「この間までは暑かったから、Tシャツにハーパンだったもんなあ。秋って最高」


 またひとりごちて、校門前をだらだらと帰っていく帰宅部の生徒を追い抜いていく隊列を見送る。

「蓮高、ファイ!」「オー!」という、野球部にも引けを取らない掛け声を響かせながら校門を駆けていく黒い隊列は、校門前のなだらかだがそこそこ長い坂道を颯爽と下り、あっという間に小さくなっていく。


 彼らが進む両隣には黄金色《こがねいろ》に色づきはじめた稲穂が重そうに首《こうべ》を垂れ、稲刈り時を待っている。そこから少し視線を前方に向ければ、まだ夏の名残りが残る山の緑が、青空との絶妙なコントラストを醸し出していた。


 空には柔らかそうな雲が泳ぎ、ピチチチと鳥が飛んでいく。もっと上空には鷹《たか》だか鳶《とび》だかが大きな翼を広げて旋回していて、のどかだなあと、この時季は特に香魚はそう思う。


 どこにでもある地方の田舎風景。セーラー服はかろうじてまだ夏服だが、そろそろ朝夕は肌寒くなってきたし、ちょっとダサい。ほかの女子がそうしているように、香魚も紺色やキャメル色をしたダボダボのカーディガンを羽織ってはいるけれど、なんだか自分だけダサさが増幅されたような気がするのは、気のせいだろうか。


 学校にいる間はなぜか妙に落ち着かない気分になってしまうのもまた、この時季特有の香魚の心理状態だ。