私が颯ちゃんによく懐いていた所為かな?
颯ちゃんもとても可愛がってくれて、学校帰りに保育園まで迎えに来てくれて、一緒に帰って篠田家で過ごす。
ご飯を食べるのを手伝ってくれたもの、お風呂に入れてくれたのも、寝る時もいつも颯ちゃんが隣に居た。
お姫様に憧れる私を自分の膝の上に抱き、大好きなシンデレラや白雪姫の絵本を読んでもらっては、うっとりする私を「俺のお姫様」と呼んで可愛がってくれていた。
悪さをして親に叱られ、颯ちゃんの部屋に逃げ込んだ時には、泣きじゃくる私が落ち着くまで背中を撫でてくれたし。
添い寝をしてくれる颯ちゃんの体温は、あたたかくて私を酷く安心させてくれた。
当時の私にとって、兄であり、父のような存在。
それはきっと、颯ちゃんも一緒で、私は妹であり、娘のような存在だったに違いない。
何もかもが許されて、颯ちゃんの愛情に包まれていた幼少期。
篠田の小父さんも小母さんも、子供が2人とも男子だった所為か、女の私のワガママを寛大に受け止め、息子に依存する私を、自分の娘のように可愛がってくれてた。
なんでも許された幼少期。
それも、小学校にあがってから、私を取り巻く環境は急激に変化した。
小学校生活は、暗黒歴史でしかない。
始まりは、ほんの些細な事だった。
入学式。
隣の席の男の子が、顔を合わせるなり「ブス」と言ってきたのだ。
それから、名前の代わりに「ブス」と呼ばれ。
瞳が合えば「ブスがコッチみてんじゃねーよ」と、何かにつけてブスと連呼された。
それが少しずつ過激になっていき、言葉から始まった虐めは、実体化していった。
お気に入りの猫の消しゴムをとられたり、ノートに落書きされたり。
学校帰りに泥団子を投げつけられるようになって、私の心は限界を迎えた。
自分がブスだからこんな目にあうんだと思ったら、鏡で顔を見るのが怖くなった。
だから。
前髪を伸ばしたり、眼鏡かけて、人目を避けるようになった。
嫌な記憶を洗い流すように、冷水で洗顔すると寝ぼけ眼がシャキッとする。
なんとなく引き締まった感の顔に手早くスキンケアをして、簡単にメイクを施す。