それでも一応、初診用の問診票に必要部分に記入する。

名前、住所、電話番号。

生理周期や服用薬、病気、治療歴等。

えっと、まずは、最終月経終了日は、と。

………。

あれ?

すぐに思い出せず、記憶を辿るけど、思い出せない。

ペンを持つ手が震えた。

問診票をのぞきこむ河原さんと瞳があった。

その瞳はまるで何か確信しているようで、私は瞠目して固唾を飲んだ。

だから、レディースクリニックに……?

足元から崩れ落ちるような錯覚に陥る。

膝に乗せた肘で頭を支え、項垂れた。

そんな……まさか……。

えっちの時、颯ちゃんは避妊してくれてた……と思う。

走馬灯のように回想しても、私、全く視認してなかった……。

河原さんが問診票を受付に提出してくれると、間もなく名前を呼ばれた。

看護師さんが開けて待つ白い扉の先は、悪魔が誘う地獄のように思えて、足枷を着けられた囚人のように足取りは重かった。



やっと解放されて、手の中にエコー写真を携え、河原さんのもとへ戻り、隣に座る。

白黒のエコー写真。

小さく小さく、ポツンとうつる丸。

今、私のお腹に芽生えたばかりの命が、ここにある。


「おめでとう、で……いいのかしら?」


涙が溢れてきて、手で顔を覆い隠した。

どうしよう……私。

嬉しいのに、怖い……。

私のお腹に、颯ちゃんとの赤ちゃんがいる。

ただ……。

颯ちゃんと関係を持ったのはりこで、だけど、りこは私で、その私の中に赤ちゃんがいて、颯ちゃんには香織さんっていう婚約者がいる。

私がりこだと名乗る事も、赤ちゃんが出来たと伝える事も出来ないけど。

出来心でついた嘘は、私の心に大きく闇を落とした。

お父さんとお母さんに、なんて言おう。

颯ちゃんを避け、妊娠を隠し続けたとしても、これから大きくなるお腹は、私の身に何が起きているか体現している。

隠し通すのも、そんなに猶予は残されていないだろう。

颯ちゃんに内緒で産んだとして、その子供が私に似ればいいけど、もし、颯ちゃんに似てしまったら……。

やっぱり、お父さんとお母さん……気づくかな。