「あ、ありがとう……ございま、す……」
日本人らしい真っ黒で艶かな髪と切れ長の瞳が優しく弧を描く。
何て言うか……優美、という言葉かしっくりくるな。
同性でも、見惚れてしまう。
背も高くて、細くて……ボン、キュッ、ボン、とメリハリのあるグラマラスボディ。
こんな人が颯ちゃんの婚約者だったら……。
私は黙って俯いた。
部長夫妻は院長夫妻と何処かに行ってしまい、水戸さんも病院関係者らしい数名と、歓談を始めた。
最初はどこの誰がきているとか話してたかと思うと、いつの間にか医療の話へ移行していた。
ここからは水戸さんのお仕事、か。
中には、水戸さんのお目当てのドクターも居たらしく、当初の目的通りさり気なく自社製品のアピールをしている。
私は邪魔にならないよう一歩引いて傍にいた。
会場内を見回すと、誰かと視線があい、背筋に冷たいものが走る。
それから逃げるように、さっきいただいた赤ワインを一口含んだ。
うぅ……。
よくTV番組で酸味が、とか、まろやかな、とか言ってるのを見かけるけど、さっぱり解らないわ。
アルコールが苦手な私には、舌の上にのる液体から、それらを分析するのは不可能だった。
ワイン好きな方には悪いけど、人其々相応しい味があるんだろうな。
それでも、気を紛らわすように、ちびちび口をつける。
意識を他に向けないと、怖い……。
水戸さん達の会話に耳を傾けても、自分が働いてる会社の事なのに、薬とか医療器具とか専門用語もよく解らず、疑問符ばかりが並ぶ。
水戸さんが話す内容は、チンプンカンプン。
情けなくて、溜め息がこぼれた。
さっきと視線があった場所の逆の方を見ると、近くの男性と瞳があった。
わっ。
内心、激しく動揺したものの、露見させずにすぐに睫毛の先を他に移す。
だけど、また違う人と視線がぶつかり、もう俯くしかなかった。
私、ちょっと自意識過剰になってるのかな。
会場入りしてから、纏わりつくようにひしひし感じる視線。
最初は、勘違いだと思ってたけど、こうやって視線を感じる方に瞳を流すと、必ず誰かと瞳があう。
いくら特殊メイクをしても、誰かに見られてると思うと恐怖心が先に立つ。