自分が美人だって自覚とかあんのかな。
今は寝れないことにばっか意識持ってかれて、
それどころじゃないのか。
「宮は、お祭りで何が一番好き?」
「え?あぁ、花火かな…。」
「へぇ、意外。
焼きそばとか言うと思った。」
「焼きそばなんていつでも食えんじゃん。」
「私はりんご飴。」
そう言って、りんご飴を見つけると、
円は二本買ってきた。
「はい。給料。」
「え、俺に?」
「うん。」
円は当たり前とでも言いたげに
俺にりんご飴を渡すと、自分の飴を舐めた。
いつの間にか、クラスの連中はどこかに消えていた。
「みんなどこだろ…。
結にLINEしてみよっかな…。」
「いいよ、来い。」
正直夏祭りにみんなで一緒に行くとか、
面倒になってきたところだった。
俺は円の手を引き、神社の本殿の方へ連れてきた。
側の石垣に座って、もらったりんご飴を舐める。
まぁ悪くない味だな。
「合流しないの?」
「いいんだよ。
めんどくさいし、今日はもう爽やか演じるの疲れた。」
「ふーん…」
円は気にしない様子で飴をなめている。
「お前、その後どうよ。寝れてんの?」
「ん?んー、今んとこは夜少し寝れてる。
まぁまだ夏休み始まって3日だし、
今後不安ではあるけどね。」
「会ってほしいとか言わねぇんだな。」
「さすがに夏休みまで迷惑かけられないよ。
前みたいに悪化したら頼むかもしれないけどね。」
「あっそ」
終業式まで、夏休みにも会ってほしいと泣きつかれると思っていたけど、そんなことはなかった。
今も平気そうに不要だと言い切ってくる。
それになぜかイラッとした。
『間もなく7時から花火が夜空に打ち上がります。
押し合わず、もう5分ほどお待ちください。』
祭り会場に花火打ち上げのアナウンスが流れ、
本堂のそばにも人が集まってきた。
「おい、円。
もっとこっち来い。」
「うん。」
円は大人しく俺のそばに寄り、座り直した。
周囲はかなり賑わっている。
花火をメインで楽しめるのは河川敷の方だけど、
本堂の方からも見られることで地元の人には人気だった。
「なんか…眠くなってきた…。」
「へ?」
静かになってきたと思ったら、
こいつ眠たくなってたのかよ。
「宮、いい匂い…。」
いつもより長いまつげが重そうに下がっていく。
「せっかくの花火…
宮と…」
「いいよ。寝ろよ。」
俺が円の頭を掴んで肩に押し付けると、
円は何かモゴモゴ言ってすぐに静かになった。
その直後、でかい音を立てて空に花火が打ち上がった。
肩の円は相変わらず規則正しく寝息を立てている。
こんなにでかい音の中も寝てるなんて珍しいな。
いつもより距離が近いからか?
きれいな花火が何十個も打ち上がる。
雑踏の中、それを一人で見上げるのは初めてだった。
「静かに見てんのも悪くないな。」
円の前髪をかき分け、その表情を覗く。
安心したようにスヤスヤと眠り続けていた。
今のうちにいっぱい寝とけ。
夏休みは長いんだから。
見上げた夜空に咲く花火は俺たちの前でだけ、
静かに、穏やかに散っていくようだった。
花火大会の帰り道、
宮に射的の景品をもらった。
寝ぼけ眼で手に取ったそれは
宮のプレゼントとは思えない
かわいいハートのイヤリングだった。
手が滑った、とか言っていたけれど、
それを他の女の子ではなく私にくれたことが
なぜか無性に嬉しくて、
私は上機嫌で夏休みのスタートを切った。
そのお陰か、夏休みが始まって1ヶ月、
今のところ順調に眠れている。
と言っても、明け方2,3時間眠る程度だけど。
人と関わることが減る長い休みにこれくらい眠れてれば、私にとっては上々だ。
前は夜のひとりぼっちの感じがたまらなく嫌だったけれど、
今は宮からもらったイヤリングを見ていると
なんだか安心する。
そんな夏休みの後半。
今日は学校の登校日だ。
「おはよう、円。」
「結、おはよ。」
登校一番、結が話しかけてきてくれた。
結とは夏休み中もちょくちょく会っていたので、
緊張することもない。
「結局お祭り以来宮くんとは…」
「会うわけないでしょ。」
「えー…」
結は相変わらずことあるごとに宮と私をくっつけようとする。
無駄だって言っても、全然聞く耳持たない。
夏祭りのあとも二人でフェードアウトしたって、
ラインで散々いじられた。
結が膨れっ面を元に戻して私に尋ねる。
「今日何するのかな。」
「んー、安否確認とかじゃない?」
「このあと遊ぼうよ!」
「うん…。」
そのとき、教室の後ろ扉から宮が爽やかに登場した。
すると、すぐに周りに人が集まる。
やっぱりすごい人気だな…。
宮、久しぶりに見た。
相変わらず演技も健在だし、元気そう。
宮のすぐ近くに夏祭りで仲良くしていた女の子がいた。
ズキッ…
「??」
「円?どうした?」
「いや…」
そのとき、教室の前扉も勢いよく開き、
先生が「HR始めるぞ~」と言いながら入室してきた。
「今日はみんなの安否確認と、
せっかくだし休み明けにある修学旅行の準備な。」
その言葉に、クラス中がザワザワとし始めた。
「男女6人で適当にグループ決めて、
黒板に書いておいてくれ。
あとは実行委員に任せる。」
先生はそう言うと、教室の隅に引っ込んでしまった。
実行委員の司会のもと、すぐにみんなが班決めのために歩き回り始めた。
「円っ!」
「結!班…一緒に!」
「もちろん!楽しみだね、修学旅行。」
結が同じ班になってくれてひとまず安心する。
でも、もう一人女子の確保と男子との合併が問題だ。
男子…。
なんとなく宮の方に視線を向けると、
周りは既に女子の壁。
宮は無理だろうな。
きっと平塚くんも同じ班なんだろう。
そりゃ人気だ。
そんなことを考えていると、
後ろからちょんと肩をつつかれた。
振り返ると、クラスで大人しい女の子。
名前は…
「篠原さん?」
結がそう呼んで、思い出した。
そうそう。篠原さん。
「あの…二人だよね?
班…入れてくれない?」
「えっ、うん…。」
「もちろんいいよ!」
私以外にもこんな暗い子いたんだ。(失礼)
小柄で、メガネかけて俯いて、
声も小さく自信がなさそうだ。
私が言うのもなんだけどね。
「ありがとう、佐竹さん、高山さん。」
「下の名前でいいよ!」
結がそう言うと、意外にも穏やかな笑顔を浮かべたからビックリした。
やっぱり…
私と同じで暗いなんてひどいこと思ってしまった。
笑えば優しそうな、雰囲気の柔らかい子だ。
私と違って素直で可愛い。
自分の第一印象での偏見を反省した。
「問題は男子との合併だよね…。
私は是非とも円のために宮くんたちと一緒になりたいんだけどさ。」
「え、円ちゃんって…
宮くんのこと…?」
「いや、違うから。
結、ふざけてないでちゃんと探すよ。
宮なんかあの人気だよ?無理でしょ。」
そう言って再び宮たちの方を見ると、
思いがけず目が合ってしまった。
「え、こっち見てない?」
結がいきなり焦り始める。
「見てるね。」
「えっ、まさか…!」
その『まさか』。
宮は女の子の壁を振り切って、
私たちの方に近づいてきた。
「なっ、え…!」
「嘘。あの宮くんが…?」
結と篠原さんはあたふたしている。
さすがの私もちょっと心臓がざわつく。
いや、女子たちに注目されてるからだろうけどね。
「円。」
「何。」
平静を装って、顔色ひとつ変えない私を見て宮はフッと笑った。
「もう一人篠原さん?」
にっこりと尋ねると、
篠原さんはうんうんと何度も頷いた。
「そっか!円たちと組むのも楽しそう。
な?徹。」
後ろに立っていた平塚くんは
「そうだねぇ」
と笑顔で肯定する。
女子の「やだ~」という悲鳴が耳に入った。
宮は私の耳元に顔を寄せ、呟いた。
「一緒の班になってやるよ。
そのくま、どうせ眠れてないんだろ?
俺が必要なんじゃない?」
「……。」
宮は私から距離をとり、
また爽やかスマイルを浮かべた。
なんで…こんなにイライラするんだろう。
上から目線なのはいつもだし、
猫かぶりもちゃんと理由があるってわかったのに。
女子に囲まれて平然として、
それを振り払って私のところに来る宮が…
なんかやだ。
「宮は私たちと組みたいの?」
私の予想外の返答に、
宮は一瞬不快そうな顔を見せた。
「"円は"俺たちと組みたいだろ?」
「別に。」
「えっ…」
「な、何言ってるの?円!
宮くんたちと同じ班とか最高でしょ!」
「最高?別に普通だよ。
宮は私の友達だけど、
結と組めたことの方が私は嬉しい。」
宮は相変わらず笑顔を浮かべているけれど、
その口許はひくついていた。
「それに、その上から目線の態度が気にくわない。」
「上から目線のつもりはないけどな…。」
どの口が言うか!
イライラが沸点に近づき、
私は宮のネクタイを引っ張った。
周りの女子からまた悲鳴が上がった。
私は宮にだけ聞こえる声で言った。
「何たくらんでんの?」
「たくらんでねぇよ。
他の女よりはお前らの方がいいっつってんの。」
「全員があんたを好きだなんてうぬぼれない方がいいよ。」
「偉そうに。」
「偉いよ。あんたの弱味、握ってるからね。」
「この、性格ブス。」
「なんとでも言えば。
あたしらと組みたいなら、ちゃんとお願いしてみなよ。それが普通でしょ?」
ネクタイを離すと、宮は悔しそうな表情を浮かべていた。