平塚くんは部活が2日間とも入っているという理由から、もともと誘いを断っていた。

結はもちろん即答でOK。

宮は最初は女2対男1という状況から断ろうとしていたけれど、
私と結のしつこい勧誘に渋々折れた。


そうして迎えた土曜日の今日…

***

「お茶…。はい。」
「あ、どうも…。」

私と宮の間には気まずい空気が流れている。
というか、宮が流している。

「宮が持ってきてくれたケーキも、食べよ。」
「3個買ってきちゃったんだけど…。」
「じゃあ今日の夜も食べよっか。」
「っ…」
「半分こしよ。あ、DVDでも見る?」

宮は小さくため息をつき、頭をぐしゃぐしゃにすると、真剣な顔で私に言った。

「今日は帰る。
いても夕飯まで。」
「えっ…」

予想外の発言に、私の口から自分でもわかるくらい悲しそうな声が出た。

「状況が状況だ。」
「どうして…」
「わかんだろ。」

宮は気まずそうに私から目をそらす。

どうして…いつも私から目をそらすの?

もしかして宮は私の気持ちに気づいているんだろうか。それで、迷惑で…
それとも、私と二人でいることが嫌になったんじゃ…。

「わ、私何かした…?」
「してねぇよ。」
「私、今日すごい楽しみで…
夜、宮と一緒にいられたら何か変わるかもって。」
「二人きりはダメだ。」

私の目頭が少し熱くなる。
こんなにしつこくするのは面倒なヤツだろうか。
でも…


「私、宮になら何されてもいいんだってば。」

「っ、だから…っ」

宮は私の顔を見て、怒鳴るのをやめた。

「うっ…宮…」

「ちょ、なに泣いて…」

「やだよ…っ、夜に一人はやだ。」

お父さんの前では張れていた虚勢も、
宮の前ではいとも簡単に崩れてしまう。

本当は嫌だった。
この家で、夜を一人で迎えることが。
私以外の誰かがいてほしい。
怖い。漠然と何かが怖い。

「円…」
「寝室も別でいい。
話してくれなくてもいい。
この家にいてよ…。」
「…」
「お願い…っ、
怖いの…。」

私が泣きながら頭を下げると、
宮は優しく肩を掴んで私を起こした。

「そんなに泣くな。…わかったよ。」
「ごめん…なさい。」

宮は私の涙を自分の袖で拭うと、
何かを考えるように遠くを見た。


「…円。」
「っ、何?」

宮は険しい顔で私を見ている。

「やっぱなんでもない。
ケーキ食お。DVDはアクション系がいい。」
「うん!」

私が涙を止めて、嬉しそうに頷くと、
宮の表情も綻んだ。