自分が香織さんの立場なら、たとえ一時でも他の人なんかに渡したくないし、触れられたくもない。
それなのに颯ちゃんが好きで、自身を満たす為に何度もりこになって会いに行った。
どんな言い訳をしたって、相手の居る人に愛を私は望み、求めた。
颯ちゃんも、りこがリリーだと知ってたら手も出してくれなかったはずだ。
私は欺き続け、関係を持ち続けた……。
香織さんもキツイ事は言ったけど(言われても仕方ないけど)、昼ドラのように取り乱して殴る等の行為はなく、ただ私から身を引くように促しただけだった。
本当は腸煮えくり返るような思いに違いないのに。
憎くてしかたないはずなのに。
私に償いが出来るとしたら、もう2度と会わないという事。
近づくのもダメ。
ただ颯ちゃんの幸せを祈って、他人になろう。
それが、香織さんへの私の誠意。
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食欲はないけど、お母さんが心配するから形だけでも朝食を摂ろうとテーブルについた。
野菜スープをスプーンですくいながら、珍しくテーブルの隅に雑誌が瞳に入った。
手持無沙汰から、なんとなくそれを手繰り寄せてみると、それは香織さんが最後に私に投げつけたビジネス雑誌だった。
急に胃から込み上げてくるものを感じて、ムカムカする。
少しでも養分を、と今朝お母さんが絞ってくれたオレンジジュースを一気に流し込む。
「部屋にないから、てっきり捨てたもんだと思っていた」
私のお母さんは元々キャリアウーマンだった。
残業、出張は当たり前。
引っ越ししてくる前は、私はお祖母ちゃんに預けられていたし、こっちに越してきてから少しの間はシッターさんのお世話になった。
雑誌には読んでいたような形跡があり、お母さんは興味ないだろうと思っていたけど、元キャリアウーマンだけあって何か惹かれるものがあったのかもしれない。
職を離れても、やっぱり気になるのかな。
洗濯機を回すお母さんの音を遠くに聞きながら、適当にパラパラ捲ってみる。
すると、ちょうど付箋されたページに手が止まり、とても見覚えがある人の姿が飛び込んできた。