誰がはじめたものなのか、いつからそうなのかは香魚にもわからないが、夜行遠足には意中の相手に赤のギンガムチェックのお守りを渡すというのが、蓮高女子の伝統になっている。しかも手作りなのだから、どれだけ本気かが嫌でも相手に伝わるのである。


 それともうひとつ。

 お守りといえばりんご、というのも、よく知られている伝統だ。


 男子の中で完歩できた生徒だけがもらえるそのりんごは、過酷な道のりに反して、たったのひとつ。それを見事ゲットし、後日、お守りをくれた女子にお礼として渡すのが、蓮高男子のホワイトデーのお返し、ということになる。そして女子は、そのりんごのお礼にアップルパイを焼き、一緒に食べるのだ。


 なんて胸キュンする行事なんだろう!

 小学生のときにたまたま知り、以来、漠然とした憧れは持っていた香魚だったが、いざ自分がその年齢になって実際に体験する側になると、その憧れはますます強くなっていくばかりだった。悠馬と同じ高校まで追いかけてきたのだから、なおさらである。


 ただ、本命のお守りを渡せば必ずりんごが返ってくるというわけではないのが、この行事の切ないところだ。