ちゃんと前を見て運転して!と言いたいけど、黙った。

はなさなきゃいけないと解ってても、繋がれた手は放したくない。

瞼を伏せると、惜しげもなく輝いているダイヤの指輪がそこにあった。

もっとこの指輪に相応しい人がいるはずなのに……。

そう心の中で呟く。

色んな矛盾を抱えたまま、車は進んだ。




颯ちゃんは、篠田のお祖父さんが経営する篠田建設株式会社で営業部長をしている。

篠田の小父さんは会社を継ぐ気がないらしく、違う会社に就職しちゃったもんだから、将来的には颯ちゃんが会社を背負って立つんだろうな。

篠田建設といえばなかなかの大手だし、この若さで部長は凄いと思うんだけど、そうちゃん曰く「じいさんが社長だからね、身内に甘いんだよ」と飄々としているんだよね。

でも、それなりに実力が伴わないと仕事って任せてもらえないものだと思うのよ。

お母さん情報だけど、颯ちゃんが着任してから難航していた商談が次々と成立したとか言ってたし。

しかも、颯ちゃんはこの美貌で社内外の女性から人気がある。

時々、会社の宣伝になるからって、ビジネス雑誌のインタビューを受けてるらしく、颯ちゃんが特集された雑誌は完売したとかしないとか。

噂だからよく解らない。

ちなみに、颯ちゃんが載った雑誌は、お母さんが何処からか入手してくるので、探し回ってやっと……て言う話を聞いても、私にはピンとこないんだよね。

世の中の女の子が騒ぐように、私にとっても颯ちゃんは今も昔も変わらず王子様で、初恋の人だ。

男性なのに、くっきり二重に長い睫毛。

高い鼻梁にキュッと引き締まった唇。

モデルのように均整のとれた肢体と長い手足。

ほどよく筋力のついた身体。

骨ばった大きな手。

色素の薄い茶色の瞳は、微笑まれると柔和が強調されて、颯ちゃんの柔軟な性格を強調しているようだ。

瞳と同色の髪は、サラサラしていて、無意識に触れてみたい衝動にかられる。

顔は昔と変わらず優顔なつくりで甘さ漂う雰囲気だけど。

チャラい感じはなく、年齢を重ねた分だけきちんと精悍な大人の男性だ。

そんな誰もが憧れる王子様の隣に、こんな地味子な私が居るのは、とても恥ずかしい。