悠馬は実際、けっこうモテる。

 ずば抜けて容姿がいいというわけではないけれど、気さくで明るい人柄が男女ともから好かれていて、しかも、ひとたび剣道着に身を包み、面をつけて竹刀を握れば、とたんに雰囲気が変わって、めちゃめちゃ格好よくなるのだ。ギャップ萌えというやつだ。

 つくづくタチが悪いこと、この上ない。


 性格がよくてギャップもあるとか、少女漫画で言うところの王道の王子様か。

 帰宅部女子の中には毎日のように第二体育館の武道場に見学に行き、悠馬の練習風景にきゃーきゃーと黄色い声を上げ、練習試合も見に行く熱心な女子生徒もいると聞くから、その人気ぶりは火を見るよりも明らかだ。


 それくらい悠馬はモテる。バレンタインより重要な夜行遠足が十日後に差し迫っている今なら、勝負をかけに行く女子も中にはきっといるだろう。そういうわけで、香魚の本命はもとから競争率が高いのが現状なのだ。


「もう。またそんなこと言って。去年は本命をもらっても誰にもりんごを返さなかったみたいだけど、今年はどうなるかわかんないんだよ? 噂では一年の女子マネといい感じだって聞くし、そしたらいよいよ、渡せるチャンスもなくなっちゃうじゃん。香魚の気持ちもわかるけど、もうちょっと頑張んなよ」

「……」