本格的な夏のシーズンを迎え、恋し浜はたくさんの観光客や海水浴客で連日大いに賑わいを見せるようになっていた。


 野乃の発案で、今年は恋し浜海水浴場に直接出向いて冷たいコーヒーを売ろうということになった渉は、店内のお客様への対応に、海水浴場のお客様への対応と、目が回るほど忙しい。


 おかげさまで売り上げは去年の今時分とは比べ物にならないほど上がっている。いや、店をはじめてからの最高記録を毎日更新中だ。


 ――が。


「ごめん野乃ちゃん。ちょっとだけ……一瞬だけでいいから休ませて……」


 リンリン、とドアベルを鳴らして売り子から戻ってきた野乃に、渉はへろへろの笑顔で頼み込む。


 ずっとコーヒーばかりを淹れ続けているので、カウンターの内側は戦場だ。元樹君たちが手伝ってくれる日もあるが、あいにく今日は三人揃って補講で壊滅的に人手が足りない。


 どうやら三人は、それぞれにうんと苦手な教科があるらしい。テスト前にあれだけ額を突き合わせて勉強していたのに、その努力は点数に現れてくれなかったようだ。