不眠姫と腹黒王子




「わかったよ、"円"!
とっととお前の不眠症とやら、治してやるよ。」

「頼もしい。
よろしくね、"宮"。」

「…俺名前呼びなのに、
お前は名字呼び捨てかよ。」

「悪い?」

「いや、いいけど。」


円は落ち着いた笑顔を浮かべると、
「帰ろ。」
と、置いてあった荷物を持ち上げた。


その笑顔はやはり整っていて、
美人の名残を感じた。


明日からのこいつとの契約関係。

いろいろ不安要素はあるけど、
俺の穏やかな高校生活のためにも
とっととこいつとの関わりを切る。


俺は決意を固め、
夕日の伸びる帰り道を円から随分離れた位置を歩いた。


別れ際、
「私は宮の爽やか王子様キャラより、
今の腹黒い方が好きだな。」
と、円が呟いた。


「あっそ」と俺は素っ気ない返事をし、
自分の電車に乗り込んだ。


そんなセリフで喜んだりしない。

顔が熱を持ってるのも、5月だから。
暑くなってきたから。


そう言い聞かせる俺の鼓動は、
何かの始まりを告げるように俺の中で響いていた。