真織が、懐から小さな銀の筒を取り出す。
親指程の太さの、ステンレスパイプだ。

 あれは──『笛』?
それを、徐ろに口に咥えてスーッと吹く。

 音は、出なかった。
代わりに、筒の中からスルリと白い煙の塊が滑り落ちた。

 一つ…二つ、三つ。
白い煙玉は、虚ろに宙に漂っている。

「あれが、管狐です。」

蒼摩がボソリと呟いた。

 ──管狐と呼ばれたそれは、虚空でグルグルと旋回を始める。

上に下に、右に左に。
長く尾を曳きながら、三つの煙玉が宙空で絡み合う。

 良く目を凝らして見れば──成程。
あれは、確かに『狐』だ。
三角の耳と、尖がった鼻面。

時々大きく口を開けて、シャアッ!と威嚇の声を挙げる。

 宙にたゆとう管狐達を、愉悦に満ちた眼差しで眺めながら、真織は言った。

「管(クダ)は野狐(ヤコ)よりも、幾分知恵がある。命ずれば、宿主の言う通りに動いてくれます。そう…例えば、こんな風に。」

 言い終わるや、宙に向けて笛を吹いた。
途端に狐達の耳がピクリと動く。
…それが、攻撃の合図だった。

 突如、一匹の管狐がボクに向かって急降下する。

 キィッ!キシャ──!!

大きく開けた口から、恐ろしい咆哮が洩れた。

「ぅわ!」

噛み付かれる!?
ボクは思わず身を竦めた。