心地良い圧迫感……。
昔からそうだった。
虐められて帰ると、颯ちゃんがこうやって抱きしめて慰めてくれた。
こうして、私を安堵させてくれる。
……でも、ダメ。
颯ちゃんのネームバリューを考慮すると、人が見てるところで抱き合うなんて。
いつの間にか、頭の中は冷静さを取り戻して震えの消えた手で、その手でそっと胸を押して少し距離をとると、心配そうな顔で片眉を下げられた。
「弟が大変失礼な事を……申し訳ありません」
「す、すみません、でした……」
神妙に謝罪をする河原さんにつられて、光もたどたどしく頭を下げた。
「梨々子、弟が本当にごめんなさい。過去に2人の間に何があったか解らないけど、光が悪さをしたのだけはよく解ったわ。後で家でよく言い聞かせるし、お説教しておくから、どうか気を病まないで」
そう言い残して、去りゆく2人の後ろ姿を見送る。
颯ちゃんは、私の手を取ると、さっさとその場を離れた。
駐車場に着いて、やっと身体から力が抜けた。
駐車場の敷地は人気がなく、遠くから喧騒が聞こえるだけで、ほっとした。
それにしても、河原さんと富樫光が義姉弟だったなんて、すごく吃驚した。
一生会いたくないと思っていた光と、またこうして顔を合わせる日が来るなんて、夢にも思ってもみなかった。
光に虐げられ日々がトラウマで、人前で顔をさらすと震えがとまらなくなったり眩暈がしたり苦しくなったりして倒れそうになるのに。
今日は颯ちゃんが居たおかげで大事に至らずに済んだ。
颯ちゃんは、いつでも私を助け支えてくれる。
颯ちゃんが居れば大丈夫だって思える。
何があっても怖くない。
車の手前。
繋いだ手を放すのが惜しくて、力をこめた、その時―――。
「梨々子!」
後方から、私を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、光が息を切らして走り向かってくる姿を捉える。
厭わしい気分になりながら対面すると、瞳を眇めた颯ちゃんが私を庇うように一歩前に歩み出た。
「俺……、小学校卒業してから、ずっと梨々子に言わなきゃって思ってて……。たぶん、今言わないと、もう、一生言えないかもしれなくて……。それで……」