自分の本命の相手が、本命お守りを何個ももらうような人気のある男子だったり、完歩率五十パーセントという過酷さゆえに途中リタイヤを余儀なくされてりんごがもらえなかったりと、お守りをもらう男子のほうにも、状況に応じてりんごを返せない理由が発生する。

 また、アップルパイを一緒に食べれば自動的にカップルになれるというわけではないのも、この行事のある意味、残酷と呼べる部分である。

 香魚にはよくわからないが、きっとそういうことだったのだろう。過去には三年連続で同じ男子生徒に本命お守りを渡し、三度目でようやくアップルパイを一緒に食べることに成功したが、それっきりなにもなかった、というなんとも悲しい結末を迎えた先輩もいたというから、なかなかシビアな世界だ。


 まさに青春。まさに命がけ。

 蓮高伝統の夜行遠足は、そうやって幾多の汗と笑顔と失恋の上に、今年も無事、開催される運びとなっているのだった。


「今年こそ渡しなよ、って……。優ちゃんは軽く言うけど、こっちは命がけなんだよ。そう簡単に渡せたら苦労はしないよ」


 夜行遠足のあらましを思い出し、香魚は自分の両腕を抱いてぶるりと身震いした。