吸う。吐く。
吸う。吐く。

祈念が深まる程に、二人の呼吸がシンクロし…時には、鼓動が『重なる』様な錯覚すら覚えた。

共鳴感、若(モ)しくは一体感とも云うべきそれが、ボクを強く後押ししてくれる─…。

「それは、お前の祈り方が、かなり良い線行っているという証拠だよ。」

「でもまだ、ほんの一瞬そう感じるだけなんだ。合わせるタイミングが外れると乗り物酔いをした様になる…ただ…」

「ただ?」

「時々…体の内側が、金色に光る感じがする…。体が浮いている様な…縦に伸びていく様な感覚?」

あぁ、もう!
上手く説明出来ない。
あの不思議な浮遊感を、何と表現すれば良いのだろう?

もどかしさに思わず唇を噛んだら、一慶が、面白そうにフッと笑って言った。

「いいよ。そのまま続けてみろ。」
「でも、上手く説明出来ない。」

「お前が感じたままを、言葉にすれば良い。多少、滅茶苦茶になっても構わない。そうやって、自分が『観(カン)じたもの』を具体的に言葉に表す事が、今のお前には必要なんだ。」

 和らいだ眼差しで彼は言った。
意外な優しさに触れて、ボクの緊張がふと緩む。

「あのね、何て云うのか…。祈っていると、頭と足を同時に引っ張られる様な感じがする時があるんだ。此処ではない、別の何処かに連れて行かれるみたいで…。」

 ボクは、祈りの中で感じた事を、自分の言葉でありのまま伝えた。

「誰かに押さえていて貰わないと、吸い込まれてしまいそうになるんだ。…少し怖い感じがして…どうしても、それ以上先に進めない。」

 気持ちの全てを出し切ると、一慶が小さく微笑んだ。

「順調みたいだな…。それでいいんだ。もう暫く、このまま続けてみよう。お前が感じた『怖さ』は、自分と仏が一体となる事への本能的な『畏《おそ》れ』だ。お前は『仏』を『光』と観《かん》じた。今度、同じ光を見たら、思い切ってその中に飛び込んでみろ。」

「飛び込む?」

「それが、《入我我入(ニュウガカニュウ)》と言われる境地だ。仏とひとつになる事でお前の《金目》も完全に開くと思う。」