1.注意書き

私が初めてバイトをした診療所での出来事です。

全ての診療所や医療関係者がこういう訳ではありません。

私の感じたまま体験したままを書きますので、ご了承下さい。

2.舞台設定

診療所:個人経営 平屋2階建て
無床 院内処方

科目:内科と小児科

場所:駅前で人通りは多い方
周りに他の医療機関は無し

混み具合:少ない時と多い時の差が激しいが、予防接種の時期以外はガラガラ。

その他:駅前なので初めての人が僅かに来るが、その後は滅多に来ない。
来院するのは先代から通院している高齢者ばかりである。

3.登場人物

・咲茱亜(医療事務員/私)
21歳 女性 医療事務初バイト

・田中(医院長)
50歳 男性 医師 診療所の2代目

・佐藤(看護師)
60歳 女性 診療所唯一の看護師

・鈴木(医療事務員1)
35歳 女性 独身 直属上司

・高橋(医療事務員2)
29歳 女性 新婚 妊娠数ヶ月

4.就職活動

医療事務の専門学校に入学し、資格はたくさん取得したものの在学中に内定が取れずに既卒で就職活動。

医療事務は、学校就職以外だと経験者優遇の為厳しく不合格が続き半年経過。(在学中の実習は実務経験にはならない)

正社員希望だったが、とにかく働いて経験を積む為にバイトも視野に入れて探す。

5.就職経緯

応募と条件

家の最寄り駅から1駅で通勤時間15分の距離に医療事務のバイトの求人を見付けて応募する。

〈条件〉
職種:医療事務
仕事内容:受付・調剤補助・カルテ整理等
資格等:PC操作(基本)

就業時間:月~水・金・土
09:00~13:00/18:00~20:00
(土曜日は午前のみ)

休診日:木・土(午後)・日・祝

時給:800円
その他:曜日時間は応相談
面接時、簡単な一般常識の筆記試験有り

試験と面接

受付で鈴木さんに出迎えられ、「スーツで来た人なんて初めてよ。ビックリしたわ。」と驚かれながら診察室に通される。

面接前に筆記試験。内容は小中学校程度の漢字の読み書き50問。理由は【過去に読み書き出来ない人が居たから】だという。

試験を終え程なくして、医院長の田中医師が来て面接開始。

「薬を扱うからしっかり確認作業出来る?」
『はい、出来ます。』
「分かりました。では、面接は終わりです。合否は追って連絡します。今日はありがとうございました。」
『ありがとうございました。』

面接終了、所要時間5分足らず。

合否と説明

面接から3日後、「咲茱亜さんを採用したいと思います。勤務時間など説明しますので、明日来ていただけますか?」と田中医師から電話連絡あり。


翌日、「勤務時間や曜日は募集内容通りです。事務の事は鈴木さんか高橋さんに聞いて下さい。では来週からお願いします。」と田中医師から説明を受けた後、院内を簡単に案内され制服を貰いその日は帰宅する。


ようやく医療機関で働ける事に大きな期待とやる気を抱いて、初日を迎えた――

6.仕事開始

初日と予感

勤務初日、田中医師から紹介されて『今日から働かせていただく咲茱亜です。宜しくお願いします。』と先輩方に挨拶。


「はい宜しく。」と鈴木さん。
「宜しくね。」と高橋さん。
「………。(会釈)」と佐藤さん。





―――のちに後悔する。
緊張しすぎて些細な違和感に気づけなかった事に。

まさかこの人達に振り回されるなんて、この時は夢にも思わなかったのだから――

7.仕事内容

朝の準備

《朝の準備は約20分》

新人で尚且つ鍵を渡されていないので先輩方が来るのを待つのだが、どんなに早くても鍵が開くのが診療開始20分前。
(受付はシャッターが開くのと同時である)



30分前:出勤し先輩方を待つ。

20分前:佐藤さんが出勤し、鍵とシャッターを開ける。
パソコン・受付・待合室・診察室などを私が、医師看護師しか触れないものだけを佐藤さんが準備。その後制服に着替える。
その間に患者さんが来院されたら受付する。

10分前:鈴木さんが出勤したら受付を離れ診療所回りのゴミ拾い。

5分前:ゴミ拾いを終えるぐらいに高橋さんが出勤。

2分前:田中医師が出勤し、そのまま診療開始。

パソコン

《パソコンは2台のみ》

1台は医事コン(診療報酬の計算専用)で医療事務員用。
もう1台はデスクトップ型(ブラウン管)でフロッピーを読み込む以外は使ってない。(因みに何を読み込んでるかは不明)

診療所のIT化が義務化されているが、猶予期間ギリギリまで新しくしない。理由は【田中医師がPC嫌いな上に使いこなせる人間が居ないから】らしい。

受付

《受付カウンターからは患者さんの顔が見えない》

本来座った状態で使用する高さなのだが、椅子を置けるスペースが無く立ったままでの受付。
その為、覗き込まないとお互い顔が見えない。



《患者さんの殆どが受付を素通り》

診察券を出す必要が無い為に、患者さんは挨拶か会釈のみ。素通りなら気付かない可能性大だけど、待合室は更に受付から見えにくい場所にあるので確認も出来にくい。
常に受付に気を配らないといけない為、何事も集中力が半減する。

《診察券が無い》

即ち顔パスである。
なので、挨拶と同時に誰なのかを瞬時に把握しカルテを出さなければならない。

因みに、顔・名前(フルネーム)・性別・保険区分・前回の来院日を2回の対応で完璧に覚えなければ怒鳴られる。



《紙に名前を書いてもらってはいけない》

診察券が無い為、順番を間違わない様に名前を書いてもらう紙を受付に置いてあるが、書いてもらうと怒られる。

手が離せない時でも、顔を見て順番を把握し後で事務員側が書くのが普通であるという。

《患者さんに名前を聞いてはいけない》

名前と顔が分かるのは初対面の患者さんが来た時で、名前は先輩方が耳打ちするのみ。
2回目に応対した時に分からず患者さんに名前を聞くと「この人前に来たでしょ。分かって当然の事だから。いつもそれ(顔パス)なのに何を聞いてるのかと不信感持たれるよ。」と患者さんの目の前で鈴木さんに怒鳴られる。



《保険証は記載事項変更の有無の確認のみ》

先輩方曰く、カルテを出す時に必要なのは患者さんの顔で、保険証を見てカルテを出すなどあり得ないとの事。

電話

《声だけで全てを把握しなければならない》

下の名前(同姓同名の場合は漢字や生年月日も)や聞き直したり確認の為に復唱したりしていると、「名前なんて聞いたら失礼でしょ!もういいから、時間かかりすぎ。」と鈴木さんに怒鳴られ、話してる途中で受話器を奪われる。



《目の前の患者さんより電話優先》

受付で応対している時に電話が鳴ると、「電話が鳴ってる。」と鈴木さんが電話の真横で言い、更に患者さんが驚いているにも関わらず高橋さんは「ここはいいから電話取って。」と指示をし、患者さんに話し始める。
患者さんは戸惑っているがお構い無しである。



《錠剤・カプセル》

大まかに分類して棚に収納している中から必要分取り出し、薬の説明を書いた紙を挟み輪ゴムでくくる。

※薬の説明の紙(薬剤情報)
薬名・効能・飲む錠数と回数を書いた小さい紙



《粉薬》

日数分出す。少なくなったら粉薬を計量,調合し包装して置いておく。



《水薬》

液体薬と(苦い為飲みやすくするのに)甘味料と水を調合し容器に入れ、名前シールを貼る。



《塗り薬》

容器に空気が入らない様に入れる。入れたヘラは洗わずティッシュで拭く。



《その他外用薬》

カルテに書いてある分出す。専用の袋があるものはそれに入れる。

《薬の調合は1人で早く完璧に》

水薬は錠剤とは違いその場で(場合によっては粉薬も)調合するので、患者さんを待たせない様に早く(5分以内で)する。



《薬の名前・効能は1度出したら完璧に覚える》

患者さんに飲み方と一緒に説明する為、1度出した薬は完璧に覚える。2回目に出した時にどもったりするとその場で怒られる。

会計

《レジは無く電卓で計算》

医事コンで領収書は出てくるものの、レジが無いので会計は電卓でする。
その為、計算ミスが多々あるが【人間のする事だから仕方がない】という考えである。

帰りの準備

《帰りの準備は約10分》

患者さんが2~3人になったら片付け始める。最後の患者さんが帰ったらすぐにシャッターを閉める。

お金を集計する。

冷暖房(扇風機とストーブ)と電気を切る。

私が片付けをしてる間に先輩方は先に着替えて談笑しているので、急いで着替えて鍵を閉めてもらい帰宅。

掃除

週1回、土曜日の診療が終わった13時から掃除をする。

《診療所回り》

ゴミを拾い、ホースで側溝に水を流して埃を洗い流す。



《出入口》

箒で掃いてからモップで拭き、靴箱は濡れ雑巾で拭く。



《待合室・受付・診察室》

掃除機を掛けながら玩具や本を片付けて、椅子やカウンターを雑巾で拭く。



《流し台》

水薬や粉薬を作る時に使う所なので、食器洗い用洗剤でシンクとゴミ受けを丁寧に洗い水気をしっかりと拭き取る。

《トイレ》

和式が待合室と診察室に1ヶ所ずつ、洋式が受付奥に1ヶ所の計3ヶ所。



1.スリッパやトイレットペーパーなどを濡れない所へ置く。

2.(破れない様に気を付けながら)薄いビニール手袋をして、ホースで水と洗剤を撒く。便器は小さいブラシ・床は大きいブラシで擦りその後ホースの水で洗い流す。

3.換気扇が壊れていて尚且つ風通しが悪くそのままだと乾かない為、雑巾で壁と床をしっかりと拭く。

4.スリッパやトイレットペーパーを元に戻す。

5.鈴木さんに見てもらいOKだったら終わり。駄目だったらやり直し。

私が掃除をしている間、先輩方は…



《田中医師》
後はお願いしますと言い帰宅。



《佐藤さん》
注射器など自分しか触れない物を片付けて、終わると帰宅。
(挨拶が無い為、いつもいつの間にか居ない)



《鈴木さんと高橋さん》

お金の集計。
それが終わると雑談しながら昼食。その後、レセプト点検。

8.しきたり

先輩方の常識

《挨拶は絶対にしない》

挨拶は患者さんからしてもらった時のみ。

私が毎日挨拶をしても、先輩方からは誰一人として返して貰えなかった。(患者さんが居ない静かな時でさえ)



《結果正しくても方法が違えば間違い》

メモに書いたり復習したりしながら覚えていたが、【教えてない事でも一々聞かないで、流れから察してしなさい。】と言われたので先読みしてしたら、間違ってないのに先輩方とやり方が違う為に怒られる。

《先輩方より先に帰ってはいけない》

患者さんが少なく尚且つアクシデントも無く、先輩方より早く掃除が終わった時がたった1度だけあったのだが…



『こちらは終わりましたので、何か手伝う事はないでしょうか?』
「手伝うも何ももう終わりだし、一人で出来る事しかないからもういい。」
『分かりました。すみませんが、お先に失礼します。』
「はぁ?私がまだ掃除してるのに先に帰るの?!普通は待つものでしょ?!貴女おかしい。常識的に考えて!」


……物凄く怒鳴られたのだ。

手伝いはいらないし、する事もないけど終わるまで帰らずに待たなければならない様で、その後30分程待って帰宅。


但し、自分達が早く終わった場合はそのまま帰宅する。挨拶がないので、いつの間にか私1人になっているのが日常茶飯事である。

時間外労働

《お給料は固定時間分のみ》

土曜日の掃除は13時からで、早くても1時間半、患者さんが多く掃除開始時間がずれ込むと2時間以上かかる。

時給ではあるが給与の計算は、求人票に記載されてる勤務時間(09:00~13:00/18:00~20:00)のみで、タイムカード等も無く時間を過ぎればその分は無給である。

《説明会は強制参加》

月に1,2回、診療が終わってから1時間程説明会がある。

説明会とは…
製薬会社の営業さんが新薬を売り込む為に田中医師に治験の結果などを説明する会。

医師にしか分からない薬の説明なのでいなくて良いのだが、何故か強制参加。

9.予感的中

体調と相談

バイトをし始めて、4ヶ月経ったある日…

教えてもらっていない薬の事で手間取ってると、田中医師から「いつになったら一人で出来る様になるの?それではこの仕事は出来ないし合わない。今月で辞めてもらうから。」と怒鳴られる。

更に佐藤さんからは「クビになるより自分から辞めた方がいいんじゃない?それに仕事がここまで出来ないなんて何かの病気なんじゃない?」と言われる。

でも、その時はバイトとはいえ仕事は怒られながら成長するものだと思っていて、やっと就けた職場だった事もあり、ショックを受け頭が真っ白になりながらも『申し訳ありません。でも、辞めたくありません。』と答えた。

初めての仕事が出来ずに怒られるのは当たり前で、就職難の中仕事があるのは有難い事、そう思い直し更に頑張っていた。

しかし、仕事場や仕事の事を考えると
・気持ち悪くなる
・手の震えや頭痛
・怒鳴られると頭が真っ白になり思考も止まり声さえも出ない

そしてたまに動悸もする様になり、余りにも仕事が出来なくて他の診療所ではどうなのかと気になり、匿名で出来る質問サイトで相談することに。

解雇と結果

《解雇から退職》

27日 前述の事を言われる。

29日 田中医師に呼び出され、
「若いから解雇は世間体が悪いでしょ。自己都合にしておいたから。それと制服を返すのは明日で構わないよ。」と退職を言い渡される。

30日 制服と菓子折りを持って退職の挨拶。

相談したのが遅かったのか退職までが早かったのか…

何も分からないまま私の初バイトは4ヶ月で終わりを迎えた。

果たして、相談の結果は――

Q.顔パスは当たり前で名前の確認は失礼なこと?

A.いいえ。馴れ合いによる間違いを無くす為にも必要であり、失礼の意味をはき違えてる。医療従事者として患者に対する責任感が無さすぎ。



Q.事務員が薬を調合するのは?

A.資格を持たない者にさせるのは違法です。本来の医療事務の仕事としての範囲を逸脱して過度な責任を負わせている。大変危険で異常な管理体制である。然るべき所へ相談すべき。



Q.掃除は無給?

A.いいえ。業務に関係ない掃除でもお給料は出ます。

Q.先輩方は私の為に注意してくれている?

A.いいえ。それは注意では無くパワハラと呼ばれるものです。患者の前で怒鳴るなんて言語道断。



Q.体調不良はただの考えすぎ?

A.いいえ。過度のストレスによる仕事への拒絶反応です。



Q.就職出来ただけでも有難い。だから頑張って続けるべき?

A.いいえ。業務も人間関係もこの様な職場は即刻辞める事をお勧めします。


         ………etc.

決着と報告

回答を読みながら、優しさと異常さに涙が溢れる。


【先輩方が言うから正しい。】
そう思い込み回答を見るまでおかしい事に気づかなかった自分の未熟さを酷く痛感した。


然るべき所へ相談した方が良いのではないかと思ったが、そんな所もう関わらない方が良いという結論に達し、紹介元にだけ報告。

この一連の出来事全てに終わりを迎えた瞬間であった。―――

10.あとがき

やっと書き終わりました…!!

文章能力が無い上に纏めるのが苦手で箇条書きみたいになってしまい、大変読み辛かったと思います。
申し訳ありません…(苦笑)

そして、この際なので書いておきます。
私がこの物語を書くきっかけ…というか理由を。

元々、この事を書くつもりはなかったんです。

でも、初めて勤めた所と似ていたという質問サイトの回答や最近テレビなどでブラック企業の特集や実態を見て、就職という大切な人生の節目に関する事の一つの情報として、私が経験した事を一人でも多くの人に知ってもらいたいと思ったので書く決意をし今に至ります。

ただ、架空の名前でしか書けず申し訳ないのですが…

最後になりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m



また、他の物語も読んでいただけたら嬉しいです。



           咲茱亜