「陰陽道は、それより後──平安時代に、中国の『陰陽五行』の思想を承(ウ)けて誕生した、日本独自の呪術なんだ。仏教・道教・神道の影響を承けながら、宮廷貴族を中心に広まったんだよ。だから、仏教と同じ真言を用いる術が、沢山ある。今、俺がやったのは『九字切り』と云われるもので、密教でも陰陽道でも、わりとポピュラーに使われている『破邪法』だよ。映画や漫画なんかで、見た事ない?」

「うん、ある…」

 遥の言う様に…『九字』は、意外にも『ポピュラー』な呪文だ。

大昔の忍者映画や時代劇などにも、屡(シバシバ)そういう場面を見掛けるし、一部のコミックやアニメーションでも、登場人物の決め技として使われている。

格好良いイメージもあるし、真言などに比べれば認知度は高いだろう。

 …陰陽師の存在と、同じくらいには…。

 尤(モット)も。
実際に、それを遣(ツカ)う場面に出会(デクワ)したのは、ボクも初めてだ。まるで映画でも見ている様で…未だ何処か、現実感が無い。

 遥は、ボクの理解が追い付くのを待ちながら、順を追って話を続けた。

「他にも、陰陽道には、仏教の影響を強く承けたと思われる点が多々あるんだ。例えば…有名な陰陽師・安倍晴明。彼は、式神として『十二神将』という、仏教の神々を従えたと言われている。そんな風に、陰陽道には、密教の術法を積極的に取り入れる姿勢が伺える。同じ時代に空海や最澄が現れて、密教が急速に広まったからね。影響を受けるのは、当然だったのかも知れないけれど。」