呻き声。哭き声、叫び声。

亡者達の叫喚が空間に充ち充ちている。
嘆いているのか、怒っているのか。

そもそも、亡者に『心』が有るのかどうかすら、ボクには解らなかった。

 想像を絶する死者の世界──。

魂は、命の終わりと共に失ってしまうものだと思っていた。

 だが。彼等は死して尚、こうして苦しみ叫び、歩き続けている。

朽ちたその体の何処かに、ほんの僅かでも人間らしい感覚が残っているのか──それとも。生前の感情が、残像の様に焼き付いているのだろうか?

オォォ……
オォォ……

 言葉にならない叫びを上げながら、亡者の群が行く。

重い罪を背負った死者達が、腐敗した肉の塊をズルズルと引き摺りながら、ひたすら《黄泉の国》を目指して移動している。

悪夢の様なその光景を、ボクは真織の腕の隙間から眺めながら歩いた。

《黄泉比良坂》──根の国へ向かう道。
いつか見た地獄絵図そのままの、凄惨で壮絶な場所だ。

 嘗ては人間だった者達が、見るも浅ましい姿に変わり果て、其処ら中を這っている。

肉の削げ落ちた体。
露出した頭蓋骨。

眼窩から抜け落ちた目玉が、ドロリと溶けて顎の先に垂れ下がっている。

 辛うじて皮膚片が張り付いている者もいれば、僅かばかり残った体毛を、突き出た骨の間から、ユラユラと揺らめかせている、骨格標本みたいな者もいた。

腕の無い者。
足を失った者。
頭が半分しか無い者。

 亡者達は皆、体の何処かしらが欠損している。乱れたその姿に、ボクは幾度も吐き気をもよおした──が。

やがて見慣れて、驚かなくなった。

 恐怖に対する感覚が、麻痺してしまったのかも知れない。スプラッター映画を、連続で百万本も観た様な感覚だ。