二人が話しているのに、私はまだ緊張していて、黙って聞くしかなかった。


「ヒナ」


 彼に名前を呼ばれて、私はゆっくりと顔を上げる。彼の優しい表情に、どこか安心した。


「こうやって話を聞きに来たってことは、自分の存在意義でも知りたくなった?」


 首を縦に振る。


「そのことなんだけど、もしかしてヒナはハルさんのつらいことを代わりに経験してたりする?」
「すごいな。そこまでたどり着いたのか。まあ……ありえないと思うかもしれないけど、実際に起こってるんだ。信じるしかない」


 ハルの身内である彼の言葉を聞いても、私もアキもその事実を受け止めきれなかった。
 そんな非現実的なこと……


「ハルが精神的ダメージを負うと、少し意識が朦朧として、はっきりしたときにはヒナになる」


 それが人格の入れ替わりということらしい。


「元に戻るのは?」
「ヒナが少しでも幸せを感じたとき。もしくはその嫌なことを忘れたとき。寝て起きたら戻る」


 アキの質問に、彼は落ち着いて答える。


 そうか……だから私には、幸せな記憶がなかった……


「ヒナ、大丈夫?」


 現実を受け止めきれていなかったら、アキが俯く私の顔を覗き込んできた。
 はじめはあんなに敵意をむき出しにしてきたのに、今はこんなに優しいなんて……少し信じられない。嬉しいけれど。