「ええ~っと……つまり?黒川さんをAとして、メイクやら変装をした黒川さんをBとして。彼は、AとBを同一人物とは知らず、全くの別人だと思ってると」
「そ、そうです!」
「しかも、婚約してる彼女が居るにもかかわらず、Bと付き合ったと?」
こんな拙い説明でよくぞ理解してくれました!
パーフェクトです!と、パチパチ拍手を送る。
「そうです!なので、私の方が性質が悪いので……」
「あのねぇ、ちょっかい出したアンタも悪いけど、本命いて他の女に手を出す方が、もっと悪いわー!!」
私の話の途中「ダンッ!」とテーブルにグラスを叩きつけた、壊れない程度に……。
「でも、私の方が卑怯です。好きだから離れられなくて、でもAだと気づかれたくなくて隠してました」
「黒川さん、婚約者に調べられたのよね?AとBについて知ってるの?」
「はい」
「もうーっ!その男ここに連れてきなさい!私が代わりに殴ってやるから!」
その一言に、鼻がツンとして視界が歪んだ。
まさかそんな事を言って貰えると思わなかった。
颯ちゃんの事、ずっと誰にも話せなくて自責念にかられて苦しかった。
間違った2人の関係でも、誰かに聞いてもらえて、心が軽くなる。
ボロボロに涙を流す私に、河原さんがハンカチを差し出してくれた。
「やだ~、河原さんが優しい~」
「うるさい!」
ハンカチで目元を覆い、つい本音を言ってしまったらテンポよく言い返されてしまった。
見た目は儚げで花のように可愛い雰囲気なのに。
普段のぶりっ子も憎めず可愛らしいと思ってたけど、こうして本心をぶつけあえるのも中々楽しい。
毒舌な所もあるけど、嫌味を言われても今はもう全然不快じゃない。
泣きながら笑うと「気持ち悪い!」と怒られて、それが更に笑いを誘った。
泣き笑い過ぎて疲れ、息を整える私に、また質問が飛んでくる。
「ずっと気になってたんだけど、それは?彼から貰ったの?」
右手に光る指輪を指した。
「はい、誕生日プレゼントに」
「Bに?」
「Aにです」
AとBに例える解りやすく、まだ続いていたのかと、また笑った。