水戸さんは否定も肯定もせず、私を恋人だと認識する2人に曖昧な謝罪だけ。

雰囲気的に、ここで異を唱えてはいけない空気に私も「……いいえ」と曖昧に笑った。


「しかし、本当に綺麗なお嬢さんだ」

「まさに美男美女のカップルね。ご結婚とか考えてるの?」

「いえ、まだそこまでは」

「あら。ちゃんと捕まえておかないと、誰かに横槍入れられちゃうわよ。ほほほ」


結婚以前に付き合ってもないのですが……。

水戸さん、完全に恋人確定されるけど大丈夫ですか?

私は既に頬が痙攣を起こしてます。

さて、そろそろ会場に移動しようか、と部長が言ってくれたお陰で話は収拾し、ほっと息を吐く。

部長夫妻の後を追うように付き従い、移動を開始した。

ホテル内は広くて、同じような壁と扉で何処が何処なのか、私1人では道に迷ってしまいそうだわ。

天井の照明が、天井と壁の白いキャンバスに光の陰影をつけ、まばゆ過ぎない上品な光が幻想的な演出をしている。

ベージュの床に赤い豪奢な絨毯が流され、まるでお城のようだ。

壁に掛けられた絵画や、所々にあしらわれた花は実に華やかで豪奢なものだ。

気後れしながら、彼方此方に意識を取られ、慣れないヒールで覚束無い足取りも相まって、前を行く2人と少し距離ができてしまった。

うぅ……既に足手まとい。

自分に呆れていると、水戸さんが囁くように言った。


「黒川連れてきて正解。実は、部長の奥さんがやってる料理教室の生徒を何人か紹介されて、困ってたんだ」


今回パーティに、女性を連れて行けば諦めてくれるとふんで、私を誘ったらしい。

同僚の女子社員を誘うと、部長の瞳があるし。

かと言って他の課のコを誘って勘違いされても困るから、とか。


「一応、私も社内の人間なんですけど……」


あ、そこは特殊メイクで架空の人物になるからいいのか。

納得して言葉を飲み込むと、水戸さんが続けた。


「……黒川はいいんだ」


ホテル内は暖かく、その熱気の所為か水戸さんが目元をほんのり赤らんでいる。

言葉の意味が把握できてないけど、ハンカチを借りた恩もあるし。