五月の薫風が爽やかに木々の枝葉を揺らす頃。新緑の間を吹いてくる、その快い風に黒い髪を遊ばせながら、外舘《そとだて》渉《わたる》はホウキとちり取りを手に店先の掃除に勤しんでいた。
掃除はいつも、カウンターの中や流し台、仕事道具であるコーヒーミルやコーヒーカップ、店内の床に客席テーブルや窓はもちろんのこと、椅子の裏まで入念にしている。
けれど今日からは遠縁の親戚にあたる宮内野乃《みやうちのの》が、店舗兼住宅である【恋し浜珈琲店】で下宿をはじめることになっている。さらに入念に掃除しておくに越したことはない。
高校二年生、誕生日は十月の終わりだそうだから、まだ十六歳。
そんな年頃の女の子を藪から棒に下宿させてほしいと頼まれたときは、滅多に声を張ったりしない渉もさすがに「ええっ?」と電話口で大きな声を出してしまった。
しかし、野乃の下宿を頼んできた遠縁の叔父の話によると、理由は話さないからわからないが高校に入学して半年ほどした頃から急に不登校になってしまい、野乃の父親である叔父も、母親も、どうしたらいいかわからない状況がここ半年ほど、ずっと続いていたのだという。
掃除はいつも、カウンターの中や流し台、仕事道具であるコーヒーミルやコーヒーカップ、店内の床に客席テーブルや窓はもちろんのこと、椅子の裏まで入念にしている。
けれど今日からは遠縁の親戚にあたる宮内野乃《みやうちのの》が、店舗兼住宅である【恋し浜珈琲店】で下宿をはじめることになっている。さらに入念に掃除しておくに越したことはない。
高校二年生、誕生日は十月の終わりだそうだから、まだ十六歳。
そんな年頃の女の子を藪から棒に下宿させてほしいと頼まれたときは、滅多に声を張ったりしない渉もさすがに「ええっ?」と電話口で大きな声を出してしまった。
しかし、野乃の下宿を頼んできた遠縁の叔父の話によると、理由は話さないからわからないが高校に入学して半年ほどした頃から急に不登校になってしまい、野乃の父親である叔父も、母親も、どうしたらいいかわからない状況がここ半年ほど、ずっと続いていたのだという。