色々打算があっただろうが、此方としては与り知らぬところ。
ただ、甘い蜜を求め、先が見えてる泥船にのった企業の行く末は自己責任でしかない。
少なくとも、篠田商事に質疑を求めてくれれば、子会社含め全社で宮川コーポレーションとの繋がりは否定していたのに、と。
そんな最中でも、宮川社長からのラブコールはとまらなかったという。
辟易していたものの、これが最後と宮川社長に苦言すべく、1度だけ会った。
でも今度はそれを結婚の挨拶とされ、奇しくも、雑誌の発売が重なり香織さんの勘違いを増長させる事になった。
「雑誌で相手の親御さんに挨拶した話は嘘じゃないんだ」
颯ちゃんが私に言った。
「実は梨々子が誕生日をむかえる前、颯吾君が私の転勤先まで訪ねてきてね。梨々子にプロポーズしますって宣言されたんだよ」
お父さんの補足に、私だけでなく、初耳らしいお母さんも大いに驚いた。
「その時に、颯吾君から今のように自分の状況と、梨々子への気持ちに決して不実はないと説明された。母さんに黙っておこうと言ったのは私だ。母さんお喋りだからね。何処かでうっかり喋って、宮川コーポレーションの耳に入って梨々子の身に危険が迫ったら大変だと思って、今まで黙ってたんだ。宮川の娘には、昔から性質の悪い男との付き合いも噂されていたし。もしものことがあったらと、可愛い我が子を危険から回避させたい想いは、解ってもらえるね?」
お父さんに諭され、お母さんはエプロンで顔を覆い嗚咽を零した。
初めて知るお父さんの想いに、私はただ放置されていただけではないと知った。
唇を噛みしめ、込み上げてくる熱い想いを堪える。
それから、私の頬に腫れについて話は移行した。
「梨々子さんには、エンゲージリングを贈り結婚前提の付き合い始めました」
私が颯ちゃんを変装して(したつもりで)騙したのは省かれた。
付き合っていく中で、香織さんが私の存在に気づき、私を脅した事で私達は距離をおく事になった。
「でも俺は別れる気なんかさらさらなかった」と颯ちゃんが付け加えて、私に念を押す。
その離れてる期間は母さんも知っての通り。
暫く距離を置いた私達は、1度会って(池田の小父さんの送別会の夜の事だね)、お互いの気持ちを確かめ合った。