儘だって言って欲しい。出来ることなら全力でするわ。今みたいにね。」



この前の泣きそうな顔とは違い、ここに来た時みたいな自分の全てを受け入れてくれる様な優しい笑顔で藍は和咲に言う。



「心配かけないようにしていたのに、逆に心配かけてたみたいだね。」



自分の行動が真逆の結果になっていたことに今更ながら気付く。





「私………お祭り行きたい。浴衣も着てみたい。」



『家族』の顔を見ながら和咲は微笑む。





「ありがとう。」



背伸びした気持ちが初めて
『等身大』になれた気がした。

次の日の放課後、悠晴は和咲に呼び出され驚いた。



風馬と陽は、よかったじゃん、頑張れよ~お邪魔虫は退散――なんて帰っていった。


だけど、これでとりあえず話が出来ると安堵する。




「萩野?」



人気の無いところまで来て立ち止まったと思ったら、和咲は向こうをむいたまま。



「………萩野?」



問いかけても返事がないので、とりあえずもう一度呼んでみる。



「木山、ごめん。」


「へ?えっ?あ、頭あげろよ。いきなりどうしたんだよ。」



突然こちらを向いたと思ったら、頭を下げて謝る和咲に悠晴は焦る。



「この前木山に酷いこと言ったから……」

「あ、あれは俺の方こそ、萩野の気持ち考えずに言ってごめん。」


「ううん、木山は私のこと考えてくれたからだし。ほんとごめん。」



「いや、園までおしかけちゃったし…藍さんにまで…ごめん。」



「「…………。」」



「ふふっ、謝ってばっかり。」

「だな。」



終わりが見えない謝り合戦に思わず笑いがこぼれる。



「浴衣、園の皆にプレゼントしてもらったの。」


「よかったじゃん。やっぱり皆萩野とお祭り行きたかったんだよ。」



「あ…、そうじゃなくて……」



これで和咲にもお祭りを楽しんでもらえる、と喜ぶ悠晴だが、なにか違うらしい。

「皆と、じゃなくって、木山と行っておいでって。ついでに花火も間近で見てこいって。」


「へ?俺と?」



確かに、お祭りも花火も提案したのは自分だし、一緒に行けたら……と一人妄想していた。


だけど、行くことになったら園の皆と行きたいだろうし、今回は諦めようと思っていた悠晴は、なんとも間抜けな顔で返事をする。



「木山が迷惑じゃなかったら、だけど……。木山にも予定あるでしょ、霧谷と藤松とか。いつも一緒にいるし。」



「あ、あいつら(風馬)は他の奴と行くらしいから大丈夫。俺も萩野と行きたい。」



陽も露店を制覇と意気込んでいたから、まぁいいだろうと悠晴は思い込むことにした。



「そう、なら良かった。………あ、あと、返事なんだけど……」

「あ、はいっ!」



自然と背筋が伸びる悠晴。




「私も好きです。こちらこそよろしくお願いします。」



頬を赤く染めながらも、和咲は悠晴の目を真っ直ぐ見て言う。



「………。っしゃ――!!!」



一呼吸置いた後、思わず大声をあげながら悠晴はガッツポーズ。


声の音量が大き過ぎて和咲は固まってしまう。



「あ、悪ぃ………」


「大丈夫、ビックリしただけ。」



そう言う和咲は、あの日公園で見せた顔と同じ。


今は2つに増えた、誰かを想う優しい顔だった。

―――流れる水に

   落ちた花が

   添ってゆく様に



    和咲と悠晴の心も

    寄り添い合った―――

感慨無量の情景

翌日の終業式、悠晴は風馬と陽に昨日のことをしつこく聞かれたあげく冷やかされた。



クラスメイトや先生も、2人が一緒にいることで丸わかりらしく、2人を見るその顔はニヤけている。



和咲は言われて答えるものの、特に気にしていない様子。


なんだか悩みの種が増えた様な気がするが、悠晴も諦めることにした。




そして終業式が終われば、待ちに待った夏休みの始まり。


そう、栗花落神社の本祭でもある。



神社の赤い大きな鳥居の前は、絶えずお祭りに行く学生やカップルが行き交っている。



周りに目立った目印がないので、絶好の待ち合わせスポットなのだ。




悠晴も、もちろんこの鳥居の前で待ち合わせである。


浴衣を着てくる和咲に合わせ、白い帯に、亀甲十字の模様があしらわれた黒色の浴衣を着ている。

だが、鳥居の前を行ったり来たりで落ち着かない。



それもそのはず。
約束した時間は午後7時。

現在の時刻は午後6時30分。


遅れない様にと早めに出たのが、結果早すぎたようだ。



因みに、和咲を迎えに行くという発想が悠晴にはなかった。


今まで行ったメンバーの家の方向がバラバラで、待ち合わせをした方が良かったからである。


だが幸いな事に、悠晴は冷やかされるであろう知り合いにはまだ会っていない。



何故なら、神社の出入口は鳥居以外にもあるからだ。



普段は閉まっているいくつかの門がお祭りの時は開いている。

待ち合わせで人通りが特に多くなる正面の鳥居を避けるのは、地元民ならではの知恵。

「木山!」



20分経って和咲が到着する。



「ごめん、待った?藍姉達張り切っちゃって…早めに来たつもりだったんだけど…」


「いや、全然待って……」



悠晴は和咲の浴衣姿に見惚れていた。



藍達にプレゼントしてもらったであろう浴衣に帯は濃い紫色。

髪を結って、濃い赤色の牡丹の簪をさしている。



「木山?」



文章の途中で言葉を切ったまま黙ってしまった悠晴に、呼び掛けるも応答なし。


仕方がないので呼び掛けながら覗き込む。



「木山!」


「うぉっ!!」



声がしたと思ったら和咲のドアップで思わず仰け反る。



「どうしたの?」



まさか悠晴が自分に見惚れているなんて露も知らず、和咲は心配顔。



「な、何でもない。行こう。」

鳥居をくぐり階段を30ほど登ると、普段は御神籤や絵馬・お守りなどの為の少し横長に開けた場所。

今そこは露店がひしめき合っている。


奥にまた50ほどの階段があり、登ると境内がある。



先程のいくつかある地元民には通用口となっている小道を、悠晴達も歩いていく。



風は上から下に中央の階段を吹き抜けるので、小道には煙もこず絶好の道である。



一旦、人の少ない境内まできて隅っこに持ってきたレジャーシートを敷く。



「とりあえずなんか食おうか?何食いたい?」




夕食系は、焼きそば・たこ焼き


軽食系は、フランクフルト・唐揚げ・焼き鳥・トウモロコシ・イカ焼き・プライドポテト


おやつ系は、チョコバナナ・クレープ・リンゴ飴・ベビーカステラ・たい焼き・綿菓子・かき氷



同じ種類の露店は無いがレパートリーは豊富である。

「たこ焼きとフランクフルトが食べたい。」



「オッケー。買ってくるからちょっと待ってて。」



10分程で悠晴は戻ってきた。


両手には和咲のものとお茶以外に、焼きそばと唐揚げ・イカ焼きにトウモロコシがあった。



「お待たせ。俺が食いたいもの買ってきたから、萩野も食いたいものあったら言って。」


「ありがと。」



どれも出来立てで温かく、家で作った時よりもなんだか美味しいと和咲は食べながら思う。



「あ~美味かった。いつもより食べた気がする。」


「うん。美味しかった。」



結局、和咲は頼んだもの以外も食べたので、ほぼ半分こした状態だった。

悠晴も一人で食べれない量、つまり和咲が食べる前提で買ってきたので丁度良かったのだが。

それから2人は、風向きに注意しながらも腹ごなしとばかりに露店を回る。




金魚は飼えないので、スーパーボールすくいに挑戦。

和咲は器用に20個ほどすくい、お土産が出来たと喜ぶ。



次に射的の露店に行くと、何やら人だかり。しかも女子ばかり。


悠晴は嫌な予感がした。



「あ、霧谷。」


「やあ、萩野さん。それと悠晴。」


「やっぱりお前か、風馬。」



予感は当たり、囲まれていたのは刺子縞の濃い青の浴衣に紺の帯を締めた風馬だった。



「彼女達にせがまれてね。」



見たことがある顔もいれば、見たことがない顔もいる。



「ったく…。手当たり次第は程々にしろよ。」


「忠告ありがと。悠晴も楽しそうで何より。僕はもう終わったから譲るよ。さぁ行こうか、ハニー達!」



10人以上の大所帯で連れ立っていった。

「霧谷って、どこにいてもすぐ見つかりそうだね。」


「あ、あぁ…。女子の人だかり探せば大抵いるからな。」



和咲の着眼点は少しずれているのだった。



「兄ちゃん、1回やっていくかい?」


「あー、萩野なんか欲しいもんある?」



悠晴に言われ、和咲は景品を見る。



「あのクマのぬいぐるみ。」



和咲が指差したのは、手のひらサイズの首には赤いリボンが付いた可愛らしい茶色のテディベア。



「オッケー!」



「ほい、兄ちゃん頑張って!」


店主から、銃と弾のコルク5個を受け取る。


1発目、右に大きく逸れた。


2発目、今度は左に少し逸れた。


3発目、クマに当たるも下過ぎて跳ね返された。


4発目、真ん中に当たり少し後ろに動いた。



最後の5発目、クマの顔に当たり落とした。

「ほいよ。兄ちゃん上手いね~男だね~」


「ありがとう。」



おだてまくる店主に苦笑する。



「はい。」


「ありがと。大事にする。」



ぬいぐるみを見つめながら微笑む和咲。


それを見て(落とせて良かった)と胸を撫で下ろす悠晴。



射的は得意な方で、いつもは2発目ぐらいには落とせている。

だが、和咲がいて緊張していたのか思いのほか弾数がいってしまったのだった。



「あ、萩野さん☆」



喉が渇いたので、かき氷を食べていると楓達に遭遇。



綿菓子を頬張っている楓は、蝶が舞っている緑色の浴衣に黄緑の帯と個性的。


リンゴ飴を食べている桃歌は、濃いピンクに薔薇模様の浴衣に薄いピンクの帯、桜の簪と可愛らしく。


クレープを持っている葵は、芍薬が描かれた水色の浴衣に黄色の帯とクールに。

「くじ引きもうした?」


「ううん。まだしてない。」



「絶対した方がいいわよ。景品結構良いのあったし、ハズレでも露店の割引券50円分くれるから。」



「ありがと。行ってみる。」


「じゃあねー☆」



和咲にだけ話しかけて行ってしまった。



「あいつら、完全に俺のこと無視しやがって…」



怒れる悠晴に、和咲は苦笑い。

目線を悠晴の奥に移すと、見知った顔を見つける。



「木山、あれ…」


「うん?」



和咲が指差す先には、小さいベンチに座り露店の全てであろう食べ物に囲まれている陽がいた。


今はたい焼きを食べている真っ最中。


特撮のお面を頭に被っているものの、服装はTシャツに半パンと普段着。


普段着なのは、浴衣だと帯を締めるのでたくさん食べれないから。


因みに去年も同じ理由で普段着だった。

周りを通る人達は、子供みたいに食べまくる陽のことを見てクスクス笑っている。



「み、見なかったことにしよう。くじ引きだっけ?行こっか。」



陽の知り合いと思われたく無かったので、見つからない様に移動する。



くじ引きの露店に来た2人は、なるほど、葵が言うだけあって景品は豪華だった。


お馴染みのゲームにアクセサリー・人形などのオモチャ

更には、温泉旅行・家電製品・ブランドの小物まであった。



「まるで、商店街の福引きだな。」


「そうだね。豪華といえば豪華の部類…かな?」



景品の豪華さが大人向けで、子供より大人が喜びそうである。

まぁ豪華さはともかく、ハズレでも割引券ということなので2人は引いてみた。

「「あ……。」」



和咲は青い石の入った金の指輪

悠晴は赤い石の入った銀の指輪



「お兄ちゃん達仲が良いね~いっちょ指輪交換といくか?」


「い、いえ!大丈夫です!」



大声で冷やかす店主の目から逃れる様に、悠晴は和咲の手を引いて小道に逃げ込んだ。



「あんなに大声出さなくったって聞こえるつーの。」


第一指輪交換ってなんだよ…結婚式じゃねぇんだよ、と悠晴は小声でぶつくさ言っている。



「(指輪交換……)」


その間和咲は何やら思案中。



「あ、悪ぃ……手、引っ張っちまった……」



トリップした頭が戻ってくると、いまだに手を握りっぱなしな事に気付く。



「別に大丈夫。…ねぇ木山」

「うん?」



「交換、しない?」

「え?こ、交換って指輪?」


「うん。ダメ?」



本物はまだ出来ないから予行演習…、とさっきから和咲は考えていた。


「ダ、ダメじゃない!」


まさか和咲の方から言うとは悠晴は思わなかった。

しかも、頭を軽く横に傾けて言うものだから、悠晴に断るなんて選択肢などなかった。



「はい。」


悠晴は、和咲から指輪を受けとり指にはめる。
もちろん左手の薬指に。


指輪を眺めていると、付き合っているんだと実感が湧いてくる。


ちらりと和咲を見ると、悠晴と同じく左手の薬指にはめた指輪を見つめている。

その横顔はとても嬉しそうに笑っていた。

露店を回り終えて再び境内に戻ってきた。


後10分、つまり午後9時から花火が始まるからだ。


さっきレジャーシートを敷いた反対側の境内の奥には、救護所を兼ねた案内所のテントがある。


忙しく動き回るスタッフの中に見知った顔をまた見つけた。



「雨島に蓮見先生発見!」


「だから先生を付けろと言ってるだろうが!って何で蓮見先生には付けるんだ…!」



今年の見回り要員(本部担当)は雨島となずなだった。



「木山くんに萩野さん。2人とも浴衣とっても似合ってるよ!」


「ありがとうございます。」

「なんだお前ら、下で見ないのか?」



神社は横から見ると雷のマークの様に段々になっている。


花火を打ち上げる場所は、鳥居の真向かいの方向にある池。

露店が並ぶ所の高さが一番見やすいし真正面に見える。



一方、境内は上に行き過ぎて見えなくはないが、見やすくもない。


境内よりは、鳥居と少し被るが露店より下にいった方がいい。

なので花火の時間帯、境内は特に人が少ない。



「ここでいいんだよ。」



和咲をちら見して言う悠晴に、雨島となずなは合点がいく。


人もそれほどおらず露店の煙もない、だけど花火は見れる。


和咲のことを考えた悠晴のベストポジションである。

「雨島先生、蓮見先生!ちょっと来てくださーい!!」


「おっと、戻らなきゃな。じゃ存分に楽しめよ、お二人さん。」


「花火楽しんでね。」



スタッフに呼ばれて2人はテントに戻っていく。



「上手くいってるみたいですね。」


「ったく…オモチャとはいえ、指輪なんてまだ早ぇんだよ。」



何だかんだ言いながらも、生徒のことは何でも気になる2人であった。



『ただ今より花火の打ち上げを開始いたします。夜空に咲く色とりどりの花をご堪能ください。』



時計の針が9を指し、アナウンスが流れる。

ピュゥゥゥ――――――………











ド――――――――――ン





ヒュ――― ヒュ―――




ドン


ドン




ヒュ――――――






ド―――――――ン

次々と花火が打ち上がる。


種類はお馴染みの仕掛け花火の他に、星やハート・ニコニコマークの変わり種まで様々だ。


夜空に咲く度に、下からは歓声が聞こえる。



「毎年見てるけど、今年のは特にすごい…」


隣の和咲に話しかけようとして悠晴は口をつぐむ。



初めて見る花火に和咲は釘付け。

横を向いていても分かるほどにその顔は輝き楽しそうだ。


心の中を映したかの様に指輪も煌めいている。



それを悠晴は目を細め思う。



―――良かった、と。


この空間に、和咲が居て。
この景色を、和咲と見れて。


そして何より、和咲の隣に居ることが出来て。



一度だけゆっくりと瞬きをして、光景を焼き付けた。

そして目線を戻し、悠晴も花火を楽しんだ。

天衣無縫の想い

メインの花火が終わると本祭もいよいよ終盤。

ほとんどの祭り客が帰ってゆき、露店も店じまいとばかりに値下げやおまけを始める。



小道を通って帰路につく悠晴と和咲は、途中休憩を兼ねて公園へ寄る。


ベンチに座り、帰り際に露店で買ったベビーカステラを2人で食べる。



「今日はありがと。色んなものが見れたし出来た。それにとっても楽しかった。」


「良かった。俺も楽しかった。」



そう笑顔で言う和咲に、悠晴も笑顔になる。



「ここで私を見たんだよね。」



公園を見つめる和咲。

そうここは、悠晴が和咲に一目惚れしたきっかけの公園だ。

「あーうん。あの時はこうなるなんて思ってなかったけど。」

「私も。」



今までの出来事を思い出して2人は笑う。



話しかけることさえ難しかった悠晴。

他人と距離を置いていた和咲。


交わりそうで交わらなかった2人を結びつけたのは、お節介と温かさを兼ね備えた周りの人達だ。



「高校に行けるって分かった時とっても嬉しかった。だから、それだけで良いと思ってた。」



空を見上げ独り言の様に和咲は話始める。

声のトーンから口を挟まない方がいいかと思い、悠晴は黙って聞くことにした。

「高校生活以上のことを、これ以上のことを望んだらいけない。だって生きてることは幸せなこと。私にとっては特に。」



些細な事でも、大掛かりな準備が必要になってしまう。

そんな迷惑をかけるぐらいなら。
苦労をさせるぐらいなら。


特別なことなんてなくていい。今のままでいいと。



「でも違ってた。それは生きてるんじゃなくて生かされてる、周りに支えられてただ生かされてるだけなんだって。」



思い込もうとしていた幸せは、本来の意味から外れたものになっていた。

「そんな簡単なことさえ分からなかった。分からなくなってた。」



生きているから、
学校に通っているから、
だから幸せ、じゃない。


そんな単純じゃない。
でも、きっと難しくもないはず。



だって和咲と悠晴の答えが違ったように、答えは1つじゃない。


いや、むしろ明確な答えなんて無いだろう。



目で見ることが出来ない感情の領域。


本人が幸せだと感じれば、それが幸せになるのだから。

「でも、気付けた。藍姉達にも本音言えた。木山のおかげだよ。ありがと。」


「萩野…」



そう言って悠晴を見る和咲は、肩の荷が下りたような表情だ。



「俺はただ知って欲しかったから。だけど、そう思ってくれてるならすっげぇ嬉しい。」



好きな子の為に何か出来たことが。



「それでね、前に言ってたプラネタリウム…行ってみたい。」


「え?」


「星、ベガとアルタイルを見たいなって。木山と見たいなって。」



一回断っといてあれだけど…、と和咲は言う。

「いや全然。大丈夫だから!行こ!」



遠慮がちに言われた言葉は、とても嬉しいもので間髪を入れず答える。



「良かった。」


悠晴の言葉に和咲はホッとしたように微笑む。



「夏休みだしさ、これから色んなとこ行こうぜ。」



海に、山に、行きたいところはたくさんある。



「うん!行きたい。」


2人で。


慣れたら家族と友達とも行ってみたい。


まずはプラネタリウムで、それから…なんて次から次へとやりたいことや行きたいところがあふれ出てくる。



そんな遠くない未来の話をする2人の顔は、とても生き生きとしていたのだった。

千紫万紅に染まる

―――千紫万紅(センシバンコウ)



それは、色とりどりの花が咲き乱れること





イエローは喜び?
レッドは怒り?

ブルーは哀しみ?
グリーンは楽しさ?

ブラックは苦しみ?





君と出逢い、これまでの過去が、色鮮やかに彩られてゆく。


これから先の未来は、何色に染まるのだろうか?



君と2人、大切な人達と共に
様々な景色を見てゆこう―――

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