計算高くてなにが悪いんだ。

 たった今、突き返されたばかりの本命お守りをべしっと壁に叩きつけながら、宮野詩《みやのうた》は「ああっー!」と大声で叫んでしまいそうになるのを必死にこらえ、鼻で荒く息を吐いて床に転がったそれを乱雑に拾い上げた。


『お前、それ計算してやってんだろ。顔は可愛いんだけど、宮野はちょっとナイわ』

 さかのぼること十数分前。そうひどく真顔で言い放ったのは、絶対こいつ私のこと好きだわ、とずいぶん前から目をつけていた、同じクラスの篠宮晄汰郎《しのみやこうたろう》だった。


 硬派な名前らしく、性格も硬派というか、普段は物静かだけれど、いざというときに一本芯の通った部分を発揮する彼は、クラスの女子の間で密かな人気があり、男子の中でも一目置かれる存在、まとめ役だ。

 しかも、やや伝わりにくいところもあるものの、誰にでも分け隔てなく優しいとくれば、本気で好きになる女子が出てきても、ちっとも不思議じゃない。


 あとから気づく優しさが恋心を加速させるタイプ、とでも言ったらいいのだろうか。ぶっきらぼうな優しさが逆にいい! と心を鷲掴まれる女子は、実はけっこう多い。